「所得が高い街の不動産は高い」——これは直感的に正しい。そして実際にデータでも裏付けられる。

だが、不動産を売却する人にとって重要なのは「今の価格」ではなく「これからどう動くか」だ。高所得エリアは値上がりしやすいのか? それとも、すでに高値圏にある分、伸びしろは限られるのか?

今回は、e-Stat政府統計の課税所得データ(2023年)と当サイトの成約データ(2019年→2024年の㎡単価変化)を突合分析した。対象は所得データとマンション取引データの両方が揃う183市区町村。

所得TOP20と不動産価格——東京一極集中の構図

まず、1人あたり平均課税所得が高い市区町村と、そのマンション価格を見てみよう。

順位市区町村平均所得㎡単価
(2024年)
5年
価格変化
1東京都 港区1,397万190.6万+46.1%
2東京都 千代田区1,121万166.2万+34.0%
3東京都 渋谷区1,074万165.3万+41.5%
4東京都 中央区781万152.9万+45.5%
5東京都 目黒区717万127.9万+24.4%
6東京都 文京区707万123.2万+23.3%
7兵庫県 芦屋市701万43.1万-1.2%
8東京都 新宿区621万129.5万+24.5%
9東京都 世田谷区620万102.4万+22.4%
10東京都 武蔵野市581万95.9万+23.9%
11東京都 品川区557万127.8万+28.4%
12神奈川県 鎌倉市519万62.2万+45.1%
13東京都 杉並区516万96.2万+15.1%
14東京都 江東区499万104.9万+34.8%
15東京都 豊島区496万112.1万+21.6%
16東京都 三鷹市488万84.2万+24.2%
17東京都 台東区482万107.8万+21.1%
18千葉県 浦安市481万63.2万+19.0%
19東京都 国立市481万67.1万+20.2%
20兵庫県 西宮市476万44.3万+10.6%

東京23区への一極集中

TOP20のうち15が東京都(23区13+多摩2)。残りは芦屋市・西宮市(兵庫)、鎌倉市(神奈川)、浦安市(千葉)のわずか4市。大阪・名古屋・福岡の市区は1つも入っていない。

所得の集中度は凄まじい。1位の港区(1,397万円)は、全国平均(約400万円)の3.5倍。この所得格差が、そのまま不動産価格の格差に反映されている。

「芦屋の例外」——高所得でも値上がりしない街

注目すべきは7位の芦屋市(所得701万円)。TOP10で唯一の関西勢であり、唯一の価格下落エリア(-1.2%)だ。

芦屋市は古くからの高級住宅地で、所得水準は東京の区に匹敵する。しかし㎡単価43万円は、東京の同所得帯(100万円超)の半分以下。そして5年間の価格変化もマイナス。「お金持ちの街」であることと「不動産が値上がりする街」は別の話だということを、芦屋は端的に示している。

所得が低い街のマンション市場

反対に、所得が低い側も見てみよう。マンション取引が年間30件以上ある市区町村のうち、所得が低い方から20都市を並べた。

順位市区町村平均所得㎡単価
(2024年)
5年
価格変化
1大分県 別府市294万25.7万+57.6%
2長崎県 佐世保市298万24.0万-3.8%
3新潟県 長岡市303万26.6万+64.2%
4北海道 函館市304万15.0万+17.5%
5山口県 下関市306万17.9万-9.8%
6奈良県 大和高田市310万16.6万+19.7%
7鳥取県 米子市312万20.1万-1.3%
8長崎県 長崎市312万33.6万+9.5%
9秋田県 秋田市313万20.2万+0.2%
10大阪府 門真市314万32.1万+0.5%
11宮崎県 宮崎市316万26.6万+22.7%
12山口県 山口市322万23.1万+12.1%
13鹿児島県 鹿児島市323万32.4万+21.0%
14福島県 郡山市323万22.0万-8.2%
15大阪府 貝塚市324万13.6万+12.6%
16大阪府 大東市325万29.7万+14.9%
17埼玉県 狭山市326万13.1万-16.7%
18大阪府 松原市327万23.3万+12.6%
19埼玉県 春日部市328万20.1万+8.9%
20岡山県 倉敷市328万29.5万+18.3%

