このシリーズでは、東京23区、大阪市24区、福岡市7区、札幌市10区と、「成長する都市」を分析してきた。しかし全ての都市が成長しているわけではない。
北九州市は、かつて100万人を擁した九州第2の都市だ。しかし今、人口は92万人まで減少し、転出超過は全国ワースト5位(-2,774人)。不動産市場にも、その影が色濃く落ちている。
「人口減少都市で不動産を持ち続けるべきか」——この問いに、データで向き合う。
7区マンション価格ランキング(2024年)
| 順位 | 区 | ㎡単価 (万円) | 5年 変化率 | 10年 変化率 | 取引数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 八幡東区 | 22.4 | +27.9% | +19.1% | 52 |
| 2 | 小倉北区 | 20.8 | -4.5% | +30.5% | 244 |
| 3 | 小倉南区 | 19.6 | +4.4% | +24.8% | 87 |
| 4 | 戸畑区 | 18.0 | +2.5% | +9.9% | 57 |
| 5 | 門司区 | 17.7 | +4.4% | -5.5% | 83 |
| 6 | 八幡西区 | 16.4 | -2.2% | +24.4% | 202 |
| 7 | 若松区 | 13.9 | +19.4% | +16.5% | 21 |
市全体の5年変化率+1.2%の内実は、3区が下落、4区が上昇という「まだら模様」。全区プラスだった東京・大阪・福岡・札幌とは根本的に状況が異なる。
小倉北区-4.5%——「中心部」が下落する異常事態
小倉北区は北九州市の商業中心地だ。小倉駅(新幹線停車駅)を擁し、取引件数244件は7区最多。通常、都市の中心部は最も下がりにくい。しかし㎡20.8万円は2019年の21.7万円から下落している。
これまで分析した全ての都市で、「中心区が下落する」例はなかった。東京の港区は+46.1%、大阪の北区は+43.7%、福岡の中央区は+24.2%、札幌の中央区ですら+14.5%。北九州市の小倉北区-4.5%は、深掘りした7都市の中で唯一の「中心区マイナス」だ。
八幡東区+27.9%——唯一の大幅上昇区
7区中、明確に上昇しているのは八幡東区(+27.9%)だけだ。ただし取引件数はわずか52件。少数の取引に価格が左右されやすく、統計的な安定性に欠ける。
八幡東区にはスペースワールド跡地の「ジ・アウトレット北九州」(2022年開業)があり、局所的な再開発効果の可能性がある。しかし区の人口は-5.4%、空き家率21.3%と、エリア全体としては厳しい。
人口——全7区が転出超過という現実
| 区 | 人口 (2023年) | 人口変化 (5年) | 転出超過 (2023年) | 空き家率 |
|---|---|---|---|---|
| 八幡西区 | 24.7万 | -3.3% | -709人 | 14.9% |
| 小倉南区 | 20.6万 | -3.0% | -431人 | 12.4% |
| 小倉北区 | 17.8万 | -1.9% | -624人 | 18.2% |
| 門司区 | 9.2万 | -6.8% | -598人 | 18.1% |
| 若松区 | 8.0万 | -4.0% | -111人 | 15.3% |
| 八幡東区 | 6.3万 | -5.4% | -126人 | 21.3% |
| 戸畑区 | 5.5万 | -5.1% | -175人 | 14.8% |
全7区が人口減少、全7区が転出超過。「成長している区」が1つもない。
比較してみよう。
門司区の人口減少率-6.8%は突出している。2018年の9.9万人から9.2万人へ、5年で7千人減。門司港レトロの観光客は来るが、住民は去っていく。
空き家率——八幡東区21.3%の重み
八幡東区の空き家率21.3%は、空き家率分析で「マンション取引データがある高空き家率エリア」の1位タイだった(神戸市兵庫区と同率)。小倉北区18.2%、門司区18.1%も深刻だ。
