これまでのシリーズではマンションの価格変動を分析してきた。全国ランキング、所得との相関、空き家率との関係——いずれもマンション市場の話だ。
では、土地はどうか。土地は戸建て住宅の建築用地であり、事業用地であり、農地転用の対象でもある。マンション市場とは参加者も価格形成メカニズムも異なる。
今回は、全国993市区町村の土地取引データ(2019年→2024年の㎡単価変化)を分析し、マンションとの違いを浮き彫りにする。
土地価格上昇率TOP20——リゾートと「TSMC」の街
| 順位 | 市区町村 | ㎡単価 (2024年) | 5年 変化率 | 取引数 (2024年) |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 長野県 白馬村 | 4.2万 | +129.5% | 42 |
| 2 | 長野県 御代田町 | 3.3万 | +124.9% | 94 |
| 3 | 茨城県 潮来市 | 2.5万 | +122.1% | 36 |
| 4 | 茨城県 坂東市 | 2.9万 | +113.9% | 87 |
| 5 | 熊本県 益城町 | 10.0万 | +111.6% | 70 |
| 6 | 岩手県 二戸市 | 3.9万 | +99.8% | 36 |
| 7 | 北海道 芽室町 | 4.7万 | +98.0% | 39 |
| 8 | 福岡県 粕屋町 | 16.9万 | +90.7% | 46 |
| 9 | 熊本県 宇土市 | 6.6万 | +89.3% | 69 |
| 10 | 埼玉県 松伏町 | 12.2万 | +88.4% | 64 |
| 11 | 茨城県 かすみがうら市 | 4.9万 | +87.6% | 51 |
| 12 | 滋賀県 米原市 | 7.5万 | +86.9% | 40 |
| 13 | 埼玉県 行田市 | 8.3万 | +84.7% | 154 |
| 14 | 沖縄県 宮古島市 | 10.0万 | +83.1% | 100 |
| 15 | 栃木県 壬生町 | 7.3万 | +83.1% | 72 |
| 16 | 愛知県 東海市 | 19.7万 | +82.3% | 277 |
| 17 | 千葉県 南房総市 | 4.3万 | +81.8% | 66 |
| 18 | 大阪府 河南町 | 8.2万 | +81.8% | 32 |
| 19 | 兵庫県 加西市 | 8.4万 | +81.6% | 34 |
| 20 | 北海道 千歳市 | 10.7万 | +80.3% | 308 |
マンションとは全く違う顔ぶれ
マンション価格上昇率TOP20は東京23区と首都圏衛星都市が中心だった。しかし土地のTOP20に東京の区は1つもない。代わりに並ぶのは、地方の町村や中小都市だ。
上昇の要因は主に3つある。
1. リゾート・移住需要
白馬村(+129.5%)はインバウンドスキーリゾートとして世界的に知られる。御代田町(+124.9%)は軽井沢の隣町で、テレワーク移住の受け皿になった。宮古島市(+83.1%)は南国リゾート開発ラッシュ。いずれも㎡3〜10万円と絶対価格が低いため、変化「率」が大きく出る。
2. TSMC効果(熊本)
5位の益城町(+111.6%)と9位の宇土市(+89.3%)は、TSMC(台湾半導体)の熊本工場建設が直撃したエリア。2024年2月の第1工場稼働に伴い、従業員向けの住宅用地需要が急騰した。益城町は2016年の熊本地震で大きな被害を受けた町でもあり、震災復興と半導体景気のダブル効果だ。
3. 都市近郊の波及効果
粕屋町(+90.7%)は福岡市の隣接町。千歳市(+80.3%)は新千歳空港の街で、ラピダス(半導体)の建設も控える。東海市(+82.3%)は名古屋市南部の工業都市。大都市の地価上昇が周辺に波及した結果だ。
土地価格下落率WORST20——過疎と災害
| 順位 | 市区町村 | ㎡単価 (2024年) | 5年 変化率 | 取引数 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 北海道 留萌市 | 2.3万 | -77.0% | 31 |
| 2 | 石川県 輪島市 | 1.6万 | -64.7% | 45 |
| 3 | 和歌山県 有田市 | 1.7万 | -62.5% | 30 |
| 4 | 長野県 大町市 | 1.7万 | -48.6% | 40 |
| 5 | 秋田県 大館市 | 2.2万 | -41.0% | 99 |
| 6 | 茨城県 桜川市 | 1.4万 | -39.5% | 52 |
| 7 | 新潟県 十日町市 | 2.0万 | -39.1% | 51 |
| 8 | 兵庫県 丹波市 | 2.3万 | -38.5% | 39 |
| 9 | 北海道 倶知安町 | 7.5万 | -35.9% | 39 |
| 10 | 和歌山県 橋本市 | 3.5万 | -35.5% | 82 |
下落の要因も明確だ。
留萌市(-77%)は北海道日本海側の過疎都市。人口2万人を割り込み、2023年にはJR留萌本線が全線廃止。㎡2.3万円は坪7.6万円——首都圏のマンション1㎡分にも満たない。
輪島市(-64.7%)は2024年1月の能登半島地震の直撃を受けた。㎡1.6万円(坪5.3万円)は、復興の見通しが立たない市場の「値付け不能」状態を反映している。
倶知安町(-35.9%)は意外かもしれない。ニセコの中心地で、かつては地価上昇率全国1位だった。しかしコロナ禍でのインバウンド消滅と投機マネーの引き上げで急落。2019年の㎡11.8万円から7.5万円へ。バブルの反動そのものだ。
核心——土地とマンションは「別の市場」
土地 vs マンション(5年変化率)
変化率の相関
人口×価格変化:0.383
所得×価格変化:0.255
空き家率×変化:-0.104
土地×マンション:0.153
