前回の空き家率分析で、大阪市は「政令市ワーストの空き家率16.1%ながら、マンション価格+31.9%上昇」という矛盾した姿を見せた。東京23区の分析に続き、大阪市24区を区別にデータで解剖する。

24区マンション㎡単価ランキング(2024年)

順位㎡単価
(万円)
5年
変化率
10年
変化率
取引数
(2024年)
1北区90.9+43.7%+87.9%1,252
2中央区82.3+34.9%+51.5%1,454
3浪速区76.5+13.5%+46.3%378
4福島区76.1+35.7%+65.4%468
5西区75.5+38.0%+83.6%973
6天王寺区69.6+30.9%+67.9%475
7東成区59.0+24.2%+72.2%211
8阿倍野区56.1+21.3%+71.8%332
9都島区53.0+22.6%+63.2%447
10淀川区48.6+24.2%+71.1%808
11港区48.5+10.2%+46.1%221
12東住吉区46.5+46.6%+83.5%148
13城東区45.7+27.0%+74.5%487
14鶴見区44.6+29.8%+60.1%219
15大正区44.3+28.2%+34.7%103
16東淀川区42.5+24.7%+82.1%335
17西淀川区42.0+16.8%+96.2%247
18住吉区42.0+25.3%+56.6%191
19此花区40.8+22.6%+28.3%129
20旭区39.5+46.1%+96.1%148
21生野区39.3+37.7%+79.0%58
22西成区31.7+21.3%+38.1%89
23平野区29.9+15.5%+31.4%174
24住之江区28.9+29.0%+38.5%261

全24区がプラス。下落した区はゼロ。これは東京23区(全区プラス)と同じパターンだが、最下位の港区でさえ+10.2%。大阪市の底堅さが際立つ。

東京23区との比較

価格水準では大阪は東京に遠く及ばない。大阪のトップ・北区(90.9万円/㎡)は東京で言えば14位の杉並区(96.2万円/㎡)と同水準。大阪の最下位・住之江区(28.9万円/㎡)は、東京23区の最安・足立区(59.9万円/㎡)の半額以下だ。

しかし変化率は互角。大阪市全体+33.2%に対し、東京23区全体+32.3%。5年間の伸び率では大阪がわずかに上回っている。

5年変化率ランキング——「意外な区」がTOP3

5年変化率ランキング(2019→2024年)

上昇率TOP5
1. 東住吉区 +46.6%
2. 旭区 +46.1%
3. 北区 +43.7%
4. 西区 +38.0%
5. 生野区 +37.7%
上昇率BOTTOM5
24. 港区 +10.2%
23. 浪速区 +13.5%
22. 平野区 +15.5%
21. 西淀川区 +16.8%
20. 西成区 +21.3%

東京23区では「高い区がさらに上がる」二極化パターンだった(所得と変化率の相関0.740)。しかし大阪は全く異なる。

変化率TOP2は東住吉区(+46.6%)旭区(+46.1%)。どちらも㎡40万円前後の「下町」であり、空き家率も18%台。東京の港区のような超都心がトップに来るのとは対照的だ。

東住吉区——大阪の「葛飾区」

変化率1位の東住吉区は、㎡単価46.5万円で24区中12位。空き家率18.2%は全国平均を上回る。しかし5年で+46.6%、10年で+83.5%と急伸している。

背景は「底値からの反発」。2014年時点の㎡25.3万円は大阪市内でも最安水準だった。近鉄南大阪線・JR阪和線で天王寺まで10分圏内という立地に対して、価格が安すぎた。修正が入るのは時間の問題だったとも言える。東京23区の葛飾区(+30.6%)と同じ構造だ。

旭区——10年で2倍の静かな躍進

旭区も同様のパターン。2014年の㎡20.2万円から2024年の39.5万円へ、10年で+96.1%とほぼ2倍。城北エリアの中では京阪本線沿線のアクセスの良さが再評価された。

