「築何年になったら売るべきか」。マンションを持っている人なら、一度は頭をよぎったことがあるだろう。
不動産会社に聞けば「今が売り時です」と言われる。そんなことはわかっている。彼らは常にそう言う。なぜなら、今売ってくれないと仲介手数料が入らないからだ。
では、データはどう言っているのか。そして30年間、現場で何千件もの取引を見てきた人間として、何が言えるのか。今日はその両面から書いてみたい。
まず、データの話をしよう
当サイトには、国土交通省が公開している約500万件の成約データが格納されている。「成約データ」というのがポイントで、これは実際に売買が成立した価格だ。SUUMOやHOME'Sに載っている「売出価格」とは根本的に違う。この違いについては別のコラムで詳しく書いたので、そちらも読んでほしい。
このデータを使って、全国の中古マンションの㎡単価を築年数帯ごとに集計すると、以下のようなカーブが見える。
築0〜10年:新築プレミアムの剥落期
新築マンションを買った瞬間、あなたはすでに損をしている。言い方が悪いかもしれないが、事実だ。
新築の販売価格には、デベロッパーの利益、広告宣伝費、モデルルームの建設費、営業マンの人件費が上乗せされている。私は新築マンションの販売現場にもいたからわかるが、これらのコストは物件価格の15〜20%に達することもある。
つまり、鍵を受け取った瞬間から、あなたのマンションは「中古」になり、この上乗せ分が剥落する。データ上、築5年で約15〜20%の下落が見られるのはこのためだ。
築10〜20年:緩やかな下落期
新築プレミアムが剥がれた後、下落はぐっと穏やかになる。この時期のマンションは、設備はやや古くなるが間取りや立地で十分勝負できる。水回りのリフォームをすれば見違えるケースも多い。
仲介の現場にいると、この築年数帯が最も「売りやすい」。なぜかというと、買い手にとって「新築は高すぎるが、築古は不安」というゾーンにちょうどハマるからだ。需要と供給のバランスが良い。
築20〜25年:下げ止まりゾーン
ここからが本題だ。
データ上、築20年を超えると㎡単価の下落が著しく鈍化する。築20年と築30年の㎡単価差は、築5年と築15年の差に比べて大幅に小さい。
なぜか。理由は単純で、マンションの価格は「土地の持分」と「建物の残存価値」の合計だからだ。建物は年々劣化するが、土地は劣化しない。築20年を超えるあたりで建物の残存価値が十分に小さくなると、価格の大部分を土地の持分が占めるようになる。土地が下がらない限り、価格も下がりにくくなる。
築30年超:管理の差が如実に出る
築30年を超えると、データ上はほぼ横ばいになる。しかしここには大きな落とし穴がある。「平均」が横ばいなだけで、個別のマンションでは格差が広がるのだ。
私は数千棟のマンションを見てきたが、築30年超で価格を維持しているマンションには共通点がある。
管理が良い。
これに尽きる。修繕積立金をしっかり積み立てて計画的に大規模修繕を行っているマンションと、修繕を先送りにしているマンションでは、築30年を超えたあたりから㎡単価に明確な差が出る。外壁がきれい、エントランスが清潔、エレベーターが更新済み——買い手はそういうところを見ている。
逆に、管理費や修繕積立金の滞納が多い、大規模修繕の見通しが立っていない、管理組合が機能していないようなマンションは、築年数以上に価格が下がる。
データが教えてくれないこと
ここまではデータの話をしてきた。しかし、データだけで売却の判断をするのは危険だと、私は思っている。
立地は築年数を超える
たとえば広尾ガーデンヒルズ。築38年のマンションだが、㎡単価は152万円で、渋谷区の平均を44%も上回っている。広尾という立地の希少性が、38年分の経年劣化を完全に打ち消している。
こういうマンションは全国にある。駅徒歩1分の築古マンション、海が見えるリゾートマンション、学区が人気の住宅地にあるマンション。「あの場所に住みたい」という需要がある限り、築年数は二次的な要素になる。
エリアの人口動態を見ているか
もうひとつ、データの全国平均が隠してしまうのがエリアごとの人口動態だ。
人口が増えているエリアでは、築古でも需要がある。逆に、人口が減少しているエリアでは、築年数に関係なく買い手がつかなくなるリスクがある。
「築20年で下げ止まる」というデータ上のパターンは、人口が維持されているエリアでのみ成立する話だ。地方の人口減少エリアでは、そもそも「底」自体が下がり続けている。これは怖い話だが、事実として知っておくべきだ。
「もう少し待とう」の代償
私がマンションリサーチを経営していた時も、不動産売却サポートで相談を受ける今も、よく聞く言葉がある。
気持ちはわかる。相場が上がっている局面では、半年待てばさらに高く売れるかもしれない。
しかし、待つことのコストを計算している人は驚くほど少ない。
マンションを持ち続ける限り、毎月かかる費用がある。
| 項目 | 月額目安 | 年額 |
|---|---|---|
| 管理費 | 1.5〜3万円 | 18〜36万円 |
| 修繕積立金 | 1〜3万円 | 12〜36万円 |
| 固定資産税・都市計画税 | — | 10〜30万円 |
合計すると年間40〜100万円のコストがかかっている。3,000万円のマンションで相場が年3%上がったとしても、値上がり分は90万円。保有コストを差し引くと、手元に残る利益はごくわずかだ。
しかも相場が上がり続ける保証はどこにもない。金利が上がれば買い手の購買力が落ちるし、景気後退が来れば一気に潮目が変わる。リーマンショックの時、私は仲介の現場にいたが、半年前に「もう少し待とう」と言っていた売主が、1年後に2割安く売る羽目になった姿を何度も見た。
結局、「売り時」はいつなのか
30年この業界にいて、結論はこうだ。
住み替えたい、相続で揉めたくない、老後の資金を確保したい、転勤で空き家になる。理由は人それぞれだ。その理由が生まれた時に、正確な相場を知った上で判断する。これが最善だと私は思っている。
ただし、ひとつだけ付け加えたい。
「理由がないのに焦って売る必要はない」ということだ。 不動産会社に「今売らないと下がりますよ」と煽られても、データで見れば築20年を超えたマンションの下落ペースは年1〜2%程度だ。1年待ったから大損するという局面は、そう多くはない。
焦らず、しかし漫然と持ち続けるのでもなく。データで相場を確認して、自分で判断する。そのためにこのサイトはある。
この記事のまとめ
- 築0〜10年は新築プレミアムの剥落で15〜20%下落
- 築10〜20年は緩やかな下落。この時期が最も売りやすい
- 築20〜25年で下げ止まる傾向(土地の持分が価格の底を支える)
- 築30年超は管理の良し悪しで格差が広がる
- ただし人口減少エリアでは「底」自体が下がり続ける
- 「待つコスト」は年間40〜100万円。値上がり期待と天秤にかけること
- 売り時は築年数ではなく「売る理由」で決まる