横浜市は人口375万人、日本最大の政令指定都市だ。所得分析では平均所得437万円で政令市2位、空き家率分析では8.7%で政令市2位。「大きくて豊かで住宅が充足している」——数字が示す横浜市は、日本で最も安定した不動産市場の1つだ。

しかし18区の内部を見れば、西区の㎡97万円から旭区の㎡31万円まで3.1倍の格差がある。この「横浜市内格差」をデータで明らかにする。

18区マンション㎡単価ランキング(2024年)

順位㎡単価
(万円)
5年
変化率
10年
変化率
取引数
1西区97.1+26.4%+59.8%627
2中区86.0+27.3%+62.8%736
3神奈川区81.7+31.1%+74.7%673
4青葉区65.4+22.3%+38.8%577
5港北区65.2+16.1%+39.3%938
6都筑区64.2+26.9%+36.1%432
7南区64.1+24.8%+45.2%555
8鶴見区56.1+17.1%+40.2%726
9戸塚区46.3+30.7%+42.7%494
10保土ケ谷区45.4+32.1%+53.7%381
11栄区43.8+30.5%+12.6%146
12港南区42.2+23.6%+22.5%328
13緑区40.1+9.9%+21.9%314
14磯子区39.8+4.1%+24.3%393
15泉区39.4+24.5%+18.9%91
16瀬谷区34.3+15.2%+10.6%59
17金沢区34.0+3.7%+18.5%340
18旭区31.3+6.9%+13.6%301

全18区がプラス。下落区ゼロは東京・大阪・福岡・札幌と同じだが、横浜市の凄さは「下位でもプラス」だけでなく、取引件数の厚みにある。最下位の旭区ですら301件。統計的に信頼できる市場が18区全てに存在する。

3つの価格帯

上位層(㎡65〜97万円):西区・中区・神奈川区・青葉区・港北区・都筑区・南区

西区のみなとみらい(㎡97万円)は、東京23区で言えば中野区(98.5万円)と同水準。横浜駅西口の再開発も重なり、横浜市内で唯一㎡90万円超に到達した。中区は山下町・元町の高級住宅地。神奈川区は横浜駅北側の新築タワマン集中エリアで、10年で+74.7%と18区最高の伸びを見せている。

中位層(㎡40〜56万円):鶴見区・戸塚区・保土ケ谷区・栄区・港南区

この層に変化率TOP3が集中している(保土ケ谷区+32.1%、戸塚区+30.7%、栄区+30.5%)。「手の届く価格帯」に需要が集中した結果だ。

下位層(㎡31〜40万円):緑区・磯子区・泉区・瀬谷区・金沢区・旭区

金沢区(+3.7%)と旭区(+6.9%)の伸びが鈍い。いずれも内陸部で駅からの距離がある住宅地。横浜市内でも「陸の孤島」的な立地は苦戦している。

変化率ランキング——「中間層」の勝利

5年変化率ランキング

TOP5
1. 保土ケ谷区 +32.1%
2. 神奈川区 +31.1%
3. 戸塚区 +30.7%
4. 栄区 +30.5%
5. 中区 +27.3%
BOTTOM5
18. 金沢区 +3.7%
17. 磯子区 +4.1%
16. 旭区 +6.9%
15. 緑区 +9.9%
14. 瀬谷区 +15.2%

横浜市は東京型(高い区が上がる)でも大阪・札幌型(安い区が上がる)でもない。「中間層が最も伸びる」パターンだ。

変化率TOP4のうち3つ(保土ケ谷区・戸塚区・栄区)は㎡43〜46万円の中位層。高すぎず安すぎない「実需のスイートスポット」に需要が集中した。神奈川区(+31.1%)は横浜駅直結のタワマン効果が加わった特殊ケースだ。