北区・西区——「本命」の都心も好調

3位の北区(+43.7%)、4位の西区(+38.0%)は、梅田・中之島を擁する「大阪の都心」。北区は10年で+87.9%、西区は+83.6%。グランフロント大阪(2013年開業)以降のうめきた再開発が継続的に価格を押し上げている。

人口と空き家率——大阪市内の「4つの顔」

24区の人口動態と空き家率を重ねると、大阪市内の構造が浮かび上がる。

人口変化
(5年)
空き家率㎡単価価格変化
A:都心回帰型——人口増加+高価格
中央区+15.8%18.4%82.3万+34.9%
浪速区+13.9%17.9%76.5万+13.5%
西区+9.4%11.5%75.5万+38.0%
北区+9.1%11.1%90.9万+43.7%
福島区+8.3%13.0%76.1万+35.7%
天王寺区+8.0%14.7%69.6万+30.9%
B:安定型——人口微増+中価格
淀川区+2.8%14.6%48.6万+24.2%
東成区+2.5%14.8%59.0万+24.2%
阿倍野区+1.7%13.8%56.1万+21.3%
東住吉区+1.4%18.2%46.5万+46.6%
都島区+1.3%17.0%53.0万+22.6%
C:縮小型——人口減少+中〜低価格
大正区-6.1%17.7%44.3万+28.2%
平野区-4.1%16.4%29.9万+15.5%
住之江区-3.9%13.6%28.9万+29.0%
此花区-3.4%16.9%40.8万+22.6%
港区-2.4%18.0%48.5万+10.2%
D:特異型——高空き家率+意外な上昇
生野区-0.8%22.8%39.3万+37.7%
西成区-1.5%25.9%31.7万+21.3%

A:都心回帰型——大阪版「タワマン都心集中」

中央区(+15.8%)、浪速区(+13.9%)、西区(+9.4%)、北区(+9.1%)。全国の人口増加率ランキングでTOP20に大阪市の区が6つ入っていたが、まさにこの「都心回帰型」の区だ。

注目は中央区の空き家率18.4%。人口が+15.8%も増えているのに空き家率が高い。これは賃貸用の空室(ワンルーム投資マンション)が多いことを示唆している。分譲マンション市場は活況でも、賃貸市場は過剰——大阪都心の二面性がここに表れている。

B:安定型——住宅地としての底堅さ

淀川区、東成区、阿倍野区など。人口は微増〜横ばいで、価格は+20〜25%と安定的に上昇。居住ニーズの実需に支えられたエリアだ。

例外は東住吉区(+46.6%)。B群の中にいながらTOP1の変化率。前述の「底値反発」パターンが当てはまる。

C:縮小型——それでもプラス

大正区(-6.1%)、平野区(-4.1%)、住之江区(-3.9%)と人口が減少している区。しかし全区がマンション価格は上昇。人口減少エリアでも85%が価格上昇という全国トレンドが、大阪市内でも再現されている。

ただし港区(+10.2%)のように、伸び悩むエリアもある。港区は大阪市の中では比較的㎡単価が高い(48.5万)のに変化率は最下位。価格帯と人口減少のダブルパンチだ。

D:特異型——空き家率20%超でも上昇

生野区(空き家率22.8%、+37.7%)と西成区(25.9%、+21.3%)。空き家率と価格は無相関(-0.104)というデータがこの2区に凝縮されている。

生野区は大阪随一の多国籍タウン。コリアンタウンを中心に独自の文化圏を形成しており、若年層の流入が下支え。西成区はあいりん地区のイメージが根強いが、星野リゾートの進出(OMO7大阪、2022年)を契機に、新今宮駅周辺の再評価が進んでいる。

