「築何年になったら売るべきか」。マンションを持っている人なら、一度は頭をよぎったことがあるだろう。

不動産会社に聞けば「今が売り時です」と言われる。そんなことはわかっている。彼らは常にそう言う。なぜなら、今売ってくれないと仲介手数料が入らないからだ。

では、データはどう言っているのか。そして30年間、現場で何千件もの取引を見てきた人間として、何が言えるのか。今日はその両面から書いてみたい。

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まず、データの話をしよう

当サイトには、国土交通省が公開している約514万件の成約データが格納されている。「成約データ」というのがポイントで、これは実際に売買が成立した価格だ。SUUMOやHOME'Sに載っている「売出価格」とは根本的に違う。この違いについては別のコラムで詳しく書いたので、そちらも読んでほしい。

このうち直近5年の中古マンション取引(約60万件)について、全国の㎡単価の中央値を築年数帯ごとに出すと、以下のようなカーブが見える。東京23区・大阪市・愛知などエリア別のカーブは「築年別マンション価格下落カーブ全国版」、築年帯ごとの詳しい読み方は「築年数別に見る中古マンション価格下落カーブ」にまとめた。

築年数帯別の㎡単価(全国・直近5年の成約中央値)
築0-4年
86.7万/㎡
築5-9年
77.6万/㎡
築10-14年
66.7万/㎡
築15-19年
55.4万/㎡
築20-24年
46.7万/㎡
築25-29年
32.9万/㎡
築30-34年
23.3万/㎡
築35-39年
27.8万/㎡
築40-44年
26.7万/㎡
築45-49年
21.5万/㎡
築50-54年
21.5万/㎡
築25〜34年の帯で下げ幅が最も大きく、築30-34年帯で下げ止まる。築35〜44年は横ばいで、築45年以降にもう一段下がる。※築年帯ごとに別々の物件群を比べたもので、同じ物件の値下がりを追ったものではない

築0〜10年:新築プレミアムの剥落期

新築マンションを買った瞬間、あなたはすでに損をしている。言い方が悪いかもしれないが、事実だ。

新築の販売価格には、デベロッパーの利益、広告宣伝費、モデルルームの建設費、営業マンの人件費が上乗せされている。私は新築マンションの販売現場にもいたからわかるが、これらのコストは物件価格の15〜20%に達することもある。

つまり、鍵を受け取った瞬間から、あなたのマンションは「中古」になり、この上乗せ分が剥落する。データ上も、築0-4年帯の約86.7万円/㎡から築10-14年帯の約66.7万円/㎡まで約23%の下落が見られるのはこのためだ。

💡 現場の肌感覚:最近は新築の供給戸数が減っているため、新築プレミアムの剥落幅が縮小している。特に都心では、築浅中古が新築を上回る価格で売れるケースすら出てきた。ただしこれは都心に限った話で、郊外では従来通りの下落カーブが続いている。

築10〜20年:最も売りやすい時期

新築プレミアムが剥がれた後も下落は続く(全国の中央値で築10-14年帯66.7万→築20-24年帯46.7万円/㎡)。この時期のマンションは、設備はやや古くなるが間取りや立地で十分勝負できる。水回りのリフォームをすれば見違えるケースも多い。

仲介の現場にいると、この築年数帯が最も「売りやすい」。なぜかというと、買い手にとって「新築は高すぎるが、築古は不安」というゾーンにちょうどハマるからだ。需要と供給のバランスが良い。

築20〜30年代前半:下げ止まりまでの最後の下落

ここからが本題だ。

築年帯ごとの取引単価を比べると、全国では築25〜34年の帯で下げ幅が最も大きく、築30-34年帯(約23.3万円/㎡)でいったん下げ止まる(別々の物件群の比較で、同じ物件の値下がりを追ったものではない)。築35〜44年の帯は横ばいで、築45年以降にもう一段下がる(約21.5万円/㎡)。

なぜか。理由は単純で、マンションの価格は「土地の持分」と「建物の残存価値」の合計だからだ。建物は年々劣化するが、土地は劣化しない。築30年前後で建物の残存価値が十分に小さくなると、価格の大部分を土地の持分が占めるようになる。土地が下がらない限り、価格も下がりにくくなる。

要するに「底がある」ということだ。そしてその底は、あなたのマンションが建っている土地の価値で決まる。

築30年超:管理の差が如実に出る

築30年を超えると、全国の中央値は築44年まで横ばいになる(築45年以降にもう一段下がる)。しかしここには大きな落とし穴がある。「平均」が横ばいなだけで、個別のマンションでは格差が広がるのだ。