一方、BOTTOM3(金沢区+3.7%、磯子区+4.1%、旭区+6.9%)は全国平均の+19.5%を大きく下回る。横浜市内でも「南西部の停滞」は明確だ。

人口と空き家率——巨大都市の「体力」

横浜市の基礎体力

転入超過
+9,731
全国2位
取引件数
8,111
全国2位
空き家率
8.7%
政令市2位の低さ

横浜市の強みは「市場の厚み」だ。年間8,111件のマンション取引は東京23区(29,405件)に次ぐ規模で、福岡市(4,796件)の1.7倍。「売りたいときに売れる」安心感がある。

人口は5年で+0.2%とほぼ横ばいだが、転入超過+9,731人は東京23区(+53,899人)に次ぐ全国2位。札幌市(+8,933人)や福岡市(+8,911人)を上回る吸引力だ。

区別で注目すべきは泉区の空き家率4.1%全国分析でも取引データのある市区町村で最低水準。住宅が文字通り「飽和」せず、需要に対して供給が不足している。

一方、金沢区は人口-3.0%で18区ワースト、磯子区も-1.2%。この2区の伸び悩み(+3.7%、+4.1%)は、人口減少と直結している。

他都市との比較——「東京の衛星」か「独立した市場」か

都市㎡単価5年変化取引件数格差倍率
東京23区100万超+32.3%29,4053.2倍
横浜市18区61.3万+22.4%8,1113.1倍
大阪市24区29〜91万+33.2%9,6083.1倍
福岡市7区32〜55万+21.8%4,7961.7倍

横浜市は東京23区に対して価格は約6割、変化率は約7割。「東京よりは安いが、東京に近い成長率」——これが横浜市の立ち位置だ。

格差倍率3.1倍は東京(3.2倍)、大阪(3.1倍)とほぼ同じ。18区という多数の区を抱える横浜市は、内部に大きな多様性を持つ「ミニ東京」的な構造だ。

このデータから何を読み取るべきか

横浜市内で売却を検討している方へ

  • 西区・中区・神奈川区(都心3区):㎡82〜97万と東京の城東エリアに匹敵。+26〜31%の好調を維持。みなとみらい・横浜駅周辺は今後も底堅いが、高値圏ゆえに調整リスクも
  • 保土ケ谷区・戸塚区・栄区(中間層躍進組):+30%超の最高変化率。「手の届く横浜」として人気が集中。この勢いが続くうちに売却するのは合理的
  • 港北区・青葉区・都筑区(北部3区):㎡64〜65万の安定圏。東急田園都市線・横浜市営地下鉄の交通利便性に支えられ、+16〜27%と堅実。ファミリー実需中心で急落リスクは低い
  • 金沢区・磯子区・旭区(南西部停滞組):+3〜7%と全国平均を大幅に下回る。人口減少も進行中。「横浜市」ブランドに安心せず、個別の取引動向を確認すべき
横浜市場を30年見てきて、最も大きな変化は「みなとみらいの完成」だ。1990年代は更地だった臨海部が、今や㎡97万円の市場を形成している。しかし横浜市の本質は「ベッドタウン」であり、東京の景気に連動する。東京が上がれば横浜も上がり、東京が下がれば横浜も下がる。横浜固有の成長ドライバーは限られる——この「東京依存」は、リスクであると同時に安定要因でもある。

この記事のまとめ

  • 横浜市全体+22.4%、全18区がプラス。取引8,111件は全国2位の巨大市場
  • ㎡単価:西区97.1万(1位)〜旭区31.3万(18位)。格差3.1倍
  • 変化率1位は保土ケ谷区+32.1%。「中間価格帯」が最も伸びるパターン
  • 転入超過+9,731人は全国2位。空き家率8.7%は政令市2位の低さ
  • 泉区の空き家率4.1%は全国トップクラスの低さ
  • 金沢区+3.7%、磯子区+4.1%は南西部の停滞。人口減少と連動
  • 神奈川区が10年+74.7%で最高。横浜駅北側のタワマン効果