興味深いのは、所得が低い街でも大半が価格上昇していること。20都市中15都市が5年間で上昇した。しかも別府市(+57.6%)や長岡市(+64.2%)は、港区(+46.1%)を上回る上昇率だ。

一方で、下関市(-9.8%)、狭山市(-16.7%)、郡山市(-8.2%)のように下落しているエリアも散見される。所得が低い街の不動産は「当たり外れ」が大きい。

核心——2つの相関係数が語る「不都合な真実」

ここからが、この記事の核心だ。183市区町村のデータから、2つの相関を計算した。

所得 × マンション価格(183市区町村)

所得水準 × 価格水準
0.848
非常に強い正の相関
所得水準 × 価格変化率
0.255
弱い正の相関
つまり
高所得エリアの不動産は「高い」が、「最も値上がりする」とは限らない

相関係数0.848——所得と価格は連動する

所得水準と2024年時点の㎡単価の相関は0.848。統計学的には「非常に強い正の相関」だ。所得が高いエリアほど不動産が高いという直感は、データで完全に裏付けられる。

これは当然と言えば当然だ。高所得者が住みたいエリアに需要が集中し、価格が押し上げられる。そしてその高い不動産を買える層がさらに流入する——正のフィードバックループが働いている。

相関係数0.255——所得は値上がりを予測しない

しかし、所得水準と5年間の価格変化率の相関は0.255。「弱い正の相関」に過ぎない。

なぜか。高所得エリアはすでに高値圏にあり、上昇の「天井」に近い。一方、中所得〜低所得エリアには「伸びしろ」がある。前回のマンション価格上昇率ランキングで1位だった流山市(+99.1%)は、所得415万円と中間層のエリアだ。

所得層別に見るマンション市場

183市区町村を所得水準で4グループに分けて分析した。

所得グループ該当数平均㎡単価
(2024年)
平均
変化率
上昇下落
500万円以上13121.8万+28.7%121
400〜500万円3762.9万+26.2%370
350〜400万円7335.2万+18.7%676
350万円未満6024.6万+13.6%4713

3つのポイント

1. 価格水準は所得に比例する

500万円以上グループの平均㎡単価121.8万円に対し、350万円未満は24.6万円。約5倍の格差がある。所得格差がそのまま不動産価格格差に増幅されている。

2. 400〜500万円ゾーンが「全員勝ち」

37都市中37都市が価格上昇。下落ゼロ。横浜市・さいたま市・千葉市といった首都圏衛星都市や、流山市・柏市といった成長エリアが含まれる。「中の上」所得のベッドタウンが、この5年間で最も安定的に値上がりした

3. 低所得ほどバラつきが大きい

350万円未満では60都市中13都市(21.7%)が価格下落。一方で長岡市+64.2%、別府市+57.6%のように大幅上昇する都市もある。低所得エリアは「平均」で語れない。個別の事情——再開発、観光需要、交通アクセス——が命運を分ける。

不動産の「安全性」を重視するなら400〜500万円所得ゾーンの首都圏衛星都市が注目に値する。過去5年は全都市が上昇しており、価格水準も60万円台と流動性が高い。一方、350万円未満のエリアは上昇時のリターンも大きいが、下落リスクも2割以上ある。

政令指定都市の所得と不動産価格

より身近な比較として、主要16都市の所得と不動産価格を並べた。

順位都市平均所得㎡単価
(2024年)
5年
変化率
1東京23区539万132.5万+32.3%
2横浜市437万67.3万+21.3%
3名古屋市425万48.0万+19.8%
4さいたま市423万57.8万+35.9%
5千葉市398万33.3万+37.4%
6京都市388万55.7万+12.7%
7神戸市387万35.9万+16.8%
8大阪市373万66.2万+31.9%
9広島市368万37.3万+13.3%
10仙台市365万34.8万+27.3%
11静岡市356万33.8万+30.4%
12岡山市352万29.3万+14.3%
13札幌市341万29.5万+21.4%
14熊本市338万26.2万+3.2%
15北九州市335万18.8万+1.2%
16新潟市320万23.9万+12.4%

