「空き家が多い街は不動産が売れない」——空き家問題と不動産価格で解説した通り、空き家率は不動産市場の「健康指標」とされる。

しかし、人口と不動産価格の分析所得と不動産価格の分析に続く第3弾として、空き家率と価格の関係をデータで検証したところ、驚くほど弱い相関が浮かび上がった。

データソースは総務省「住宅・土地統計調査」(2023年)の空き家率と、当サイトの成約データ(2019年→2024年の㎡単価変化率)。マンション取引が各年20件以上ある365市区町村を対象に分析した。

空き家率ワーストランキング——上位は「別荘地」と「過疎地」

まず、全国で空き家率が高い市区町村を見てみよう。

順位市区町村空き家率空き家数総住宅数
1長野県 軽井沢町70.4%20,03028,460
2栃木県 那須町61.7%15,16024,560
3静岡県 熱海市53.3%21,08039,510
4山梨県 北杜市46.1%16,53035,890
5和歌山県 白浜町43.2%7,19016,640
6長野県 茅野市41.5%17,00040,960
7千葉県 勝浦市41.0%5,66013,790
8静岡県 伊東市39.5%20,45051,750
9高知県 土佐清水市39.5%3,8909,860
10北海道 夕張市39.4%2,1805,540

空き家率の「中身」は一様ではない

1位の軽井沢町(70.4%)は衝撃的な数字だが、その正体は別荘だ。軽井沢の約2万戸の「空き家」の大半は、所有者がいる二次的住宅。売却が困難な「放置空き家」とは根本的に異なる。

TOP10を分類すると、2つのタイプに分かれる。

  • 別荘・リゾート型:軽井沢町、那須町、熱海市、北杜市、白浜町、茅野市、勝浦市、伊東市——別荘やリゾートマンションが空き家としてカウントされている
  • 過疎型:土佐清水市、夕張市——人口流出による本当の「空き家」。不動産市場がほぼ消滅している

空き家率だけで不動産市場の危険度を判断できない——これが最初の重要なポイントだ。

都市部の空き家率——大阪市16.1%、東京23区10.9%

政令指定都市の空き家率を比較してみよう。

順位都市空き家率空き家数マンション
価格変化
1さいたま市8.6%5.7万戸+35.9%
2横浜市8.7%16.9万戸+21.3%
3千葉市10.3%5.3万戸+37.4%
4東京23区10.9%64.7万戸+32.3%
5仙台市11.2%6.8万戸+27.3%
6広島市11.7%7.4万戸+13.3%
7京都市12.5%10.5万戸+12.7%
8新潟市13.1%5.0万戸+12.4%
9名古屋市13.2%17.3万戸+19.8%
10熊本市13.2%5.1万戸+3.2%
11札幌市13.8%15.6万戸+21.4%
12神戸市13.9%11.8万戸+16.8%
13岡山市14.5%5.6万戸+14.3%
14静岡市15.2%5.3万戸+30.4%
15北九州市16.0%8.3万戸+1.2%
16大阪市16.1%29.5万戸+31.9%

空き家率が最も低いのはさいたま市(8.6%)横浜市(8.7%)。首都圏のベッドタウンは住宅需要が旺盛で、空き家が発生しにくい。

注目すべきは大阪市(16.1%)。政令市ワーストの空き家率ながら、マンション価格は+31.9%と大幅上昇。29.5万戸もの空き家があるのに、価格は下がるどころか上がっている。空き家率だけでは市場を読めない典型だ。

同じく静岡市(15.2%)も+30.4%と好調。一方で、空き家率が似た水準の北九州市(16.0%)は+1.2%とほぼ横ばい。同じ空き家率でも、価格動向は全く異なる。

核心——空き家率と価格は「ほぼ無関係」

365市区町村のデータから、空き家率と不動産価格の関係を統計的に分析した。

空き家率 × マンション価格(365市区町村)

空き家率 × 価格変化率
-0.104
ほぼ無相関
空き家率 × 価格水準
-0.163
ごく弱い負の相関
これまでの指標との比較
所得×価格水準0.848(非常に強い)
人口増減×価格変化0.383(弱〜中程度)
空き家率×価格変化:-0.104(ほぼ無相関)

結果は明快だ。空き家率はマンション価格の変動をほとんど予測しない

所得(0.848)や人口(0.383)と比べると、空き家率の予測力は著しく低い。これはなぜか。

理由1:空き家の「質」が混在している

空き家率には、リゾート別荘、賃貸の空室、老朽化した放置住宅、売却中の物件が混在している。別荘の空き家とスラム化した空き家では、不動産市場への意味合いが全く異なるが、統計上は同じ「空き家」としてカウントされる。

理由2:マンション市場と空き家市場は「別物」

空き家の多くは戸建て住宅だ。マンション市場は築年数・立地・管理状態で価格が決まるため、周辺の戸建て空き家が増えても、マンション価格には直接影響しにくい。

理由3:空き家率が高くても「需要がある街」は上がる

大阪市(空き家率16.1%、+31.9%)が好例。空き家の多くは古い長屋や木造アパートであり、マンション需要は別の市場として成長を続けている。

空き家率の高い街でマンション価格はどう動いたか

マンション取引データがある市区町村の中で、空き家率が高い20エリアの価格動向を見てみよう。

順位市区町村空き家率㎡単価
(2024年)
5年
変化率
1神戸市 兵庫区24.7%51.0万+35.2%
2広島県 呉市24.7%24.6万+1.8%
3大阪市 生野区22.8%39.3万+37.7%
4愛知県 南知多町22.7%12.4万-19.0%
5大分県 別府市21.7%25.7万+57.6%
6北九州市 八幡東区21.3%22.4万+27.9%
7和歌山県 和歌山市19.9%21.1万-1.0%
8山口県 宇部市19.8%20.2万+4.2%
9北海道 函館市19.3%15.0万+17.5%
10山口県 下関市19.1%17.9万-9.8%
11札幌市 中央区18.4%36.3万+14.5%
12大阪市 中央区18.4%82.3万+34.9%
13岐阜県 岐阜市18.3%31.1万+32.2%
14北九州市 小倉北区18.2%20.8万-4.5%
15大阪市 東住吉区18.2%46.5万+46.6%

