「3,000万円で売れたら3,000万円が手に入ると思っていました」
笑い話に聞こえるかもしれないが、不動産売却が初めての方にとっては自然な感覚だ。実際には、仲介手数料、税金、各種手続き費用が差し引かれ、手取り額は売却価格の85〜95%程度になる。住宅ローンの残債がある場合は、そこからさらに差し引かれる。
この記事では、不動産売却にかかるすべての費用を整理し、「結局いくら手元に残るのか」を正確に把握する方法を解説する。
費用の全体構造——3つのカテゴリ
売却にかかる費用は、大きく3つのカテゴリに分けられる。
| カテゴリ | 内容 | 金額の規模 |
|---|---|---|
| 必ずかかる費用 | 仲介手数料、印紙税、登記費用 | 売却価格の3.5〜5% |
| 場合によりかかる費用 | 測量費、解体費、ハウスクリーニング、引越し費用など | 数万〜数百万円 |
| 税金(利益が出た場合) | 譲渡所得税、住民税、復興特別所得税 | 利益×14〜39%(特例適用で0になることも多い) |
以下、各費用を詳しく見ていく。
必ずかかる費用
1. 仲介手数料——最大の費用項目
不動産会社に支払う報酬。売却にかかる費用の中で最も金額が大きい。上限は宅地建物取引業法で定められている。
仲介手数料の計算方法
| 売買価格 | 計算式 |
|---|---|
| 200万円以下の部分 | 売買価格 × 5% + 消費税 |
| 200万円超〜400万円以下の部分 | 売買価格 × 4% + 消費税 |
| 400万円超の部分 | 売買価格 × 3% + 消費税 |
400万円超の物件(ほとんどのケース)は、速算式「売買価格 × 3% + 6万円 + 消費税」で計算できる。
売却価格別の仲介手数料
| 売却価格 | 仲介手数料(税込) | 売却価格に対する割合 |
|---|---|---|
| 1,000万円 | 39.6万円 | 3.96% |
| 2,000万円 | 72.6万円 | 3.63% |
| 3,000万円 | 105.6万円 | 3.52% |
| 4,000万円 | 138.6万円 | 3.47% |
| 5,000万円 | 171.6万円 | 3.43% |
| 8,000万円 | 270.6万円 | 3.38% |
| 1億円 | 336.6万円 | 3.37% |
仲介手数料は消費税込みで考える。税抜きの金額を聞いて安いと思っても、消費税10%が加わると印象が変わる。
仲介手数料の支払いタイミング
一般的には、売買契約時に半額、決済・引渡し時に残りの半額を支払う。不動産会社によっては決済時に全額というケースもある。事前に確認しておこう。
2. 印紙税——売買契約書に貼る収入印紙
売買契約書に収入印紙を貼付して納める税金。契約書は通常2通作成し(売主用・買主用)、それぞれに印紙を貼る。売主は自分の分の印紙代を負担する。
| 売買価格 | 印紙税額(軽減税率適用) | 本則税率 |
|---|---|---|
| 500万円超〜1,000万円以下 | 5,000円 | 1万円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 1万円 | 2万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 3万円 | 6万円 |
| 1億円超〜5億円以下 | 6万円 | 10万円 |
不動産売買契約書には軽減税率が適用されている(2027年3月31日まで延長)。最も一般的な1,000万円超〜5,000万円以下の売買では、1万円で済む。金額としては小さいが、法律上の義務であり、貼り忘れると過怠税がかかる。
3. 登記費用——抵当権抹消と住所変更
売却に伴う登記手続きは、主に2つある。
| 登記の種類 | 内容 | 費用の目安(司法書士報酬込み) |
|---|---|---|
| 抵当権抹消登記 | 住宅ローン完済に伴い、設定されている抵当権を消す | 1.5〜3万円 |
| 住所変更登記 | 登記簿上の住所と現住所が異なる場合に変更 | 1〜2万円 |
抵当権抹消登記の登録免許税は不動産1個につき1,000円。マンションの場合は土地と建物の2個で2,000円。司法書士への報酬が1〜2万円程度加わる。
なお、所有権移転登記の費用は買い手が負担するのが慣例だ。売主が負担するのは抵当権抹消と住所変更のみ。
場合によりかかる費用
以下の費用は、物件の状況や売り方によって発生する。
| 費用項目 | 金額の目安 | 発生する条件 |
|---|---|---|
| 住宅ローン繰上返済手数料 | 0〜3.3万円 | ローン残債がある場合。ネット手続きなら無料の銀行も |
| 確定測量費 | 30〜80万円 | 土地・一戸建てで境界確定が必要な場合 |
| 建物解体費 | 100〜300万円 | 古家を解体して更地にする場合(構造による) |
| ハウスクリーニング | 3〜15万円 | 水回り中心の清掃。マンション3〜5万円、一戸建て5〜15万円 |
| 引越し費用 | 10〜30万円 | 居住中の物件を売却する場合 |
| 残置物撤去費 | 5〜30万円 | 家具・家電・不用品の処分 |
| 補修費 | 数万〜数十万円 | 壁のひび割れ補修、設備の交換など |
