SUUMOやHOME'Sで「このマンション、4,500万円で出てるんだ」と見て、自分のマンションも同じくらいで売れると思っていませんか。

それは危険な勘違いだ。

ポータルサイトに載っている価格は「売出価格」——つまり、売主が「この値段で売りたい」と希望している価格にすぎない。実際に買い手がついて売買契約が成立した「成約価格」とは、まったくの別物だ。この違いを理解しているかどうかで、不動産売却の結果は大きく変わる。

私はマンションリサーチという会社を創業し、全国のマンション相場データを10年以上扱ってきた。その過程で、売出価格と成約価格の乖離がいかに大きいかを嫌というほど見てきた。今日はその実態を正直に書く。

売出価格と成約価格の乖離——実際にはどのくらい違うのか

当サイトに格納されている国土交通省の約500万件の成約データと、ポータルサイトの売出価格データを比較すると、中古マンションの場合、売出価格と成約価格の間には平均で5〜10%の乖離がある。

具体的に言おう。3,000万円で売りに出ているマンションがあるとする。このマンションが実際に成約する価格は、おおよそ2,700万〜2,850万円だ。300万円の差は決して小さくない。

しかも、この5〜10%というのはあくまで「平均」の話だ。売れ残っている物件は乖離がもっと大きいし、人気エリアの築浅物件は乖離が小さい。物件の状態や売主の事情によって、この数字は大きく変動する。

💡 現場の肌感覚:仲介の現場にいた経験から言うと、最初の売出価格のまま成約する物件は全体の2〜3割程度。残りの7〜8割は、何らかの価格交渉を経て成約に至る。「値引きなしで売れた」というのは、むしろ珍しいケースだと思っておいた方がいい。

なぜポータルサイトには成約価格が載っていないのか

ここからが業界の構造的な問題の話になる。

SUUMOやHOME'S、at homeといった不動産ポータルサイトの主な収益源は何か。不動産仲介会社からの広告料だ。仲介会社が物件情報を掲載するために、1物件あたり月額数千円〜数万円の広告料を支払っている。

つまり、ポータルサイトにとっての「お客様」は物件を探している一般消費者ではなく、広告料を払ってくれる仲介会社なのだ。

では、仲介会社にとって成約価格のデータが公開されるとどうなるか。

仲介会社が困る理由

仲介会社が売主から媒介契約を獲得するためのもっとも重要な武器は「査定」だ。「御社のマンションは○○万円で売れます」と査定書を作って、売主に提案する。このとき、他社より高い査定額を提示した方が媒介契約を取りやすい

ところが、成約価格のデータが誰でも見られる状態になったらどうなるか。売主が「近所の似たマンションは実際には3,200万円で成約しているのに、御社の査定は3,800万円? おかしくないですか?」と言えるようになる。

ポータルサイトが成約価格を出さないのは、技術的に出せないのではない。出すと広告主が困るから出さないのだ。これが不動産情報サイトの最大の構造的矛盾だ。
💡 業界の裏話:実は、レインズ(不動産流通機構)には成約価格のデータが蓄積されている。しかしこのデータベースにアクセスできるのは宅建業者だけで、一般消費者は見ることができない。業界が「情報の非対称性」を意図的に維持してきたと言われても仕方がない構造だ。私がマンションリサーチで成約価格データの公開に取り組んだのも、この構造に問題意識を持っていたからだ。

売れ残り物件の「価格」が相場を歪める

もうひとつ、ポータルサイトの価格で相場を判断する際の大きな罠がある。売れ残り物件の問題だ。

ポータルサイトには、掲載から半年、1年経っても売れていない物件がゴロゴロある。これらの物件は当然ながら「市場が受け入れなかった価格」で掲載されている。つまり、高すぎる価格だ。

しかし、ポータルサイトの検索結果には、新着物件も売れ残り物件も同列に並ぶ。あなたが「この辺りのマンションの相場は3,500万〜4,000万円くらいかな」と思ったとして、その価格帯の物件の半分が半年以上売れていないものだったらどうだろう。実際の相場は3,000万〜3,500万円なのに、売れ残りの高値物件に引きずられて相場を誤認してしまう。

逆に、成約した物件はポータルサイトから消える。「売れた価格」は見えなくなり、「売れなかった価格」だけが残り続ける。これは構造的に相場を高く見せるバイアスがかかっている。

当サイトのデータは「成約価格」だ

当サイトで公開しているデータは、すべて国土交通省が公開する不動産取引価格情報に基づいている。これは実際に売買が成立した価格——つまり成約価格だ。

たとえば恵比寿駅周辺のマンション相場ページを見てほしい。ここに表示されている㎡単価は、恵比寿エリアで実際にマンションが取引された時の成約ベースの数字だ。SUUMOに載っている売出価格とは質が違う情報だ。

このデータは全国の成約事例約500万件を集計したもので、エリアごと、駅ごと、築年数帯ごとに相場の実態を見ることができる。

成約価格を知っているだけで交渉の立場が変わる

私が30年間この業界にいて確信しているのは、相場を知っている売主は損をしにくいということだ。

不動産会社に「査定額は4,000万円です」と言われた時、成約価格のデータを見て「この辺りの成約価格は㎡単価で65万円くらいだから、70㎡のうちのマンションだと3,600万〜3,800万円が妥当な線ですよね」と返せる売主は、不動産会社の言いなりにならない。

逆に、売出価格だけを見て「4,500万円で売りたい」と言ってしまうと、半年売れずに結局3,500万円まで下げるということが起きる。最初から成約価格ベースの適正価格で出していれば、2ヶ月で3,800万円で売れたかもしれないのに。

不動産売却で損をする最大の原因は、売出価格と成約価格の違いを知らないことだ。これは大げさでも何でもなく、30年の経験からの結論だ。
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この記事のまとめ

  • ポータルサイトの価格は「売出価格」であり、実際の「成約価格」とは平均5〜10%乖離する
  • 売出価格のまま成約する物件は全体の2〜3割程度
  • ポータルサイトが成約価格を出さないのは、広告主(仲介会社)にとって不都合だから
  • 売れ残り物件の高値が相場認識を歪めるバイアスがある
  • 当サイトは国土交通省の成約データ約500万件を使用
  • 成約価格を知っているだけで、不動産会社との交渉力が格段に上がる