10年変化率で見る「長期の勝者」

10年(2014→2024年)の変化率で見ると、短期の順位とは異なる景色が浮かぶ。

10年変化率TOP5 / BOTTOM5

10年TOP5
1. 西淀川区 +96.2%
2. 旭区 +96.1%
3. 北区 +87.9%
4. 東住吉区 +83.5%
5. 西区 +83.6%
10年BOTTOM5
24. 此花区 +28.3%
23. 平野区 +31.4%
22. 大正区 +34.7%
21. 西成区 +38.1%
20. 住之江区 +38.5%

10年TOP1は西淀川区(+96.2%)。2014年の㎡21.4万円から42.0万円へ、ほぼ2倍。5年変化率では+16.8%と目立たなかったが、前半5年(2014→2019)に急伸していた。JR東西線の利便性が長期的に評価された結果だ。

10年で見ても全24区がプラス。最低でも此花区+28.3%。東京23区の最低が大田区+37.7%だったのと比べるとやや低いが、10年で3割上昇という事実自体は十分に大きい。

東京23区との構造比較

東京23区大阪市24区
㎡単価レンジ59.9〜190.6万28.9〜90.9万
格差(最高/最安)3.2倍3.1倍
5年変化率レンジ+7.6〜+46.1%+10.2〜+46.6%
全体平均変化率+32.3%+33.2%
変化率1位港区(超都心)東住吉区(下町)
取引件数合計29,405件9,608件
空き家率(市全体)10.9%16.1%

格差倍率(3.1倍 vs 3.2倍)と5年変化率(+33.2% vs +32.3%)はほぼ同じ。しかし決定的な違いが2つある。

1. 取引量が3倍違う:東京23区の年間取引29,405件に対し、大阪市は9,608件。流動性の差は売却スピードと価格の安定性に直結する。

2. 値上がりの構造が違う:東京は「高い区がさらに上がる」(所得×変化率の相関0.740)。大阪は「安い区が追い上げる」パターンが多い。東住吉区・旭区・生野区といった低価格帯の躍進が、大阪の特徴だ。

このデータから何を読み取るべきか

大阪市内で売却を検討している方へ

  • 北区・中央区・西区・福島区(都心4区):人口増加・再開発・万博/IR効果で、さらなる上昇余地がある。ただし㎡70〜90万円の高値圏に入っており、金利上昇時は調整リスクも
  • 天王寺区・阿倍野区(南の中心):+21〜31%と安定。近鉄・JR・地下鉄が集結する交通結節点として、実需が底堅い
  • 東住吉区・旭区・生野区(下町躍進組):+37〜47%の急騰。ただし取引件数が少ない(58〜148件)ため、流動性リスクに注意。「売りたいときに売れるか」を確認してから判断を
  • 平野区・住之江区・港区(伸び悩み組):上昇率は+10〜16%と低め。人口も減少傾向。「まだ上がる」と待つより、今の水準で判断する方が合理的
大阪市場は東京と違い、「下町の逆襲」が起きている。東住吉区や旭区の+46%は、東京の港区に匹敵する上昇率だ。しかし、取引件数148件と1,981件では、売却の容易さが全く違う。上昇率だけを見て楽観するのは危険で、「自分の物件がいつ売れるか」を個別に見積もる必要がある。大阪は東京ほど市場が分厚くない——これは売主にとっての最大のリスクだ。

この記事のまとめ

  • 大阪市全体+33.2%。全24区がプラス。東京23区(+32.3%)をわずかに上回る
  • ㎡単価:北区90.9万(1位)〜住之江区28.9万(24位)。格差3.1倍
  • 5年変化率:東住吉区+46.6%が首位。「下町の逆襲」が大阪の特徴
  • 都心回帰:中央区+15.8%、浪速区+13.9%の人口急増。タワマン供給が牽引
  • 空き家率ワースト:西成区25.9%だが+21.3%上昇。生野区も22.8%で+37.7%
  • 東京との違い:取引量が3倍違う。東京は「高い区が上がる」、大阪は「安い区が追い上げる」
  • 10年変化率:西淀川区・旭区がほぼ2倍。底値からの反発が長期トレンド