この表が全てを物語る。空き家率18〜25%という「危険水域」のエリアでありながら、半数以上が大幅に値上がりしている

象徴的なのは大阪市東住吉区(空き家率18.2%、+46.6%)と別府市(21.7%、+57.6%)。空き家率は全国平均(15.2%)を大きく上回るのに、東京23区の多くの区を上回る上昇率を記録している。

空き家率の低い街——「安全」だが「確実」ではない

反対に、空き家率が低い街はどうか。

順位市区町村空き家率㎡単価
(2024年)
5年
変化率
1横浜市 泉区4.1%39.4万+24.5%
2さいたま市 緑区4.2%36.4万+13.4%
3埼玉県 志木市5.2%38.1万+15.1%
4埼玉県 八潮市5.3%38.8万+31.7%
5福岡市 西区5.4%35.3万+24.4%
6横浜市 都筑区6.0%64.2万+26.9%
7横浜市 青葉区6.2%65.4万+22.3%
8千葉市 美浜区6.2%37.2万+53.6%
9埼玉県 越谷市6.2%40.3万+43.9%
10埼玉県 春日部市6.3%20.1万+8.9%

空き家率が低いエリアは、首都圏のベッドタウンが圧倒的に多い。埼玉県が4市、横浜市が3区。住宅需要が底堅く、空き家が「出ればすぐ埋まる」市場だ。

そして全エリアが価格上昇——と言いたいところだが、11位以下で見ると鶴ヶ島市(空き家率6.8%、-8.5%)のように下落しているエリアもある。空き家率が低いことは「市場が健全」の必要条件ではあるが、十分条件ではない。

空き家率ブラケット分析——リスクは「じわじわ」高まる

365市区町村を空き家率で5グループに分け、それぞれの価格動向を集計した。

空き家率該当数平均㎡単価平均
変化率
上昇下落下落率
10%未満10542.0万+22.1%9876.7%
10〜13%12348.7万+18.8%11497.3%
13〜16%8833.8万+17.9%761213.6%
16〜20%4334.5万+17.0%35818.6%
20%以上629.2万+23.5%5116.7%

一見すると差がないように見えるが、注目すべきは下落率(下落した都市の割合)だ。

  • 空き家率10%未満:下落率6.7%(105中7都市のみ下落)
  • 空き家率10〜13%:下落率7.3%(ほぼ同水準)
  • 空き家率13〜16%:下落率13.6%(約7人に1人)
  • 空き家率16〜20%:下落率18.6%(約5人に1人)

空き家率13%を超えたあたりから、下落リスクが目に見えて高まる。平均変化率はどの層も+17〜22%と似ているが、「外れを引く確率」が倍増する。全国平均の15.2%は、まさにこの「リスクが高まり始める」ゾーンにある。

空き家率は「売れないリスク」の指標として使うべきであり、「値段が下がる」指標としては使えない。空き家率が高いエリアでも多くは値上がりしているが、下落する確率が2〜3倍になる。これは「平均」では見えない、分布のリスクだ。

このデータから何を読み取るべきか

売却を検討している方へ

  • 空き家率10%未満のエリア:市場は健全。急いで売る必要はないが、93%が上昇している今の市況は好機
  • 空き家率13〜16%のエリア:平均的には上昇しているが、下落リスクが倍増するゾーン。ご自身の市区町村の個別ページで直近の取引動向を確認すべき
  • 空き家率16%超のエリア:約5件に1件が下落している。「まだ上がるかもしれない」と待つより、今の価格で確定する方がリスク管理として合理的。空き家問題は今後さらに悪化する構造問題だ
  • 空き家率だけで判断しない:人口動態(相関0.383)、所得水準(相関0.848)、再開発の有無、交通アクセスを総合的に見ること
30年の実務経験で言えることがある。空き家率が高い街で最も怖いのは「値段が下がること」ではなく「売れないこと」だ。値段が下がっても売れればまだいい。空き家率が25%を超えるような街では、そもそも買い手が現れない。マンションであれば管理費・修繕積立金の徴収が滞り、管理崩壊が始まる。一度始まった管理崩壊は不可逆だ。「まだ住めるから」と先送りにした5年後、10年後の選択肢は確実に狭まる。

この記事のまとめ

  • 全国の空き家は1,099万戸、平均空き家率15.2%(2023年)
  • ワースト上位は別荘地(軽井沢70.4%)と過疎地。空き家の「中身」は一様ではない
  • 空き家率と価格変化率の相関は-0.104。ほぼ無相関——空き家率だけで値動きは予測できない
  • 空き家率21.7%の別府市が+57.6%上昇。大阪市も16.1%で+31.9%
  • ただし空き家率13%超で下落リスクが倍増。「外れを引く確率」は無視できない
  • 政令市ではさいたま市(8.6%)が最良、大阪市(16.1%)がワースト
  • 空き家率は「価格下落」よりも「売れなくなるリスク」の指標として重要