前回の全国分析で、所得TOP20のうち15が東京都であることがわかった。東京は全国の不動産市場の中で圧倒的な存在感を持つ。

しかし「東京」とひとくくりにすることには意味がない。港区と足立区では、所得も価格も全く別世界だ。今回は23区それぞれのマンション市場をデータで横断比較し、区ごとの「格差」と「変化の方向性」を明らかにする。

23区マンション㎡単価ランキング(2024年)

まず、2024年の成約データから算出した区別の㎡単価を、高い順に並べる。

順位㎡単価
(万円)
坪単価
(万円)
5年
変化率
10年
変化率
1港区190.6630+46.1%+81.9%
2千代田区166.2549+34.0%+71.9%
3渋谷区165.3546+41.5%+84.6%
4中央区152.9506+45.5%+75.4%
5新宿区129.5428+24.5%+64.5%
6目黒区127.9423+24.4%+56.3%
7品川区127.8423+28.4%+58.6%
8文京区123.2407+23.3%+56.8%
9豊島区112.1370+21.6%+51.8%
10台東区107.8356+21.1%+64.0%
11江東区104.9347+34.8%+76.8%
12世田谷区102.4338+22.4%+46.9%
13中野区98.5326+11.8%+44.7%
14杉並区96.2318+15.1%+46.9%
15墨田区94.8313+7.6%+50.6%
16北区88.0291+13.7%+50.2%
17大田区87.3289+9.8%+37.7%
18荒川区81.7270+22.4%+54.2%
19練馬区80.6266+17.1%+48.0%
20板橋区76.2252+13.0%+56.9%
21葛飾区64.0212+30.6%+74.8%
22江戸川区63.1208+24.5%+45.9%
23足立区59.9198+11.3%+72.3%

「3つの階層」が見える

23区のマンション価格は、明確な3階層に分かれる。

第1層:㎡100万円超(坪330万円超)——都心12区

港区から世田谷区までの12区。この12区だけで23区の取引件数の半数以上を占める。特に上位4区(港・千代田・渋谷・中央)は㎡150万円超、坪500万円超の「超都心」エリアだ。

第2層:㎡75〜100万円(坪250〜330万円)——城北・城西8区

中野区から板橋区までの8区。住宅地として成熟しており、ファミリー層の実需が中心。価格は都心の半分〜7割程度。

第3層:㎡60〜65万円(坪200〜215万円)——城東3区

葛飾区・江戸川区・足立区。23区で最も手頃なエリアだが、それでも坪200万円。横浜市(67.3万円/㎡)やさいたま市(57.8万円/㎡)と同水準で、「23区最安」でも全国的には高価格帯に入る。

5年変化率で見る「勝ち組」と「伸び悩み」

㎡単価ランキングと5年変化率ランキングは、似ているようで異なる。変化率で並べ替えてみよう。

5年変化率ランキング(2019→2024年)

上昇率TOP5
1. 港区 +46.1%
2. 中央区 +45.5%
3. 渋谷区 +41.5%
4. 江東区 +34.8%
5. 千代田区 +34.0%
上昇率BOTTOM5
23. 墨田区 +7.6%
22. 大田区 +9.8%
21. 足立区 +11.3%
20. 中野区 +11.8%
19. 板橋区 +13.0%

都心4区の「独走」

変化率TOP3は港区・中央区・渋谷区と、㎡単価でもTOP4に入る超都心エリアだ。すでに高い価格がさらに上がっている——二極化の加速そのものだ。

背景には、都心3区を中心とした超高額タワーマンションの供給増がある。港区の麻布台ヒルズレジデンス、渋谷区のパークコート渋谷ザタワーなど、㎡単価300万円超の物件が平均を押し上げた。

江東区の躍進

変化率4位の江東区(+34.8%)は、㎡単価では11位。価格帯は「第1層の下位」だが、伸び率では超都心に次ぐ。湾岸エリア(豊洲・有明・東雲)のタワーマンション需要が牽引しており、2024年の取引件数2,657件は23区最多。市場の厚みが価格を支えている。

葛飾区の意外な伸び

㎡単価21位ながら、変化率では6位の+30.6%。底値圏からの反発に加え、再開発(金町駅周辺)や北総線アクセスの改善が効いている。10年変化率も+74.8%と、港区(+81.9%)に迫る。「23区の穴場」として注目された結果が、数字に表れている。

墨田区の伸び悩み

5年変化率+7.6%で23区最下位。2014年→2019年の5年間は㎡63万→88万(+40%)と急伸していたが、この5年は鈍化。東京スカイツリー開業(2012年)による注目効果が一巡し、大型タワマン(パークタワー墨田押上等)の供給も一段落した。「好材料出尽くし」の典型パターンだ。

所得と価格——23区内でも「格差は拡大中」

前回の全国分析では所得と価格水準の相関が0.848だった。23区に限定すると、この相関はさらに強くなる。

23区内の相関係数

所得 × 価格水準
0.927
極めて強い正の相関
所得 × 価格変化率
0.740
強い正の相関

注目すべきは2つ目の数字だ。全国では所得と価格変化率の相関は0.255(弱い)だったが、23区内では0.740(強い)に跳ね上がる。

これは何を意味するか。全国レベルでは「高所得だから値上がりする」とは言えなかった。しかし23区内に限れば「所得が高い区ほど値上がりしている」。格差が拡大している証拠だ。