市全体の空き家率16.0%は政令市ワースト(大阪市16.1%と並ぶ)。ただし大阪市は+31.9%の価格上昇。北九州市は+1.2%。同じ空き家率でも、需要の有無で結果は全く異なる。
福岡市との比較——「隣の芝生」の残酷さ
福岡市 vs 北九州市(決定的な差)
| 福岡市 | 北九州市 | 格差 | |
|---|---|---|---|
| 人口変化(5年) | +3.4% | -3.6% | 7ポイント差 |
| 転入超過 | +8,911人 | -2,774人 | 真逆 |
| マンション㎡単価 | 44.1万 | 18.8万 | 2.3倍 |
| マンション5年変化 | +21.8% | +1.2% | 18倍 |
| 下落した区 | 0区 | 3区 | —— |
| 空き家率 | 8.0% | 16.0% | 2倍 |
| 所得 | — | 335万 | —— |
新幹線16分の距離で、これほどの差が開いている。北九州市の若者は福岡市に流れ、北九州市の企業も福岡市に本社を移す。この流れは構造的であり、反転の見通しは立っていない。
土地市場——マンションとは異なる動き
| 区 | マンション 5年変化 | 土地 5年変化 | 土地㎡単価 (2024年) |
|---|---|---|---|
| 小倉南区 | +4.4% | +42.3% | 12.5万 |
| 戸畑区 | +2.5% | +29.8% | 16.7万 |
| 八幡西区 | -2.2% | +28.7% | 11.6万 |
| 門司区 | +4.4% | +27.6% | 9.9万 |
| 八幡東区 | +27.9% | +0.6% | 9.1万 |
| 若松区 | +19.4% | -2.1% | 8.0万 |
| 小倉北区 | -4.5% | -7.5% | 12.8万 |
意外にも、土地市場はマンションより好調なエリアが多い。小倉南区+42.3%、戸畑区+29.8%、八幡西区+28.7%は、全国的に見ても低くない数字だ。
しかし小倉北区は土地も-7.5%。中心区がマンション・土地の両方で下落しているのは、需要の構造的な弱さを物語っている。
このデータから何を読み取るべきか
北九州市内で売却を検討している方へ
率直に言う。北九州市は、このシリーズで分析した7都市の中で最も厳しい市場だ。全国のマンション市場が平均+19.5%上昇する中で+1.2%にとどまり、7区中3区が下落している。
- 小倉北区:マンション-4.5%、土地-7.5%。中心区の下落は深刻なサイン。取引件数244件はあるが、「売れるが安い」状態。待っても好転する材料に乏しい
- 八幡西区:マンション-2.2%だが土地は+28.7%。戸建て需要は残っているが、マンション市場は弱い。人口7区最多(24.7万人)で転出超過も最大(-709人)
- 門司区:人口-6.8%は7区ワースト。マンションは10年で-5.5%と「長期下落トレンド」。門司港レトロの観光効果は不動産市場に波及していない
- 八幡東区:マンション+27.9%は好調だが、取引52件では安定性がない。空き家率21.3%で、長期的には厳しい
- 全体的な判断:北九州市の不動産は「全国的な価格上昇の恩恵を受けていない」。金利上昇や景気後退が来た場合、真っ先に影響を受けるのはこうした「取り残されたエリア」だ。売却を迷っているなら、今が最も有利な時期である可能性が高い
この記事のまとめ
- マンション市全体+1.2%。全国平均+19.5%の16分の1で、ほぼ横ばい
- 7区中3区がマンション下落:小倉北区-4.5%、八幡西区-2.2%、門司区10年で-5.5%
- 深掘り7都市で唯一の「中心区マイナス」——小倉北区-4.5%は異例
- 全7区が人口減少・転出超過。合計-2,774人は政令市ワースト5位
- 門司区の人口-6.8%が突出。5年で7千人減
- 空き家率:八幡東区21.3%、市全体16.0%は政令市ワースト
- 土地は小倉南区+42.3%と好調な区もあるが、小倉北区は-7.5%で両方下落
- 福岡市との格差:マンション+21.8% vs +1.2%。新幹線16分で18倍の差