| インスペクション費 | 5〜10万円 | 一戸建ての建物状況調査を行う場合 |
マンション売却であれば、測量・解体・インスペクションは不要なため、場合による費用は比較的少ない。土地・一戸建ての場合は、測量費と解体費が大きな出費になりうる。
税金——譲渡所得税・住民税・復興特別所得税
売却で利益(譲渡所得)が出た場合にかかる税金だ。利益が出なければ(売却価格が購入価格+費用を下回れば)、この税金はゼロだ。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得は以下の計算式で求める。
譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
- 売却価格:実際の成約価格
- 取得費:購入時の価格+購入時の諸費用(仲介手数料、登記費用、不動産取得税など)。建物は減価償却費を差し引く
- 譲渡費用:売却にかかった費用(仲介手数料、印紙税、測量費、解体費など)
- 特別控除:居住用財産の3,000万円特別控除など
税率——所有期間で大きく変わる
| 所有期間 | 区分 | 所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計税率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 5年以下 | 短期譲渡所得 | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
| 5年超 | 長期譲渡所得 | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
| 10年超(居住用のみ) | 軽減税率の特例 | 6,000万円以下の部分:14.21% 6,000万円超の部分:20.315% | 14.21%〜 | ||
3,000万円特別控除——居住用財産の最強の味方
自宅(居住用財産)を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例がある。マイホームの売却であれば、ほとんどのケースでこの特例により税金がゼロになる。
適用条件
- 自分が住んでいる家を売ること(引っ越し済みの場合は、住まなくなった日から3年後の年末までに売却)
- 売り手と買い手が親族などの特別な関係でないこと
- 前年・前々年にこの特例を使っていないこと
- 他の特例(買替え特例、譲渡損失の繰越控除など)と併用できないものがある
取得費がわからない場合の「概算取得費」
相続した不動産など、購入時の売買契約書が見つからない場合がある。この場合、取得費を「売却価格の5%」とみなすルールがある(概算取得費)。
たとえば3,000万円で売却した場合、取得費は150万円。譲渡費用(仲介手数料等)を差し引いても、2,700万円以上が譲渡所得として課税対象になる。3,000万円控除が使えればゼロだが、使えない場合(相続した空き家、別荘、投資用物件など)は多額の税金が発生する。
・購入時の住宅ローンの借入額がわかる書類(金消契約書、返済予定表)
・購入時の不動産取得税の通知書
・購入時の仲介会社の領収書
・購入時の登記費用の領収書
・当時の銀行通帳の大口出金記録
これらを組み合わせて取得費を推定できる場合もある。税理士に相談することを勧める。
手取り額のシミュレーション——3つのケース
具体的な数字で手取り額を計算してみよう。3つのパターンを示す。
ケース1:マンション売却(売却価格3,000万円・ローン残債800万円)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却価格 | 3,000万円 |
| 仲介手数料(税込) | −105.6万円 |
| 印紙税 | −1万円 |
| 抵当権抹消費用 | −2万円 |
| 住宅ローン繰上返済手数料 | −1.1万円 |
| ハウスクリーニング | −5万円 |
| 引越し費用 | −15万円 |
| 費用合計 | −129.7万円 |
| 住宅ローン残債 | −800万円 |
| 譲渡所得税 | 0円(3,000万円控除適用、利益3,000万円以下と想定) |
| 手取り額 | 約2,070万円 |
売却価格3,000万円に対して手取りは約2,070万円。売却価格の69%が手元に残る計算だ。ローン残債がなければ約2,870万円(約96%)になる。
ケース2:一戸建て売却(売却価格2,000万円・ローン完済済み)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却価格 | 2,000万円 |
| 仲介手数料(税込) | −72.6万円 |
| 印紙税 | −1万円 |
| 確定測量費 | −50万円 |
| ハウスクリーニング | −8万円 |
| 引越し費用 | −20万円 |
| 残置物撤去 | −10万円 |
| 費用合計 | −161.6万円 |
| 譲渡所得税 | 0円(3,000万円控除適用) |
| 手取り額 | 約1,838万円 |
一戸建ては測量費が加わるため、費用の割合がやや大きくなる。売却価格の約92%が手元に残る。解体費用が加わるとさらに下がる。