私は数千棟のマンションを見てきたが、築30年超で価格を維持しているマンションには共通点がある。

管理が良い。

これに尽きる。修繕積立金をしっかり積み立てて計画的に大規模修繕を行っているマンションと、修繕を先送りにしているマンションでは、築30年を超えたあたりから㎡単価に明確な差が出る。外壁がきれい、エントランスが清潔、エレベーターが更新済み——買い手はそういうところを見ている。

逆に、管理費や修繕積立金の滞納が多い、大規模修繕の見通しが立っていない、管理組合が機能していないようなマンションは、築年数以上に価格が下がる。

💡 業界の裏話:不動産会社の営業マンは「管理状態は資産価値に影響します」と当たり障りのないことを言うが、具体的にどの程度影響するかは教えてくれない。私の経験では、管理の良し悪しで同じ築年数・同じエリアでも㎡単価に20〜30%の差がつくことがある。

データが教えてくれないこと

ここまではデータの話をしてきた。しかし、データだけで売却の判断をするのは危険だと、私は思っている。

立地は築年数を超える

たとえば広尾ガーデンヒルズ。築40年を超えるマンションだが、㎡単価は152万円で、渋谷区の平均を44%も上回っている。広尾という立地の希少性が、40年以上の経年劣化を完全に打ち消している。

こういうマンションは全国にある。駅徒歩1分の築古マンション、海が見えるリゾートマンション、学区が人気の住宅地にあるマンション。「あの場所に住みたい」という需要がある限り、築年数は二次的な要素になる。

エリアの人口動態を見ているか

もうひとつ、データの全国平均が隠してしまうのがエリアごとの人口動態だ。

人口が増えているエリアでは、築古でも需要がある。逆に、人口が減少しているエリアでは、築年数に関係なく買い手がつかなくなるリスクがある。

「築30年前後で下げ止まる」というデータ上のパターンは、人口が維持されているエリアでのみ成立する話だ(愛知県の中央値は築50年代まで下がり続ける=エリア別の集計)。地方の人口減少エリアでは、そもそも「底」自体が下がり続けている。これは怖い話だが、事実として知っておくべきだ。

「もう少し待とう」の代償

私がマンションリサーチを経営していた時も、不動産売却サポートで相談を受ける今も、よく聞く言葉がある。

「もう少し上がるかもしれないから、もう少し待とう」

気持ちはわかる。相場が上がっている局面では、半年待てばさらに高く売れるかもしれない。

しかし、待つことのコストを計算している人は驚くほど少ない。

マンションを持ち続ける限り、毎月かかる費用がある。

項目月額目安年額
管理費1.5〜3万円18〜36万円
修繕積立金1〜3万円12〜36万円
固定資産税・都市計画税—10〜30万円

合計すると年間40〜100万円のコストがかかっている。3,000万円のマンションで相場が年3%上がったとしても、値上がり分は90万円。保有コストを差し引くと、手元に残る利益はごくわずかだ。

しかも相場が上がり続ける保証はどこにもない。金利が上がれば買い手の購買力が落ちるし、景気後退が来れば一気に潮目が変わる。リーマンショックの時、私は仲介の現場にいたが、半年前に「もう少し待とう」と言っていた売主が、1年後に2割安く売る羽目になった姿を何度も見た。

結局、「売り時」はいつなのか

30年この業界にいて、結論はこうだ。

「売り時」は築年数では決まらない。あなたの人生で「売る理由」が生まれた時が売り時だ。

住み替えたい、相続で揉めたくない、老後の資金を確保したい、転勤で空き家になる。理由は人それぞれだ。その理由が生まれた時に、正確な相場を知った上で判断する。これが最善だと私は思っている。

ただし、ひとつだけ付け加えたい。

「理由がないのに焦って売る必要はない」ということだ。 不動産会社に「今売らないと下がりますよ」と煽られても、データで見れば、全国の中央値は築30-34年帯で下げ止まり、築35〜44年の帯は横ばいだ。築30年を超えたマンションなら、1年待ったから大損するという局面は、そう多くはない(逆に築20年代は下げ幅が最も大きい時期にあたる)。

焦らず、しかし漫然と持ち続けるのでもなく。データで相場を確認して、自分で判断する。そのためにこのサイトはある。

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この記事のまとめ

  • 築0〜14年は新築プレミアムの剥落などで約2割下落(全国の中央値)
  • 築10〜20年も下落は続くが、この時期が最も売りやすい
  • 全国では築25〜34年の下げ幅が最も大きく、築30-34年帯で下げ止まる(土地の持分が価格の底を支える)
  • 築30年超は管理の良し悪しで格差が広がる
  • ただし人口減少エリアでは「底」自体が下がり続ける
  • 「待つコスト」は年間40〜100万円。値上がり期待と天秤にかけること
  • 売り時は築年数ではなく「売る理由」で決まる