相関係数0.153。土地の変化率とマンションの変化率は、ほぼ無関係だ。
つまり、「この街のマンションが値上がりしているから土地も上がっているだろう」という推測は成り立たない。逆もまた然り。
なぜ連動しないのか
- 買い手が違う:マンションの買い手は主に個人の実需層。土地の買い手は戸建て建築予定者・デベロッパー・事業者・投資家と多様
- 供給構造が違う:マンションは「棟」単位で供給されるが、土地は個別の区画。相続・農地転用・再開発といった個別事情が価格に直結する
- 立地の意味が違う:マンションは「駅徒歩分」が命だが、土地は「敷地面積」が命。駅から遠くても広い土地に価値がつく
全体像——土地は「2割が下落」する世界
土地 vs マンション 全体比較(5年変化)
| 土地 | マンション | |
|---|---|---|
| 分析対象 | 993市区町村 | 365市区町村 |
| 平均変化率 | +18.4% | +19.5% |
| 上昇率 | 81.6%(810都市) | 93.4%(341都市) |
| 下落率 | 18.4%(183都市) | 6.6%(24都市) |
| 最大上昇 | +129.5%(白馬村) | +99.1%(流山市) |
| 最大下落 | -77.0%(留萌市) | -30.2%(高石市) |
最も重要な違いは下落率だ。マンションは6.6%しか下落していないが、土地は18.4%が下落。約5つに1つの市区町村で土地価格が下がっている。
また、振れ幅も大きい。マンションの変動レンジが-30%〜+99%に対し、土地は-77%〜+130%。土地はマンションよりもハイリスク・ハイリターンな資産だ。
都道府県別——土地価格の「全国温度マップ」
46都道府県(取引データ5市区町村以上)の平均変化率を高い順に並べた。
| 順位 | 都道府県 | 該当数 | 平均 変化率 | 上昇 | 下落 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 沖縄県 | 15 | +36.4% | 14 | 1 |
| 2 | 熊本県 | 18 | +34.2% | 16 | 2 |
| 3 | 福岡県 | 45 | +29.8% | 41 | 4 |
| 4 | 滋賀県 | 13 | +29.0% | 11 | 2 |
| 5 | 茨城県 | 33 | +28.5% | 29 | 4 |
| 6 | 北海道 | 41 | +26.7% | 35 | 6 |
| 7 | 千葉県 | 42 | +25.0% | 36 | 6 |
| 8 | 神奈川県 | 52 | +24.9% | 51 | 1 |
| 9 | 東京都 | 50 | +24.9% | 50 | 0 |
| 10 | 埼玉県 | 58 | +23.7% | 52 | 6 |
| ── 全国平均 +18.4% ── | |||||
| 37 | 三重県 | 14 | +8.6% | 8 | 6 |
| 38 | 群馬県 | 16 | +7.2% | 10 | 6 |
| 39 | 長崎県 | 9 | +7.0% | 5 | 4 |
| 40 | 山形県 | 9 | +5.4% | 6 | 3 |
| 41 | 奈良県 | 16 | +4.9% | 9 | 7 |
| 42 | 岐阜県 | 21 | +4.5% | 10 | 11 |
| 43 | 秋田県 | 10 | +4.1% | 7 | 3 |
| 44 | 新潟県 | 24 | +2.7% | 17 | 7 |
| 45 | 香川県 | 7 | -9.3% | 3 | 4 |
| 46 | 和歌山県 | 12 | -10.8% | 4 | 8 |
3つの発見
1. 「九州・沖縄」が圧倒的に強い
沖縄(+36.4%)、熊本(+34.2%)、福岡(+29.8%)がTOP3。TSMC効果の熊本、リゾート開発の沖縄、人口増加の福岡——九州の勢いが土地市場に最も顕著に表れている。
2. 東京は「全勝」だが首位ではない
東京都は50市区町村中50が上昇、下落ゼロ。しかし平均変化率+24.9%は9位。マンションでは東京の都心が圧倒的だったが、土地市場では地方の成長エリアに追い抜かれている。
3. 和歌山・香川がマイナス県
46都道府県中、平均がマイナスなのは和歌山(-10.8%)と香川(-9.3%)の2県のみ。和歌山は12市町村中8が下落。人口減少と産業衰退の影響が、土地市場にはマンション以上に厳しく現れている。
このデータから何を読み取るべきか
土地の売却を検討している方へ
- 首都圏・福岡圏の土地:ほぼ全域が上昇中。ただし「率」が大きいのは絶対価格が低いエリア。㎡5万円以下の土地が2倍になっても実額では限定的
- 地方の土地:5つに1つが下落している。特に人口減少が著しいエリア(和歌山、香川、新潟)では、「今が最後の売却チャンス」かもしれない
- リゾート地の土地:白馬・軽井沢は高騰しているが、倶知安(-36%)のように反動で急落するリスクもある。短期的な価格に一喜一憂せず、中長期の需要見通しで判断すべき
- マンションの相場と混同しない:相関0.153。マンション相場が好調でも、同じ街の土地が上がっているとは限らない。必ず各市区町村の土地ページで個別に確認を
この記事のまとめ
- 土地価格上昇率1位:白馬村+129.5%。リゾート・移住需要がけん引
- 下落率1位:留萌市-77%。過疎化+鉄道廃線で市場消滅
- 全993都市中81.6%が上昇、18.4%が下落。マンション(93%上昇)より厳しい世界
- 土地とマンションの相関は0.153。完全に「別の市場」
- TSMC効果:益城町+112%、宇土市+89%。半導体工場が地価を変えた
- 都道府県別:沖縄+36%首位。東京は全勝(50/50上昇)だが順位は9位
- 和歌山-11%、香川-9%が唯一のマイナス県。土地は地域差が極めて大きい