平均所得㎡単価5年変化率人口変化
(5年)
港区1,397万190.6万+46.1%+3.4%
千代田区1,121万166.2万+34.0%+8.0%
渋谷区1,074万165.3万+41.5%+1.8%
── 所得1,000万円の壁 ──
中央区781万152.9万+45.5%+8.8%
目黒区717万127.9万+24.4%+0.1%
文京区707万123.2万+23.3%+4.8%
── 所得500万円台 ──
世田谷区620万102.4万+22.4%+1.0%
新宿区621万129.5万+24.5%+0.9%
品川区557万127.8万+28.4%+3.4%
── 以下、所得500万未満 ──
江東区499万104.9万+34.8%+4.0%
台東区482万107.8万+21.1%+6.6%
大田区464万87.3万+9.8%+0.6%
葛飾区375万64.0万+30.6%+1.0%
足立区375万59.9万+11.3%+0.7%
江戸川区398万63.1万+24.5%-1.2%

人口面でも興味深い傾向がある。中央区(+8.8%)と千代田区(+8.0%)が突出して増加しており、タワーマンション供給による「都心回帰」が数字に表れている。一方、23区で唯一人口が減少しているのは江戸川区(-1.2%)。ただし価格は+24.5%と堅調で、人口減少でも価格上昇するパターンの一例だ。

10年変化率で見る「長期トレンド」

5年だけでなく、10年(2014→2024年)のスパンで見ると、また違った景色が見える。

10年変化率の注目ポイント

1位:渋谷区 +84.6%(㎡89.6万→165.3万)

2位:港区 +81.9%(㎡104.8万→190.6万)

3位:江東区 +76.8%(㎡59.4万→104.9万)

21位:大田区 +37.7%(㎡63.4万→87.3万)

22位:中野区 +44.7%(㎡68.1万→98.5万)

※最下位でも+37.7%。23区は全区が10年で3〜8割上昇

10年スパンでは全23区が上昇、しかも最低でも+37.7%(大田区)。東京23区のマンションは、10年間で例外なく値上がりしてきた。

10年変化率3位の江東区(+76.8%)が示すのは、湾岸エリアの長期的な成長力だ。5年変化率でも4位(+34.8%)と加速を続けている。一方、足立区は10年で+72.3%と高い伸びを見せたが、直近5年は+11.3%に鈍化。「底値からの急回復」局面が終わり、安定期に入った可能性がある。

取引件数から見る「市場の厚み」

価格だけでなく、売りやすさ=流動性も重要な指標だ。2024年のマンション取引件数を見てみよう。

取引件数TOP5
件数㎡単価
江東区2,657件104.9万
世田谷区2,149件102.4万
大田区2,131件87.3万
港区1,981件190.6万
新宿区1,820件129.5万
取引件数BOTTOM5
件数㎡単価
千代田区489件166.2万
荒川区587件81.7万
葛飾区836件64.0万
中野区852件98.5万
江戸川区883件63.1万

江東区が件数トップなのは、湾岸タワマンの大量ストックが生む流動性の高さによるもの。一方、千代田区は件数最少(489件)ながら㎡166万円。「希少性が価格を押し上げる」典型だ。

売却を考えるなら、取引件数の多寡は重要だ。件数が多いエリアは「売りたいときに売れる」市場が形成されている。少ないエリアでは、買い手が見つかるまでに時間がかかるリスクがある。

このデータから何を読み取るべきか

売却を検討している方へ

  • 都心4区(港・千代田・渋谷・中央):5年で+34〜46%の上昇。超高額帯ゆえに調整リスクもあるが、需要の厚みと希少性が下支えする。金利上昇時の影響を注視しつつ、「高値で売れる今」を判断材料に
  • 城南・城西(目黒・世田谷・杉並等):+15〜24%と安定的に上昇。ファミリー実需が中心のため急落リスクは低いが、天井感も出始めている
  • 城東・城北(江東・葛飾・荒川等):江東区と葛飾区は+30%超と高い伸び。まだ「割安感」が残るエリアもあるが、低価格帯ゆえに実額での上昇幅は限定的
  • 伸び悩みエリア(墨田・大田・足立等):+7〜11%。売却を検討しているなら、「これ以上の上昇を待つ」よりも「今の水準で確定する」方が合理的かもしれない
23区に30年関わってきた実感として、最も大きな変化は「都心回帰」と「格差の固定化」だ。1990年代は世田谷・杉並が最高値圏だったが、今は都心4区がぶっちぎり。この構造変化は不可逆に見える。23区のどこに住んでいるかで、資産形成の格差が決定的に開いている。

この記事のまとめ

  • 23区の㎡単価:港区190.6万円〜足立区59.9万円。格差3.2倍
  • 5年変化率:港区+46.1%が1位、墨田区+7.6%が最下位。全区が上昇
  • 10年変化率:全区が+37〜85%上昇。最低の大田区でも+37.7%
  • 23区内の所得×価格相関は0.927。全国(0.848)より強い一極集中
  • 所得×変化率の相関も0.740。「高い区がさらに上がる」二極化が進行中
  • 江東区は取引件数23区最多(2,657件)かつ変化率4位(+34.8%)。湾岸の存在感
  • 葛飾区+30.6%が意外な伸び。底値圏からの反発+再開発効果