この表から読み取れることは明快だ。

所得と価格水準はほぼ連動する。東京23区(539万/132.5万㎡)と北九州市(335万/18.8万㎡)の価格差は7倍。所得差(1.6倍)を遥かに上回る開きだ。

しかし変化率は別の論理で動く。所得4位のさいたま市が+35.9%、5位の千葉市が+37.4%と、横浜市(+21.3%)や名古屋市(+19.8%)を上回っている。首都圏の「次の成長圏」に資金が流入している構図だ。

逆に、神戸市(所得387万、+16.8%)は隣の大阪市(所得373万、+31.9%)にダブルスコアの差をつけられている。前回の深掘り記事で分析した通り、転出超過ワースト1の影響が価格にも表れている。

価格上昇率TOP15——「値上がりする街」の所得事情

最後に、値上がり率の上位から見た「所得との関係」を確認しよう。

順位市区町村価格変化平均所得所得順位
(183中)
1千葉県 流山市+99.1%415万44位
2新潟県 長岡市+64.2%303万180位
3大分県 別府市+57.6%294万183位
4神奈川県 逗子市+55.1%465万25位
5千葉県 印西市+52.4%399万52位
6東京都 国分寺市+51.2%469万22位
7千葉県 柏市+47.6%388万62位
8東京都 港区+46.1%1,397万1位
9東京都 中央区+45.5%781万4位
10神奈川県 鎌倉市+45.1%519万12位
11東京都 狛江市+44.0%428万37位
12埼玉県 越谷市+43.9%370万82位
13群馬県 前橋市+43.4%348万109位
14東京都 渋谷区+41.5%1,074万3位
15千葉県 我孫子市+40.2%373万78位

価格上昇TOP15に入る15都市の所得順位は、1位から183位まで文字通りバラバラ。所得最下位(183位)の別府市が上昇率3位に入る一方、所得1位の港区は8位。「値上がりする街」を所得だけで予測することは不可能だ。

ただし、パターンは見える。

  • TX・常磐線沿線の躍進:流山市(+99.1%)、印西市(+52.4%)、柏市(+47.6%)、我孫子市(+40.2%)。千葉県北西部が4つもランクイン
  • 東京都心のトップ層:港区(+46.1%)、中央区(+45.5%)、渋谷区(+41.5%)。超高所得エリアも上位に食い込んでいる
  • 地方の「穴場」:長岡市(+64.2%)、別府市(+57.6%)。低所得・低価格からの反発で高い変化率を記録

このデータから何を読み取るべきか

売却を検討している方へ

  • 高所得エリアにお住まいなら:価格は高水準で安定している。急いで売る必要はないが、「高いからまだ上がる」とは限らない。所得と価格変化率の相関は0.255に過ぎない
  • 中所得の首都圏衛星都市なら:過去5年は「全員勝ち」の状態だった。この好環境がいつまで続くかが判断のポイント
  • 低所得エリアなら:上昇エリアと下落エリアの差が大きい。各市区町村の個別ページで直近の取引動向を確認し、自分のエリアがどちら側かを把握することが重要
30年この業界にいると、「所得が高い街の不動産は安全」という信仰に近い考えを持つ人に多く出会う。確かに、高所得エリアの不動産は流動性が高く、暴落リスクは低い。しかし「高い安心料」を払っている可能性もある。本当に値上がりしたのは、むしろ「これから人が集まる中間層の街」だった——過去5年のデータはそう語っている。

この記事のまとめ

  • 所得TOP3:港区1,397万、千代田区1,121万、渋谷区1,074万。TOP20中15が東京都
  • 所得水準と価格水準の相関は0.848——高所得=高価格は紛れもない事実
  • しかし所得と価格変化率の相関はわずか0.255——値上がりは所得では予測できない
  • 400〜500万円所得ゾーンが最も安定:37都市中37都市が上昇、下落ゼロ
  • 350万円未満は21.7%が下落。上昇時のリターンは大きいがリスクも高い
  • 値上がり率TOP15の所得順位は1位〜183位までバラバラ。TX沿線と地方穴場が躍進
  • 芦屋市は所得701万円でも価格下落。「高所得=値上がり」は成り立たない