ケース3:高額マンション売却(売却価格5,000万円・ローン残債2,000万円・利益あり)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却価格 | 5,000万円 |
| 仲介手数料(税込) | −171.6万円 |
| 印紙税 | −1万円 |
| 抵当権抹消費用 | −2万円 |
| 住宅ローン繰上返済手数料 | −2.2万円 |
| ハウスクリーニング | −5万円 |
| 引越し費用 | −25万円 |
| 費用合計 | −206.8万円 |
| 住宅ローン残債 | −2,000万円 |
| 譲渡所得税 | 0円(3,000万円控除適用。購入価格3,200万円、譲渡所得約1,600万円と想定) |
| 手取り額 | 約2,793万円 |
5,000万円で売っても、ローン残債2,000万円と費用約207万円を差し引くと、手取りは約2,793万円。売却価格の56%だ。ローン残債の影響がいかに大きいかがわかる。
手取り額を増やすためにできること
1. 仲介手数料の値引きは慎重に
仲介手数料は最大の費用項目だが、前述の通り値引きには副作用がある。広告費の削減、営業活動の質の低下につながれば、結果として売却価格が下がり、手取りが減る本末転倒なケースもある。
ただし、売却と購入を同じ会社に依頼する「住み替え案件」の場合は、手数料の割引を提案されることがある。これは不動産会社にとっても2倍の仲介手数料が入るため、合理的な割引だ。
2. 譲渡費用に計上できるものを漏らさない
譲渡費用が大きいほど、譲渡所得が小さくなり、税金が減る。以下の費用は譲渡費用に計上できる。
- 仲介手数料
- 印紙税
- 測量費(売却のために行った場合)
- 建物の解体費用(更地にして売却した場合)
- 立退き料(借家人がいた場合)
- 売却のために行った修繕費(通常の維持管理費は含まない)
3. 取得費を正確に把握する
取得費が大きいほど、譲渡所得は小さくなる。取得費には購入価格だけでなく、以下も含められる。
- 購入時の仲介手数料
- 購入時の登記費用(登録免許税+司法書士報酬)
- 不動産取得税
- 購入時の印紙税
- 購入時のローン保証料(一括払いの場合、未経過分は除く)
- 購入後に行った設備の取替え・改良費用(通常の修繕は含まない)
これらの領収書を保管していれば、取得費に加算でき、税金を合法的に減らせる。
4. 特例・控除を確実に適用する
3,000万円控除以外にも、以下の特例がある。状況に応じて最も有利な特例を選択する。
| 特例 | 概要 | 主な適用条件 |
|---|---|---|
| 3,000万円特別控除 | 譲渡所得から最大3,000万円を控除 | 居住用財産(マイホーム)の売却 |
| 10年超所有の軽減税率 | 6,000万円以下の部分の税率が14.21%に | 所有期間10年超の居住用財産。3,000万円控除と併用可 |
| 買替え特例 | 売却益の課税を将来に繰り延べ | 居住用財産の買替え。3,000万円控除とは併用不可 |
| 譲渡損失の繰越控除 | 売却損を他の所得と相殺、最大4年間繰越 | 住宅ローンの残る居住用財産の売却で損失が出た場合 |
| 相続空き家の3,000万円控除 | 相続した空き家の売却に3,000万円控除 | 被相続人が一人暮らしだった旧耐震の建物。更地にして売却等 |
手取り額の計算シート
自分の物件で手取り額を計算するための簡易シートだ。各項目に数字を入れてみてほしい。
手取り額 簡易計算シート
A. 売却価格
査定額または希望価格 = ________ 万円
B. 仲介手数料(税込)
A × 3% + 6万円 + 消費税10% = ________ 万円
C. その他費用
印紙税 + 登記費用 + 測量費 + 解体費 + 引越し費用 等 = ________ 万円
D. 住宅ローン残債
金融機関に残高証明書を請求して確認 = ________ 万円
E. 譲渡所得税
(A − 取得費 − 譲渡費用 − 特別控除)× 税率 = ________ 万円
手取り額 = A − B − C − D − E = ________ 万円
まとめ——「売れた金額」と「残る金額」は違う
不動産売却を考える際、多くの人は「いくらで売れるか」に意識が集中する。しかし、本当に重要なのは「いくら手元に残るか」だ。
この記事のまとめ
- 売却費用は売却価格の4〜7%。マンションは費用が少なく(4〜5%)、土地・一戸建ては多い(5〜7%以上)
- 最大の費用は仲介手数料(売却価格×3%+6万円+消費税)。上限額であり交渉の余地はあるが、値引きの副作用にも注意
- 印紙税・登記費用は必ずかかるが金額は小さい(合計3〜5万円程度)
- 測量費(30〜80万円)・解体費(100〜300万円)は土地・一戸建て特有。手取りに大きく影響する
- 譲渡所得税は利益が出た場合のみ。3,000万円特別控除で多くのケースがゼロに
- 所有期間5年超か5年以下かで税率が約20%と約39%に分かれる。売却時期の判断材料に
- 取得費の証明書類は必ず保管。書類がないと取得費が5%とみなされ、税金が跳ね上がる
- 手取り額 = 売却価格 − ローン残債 − 費用 − 税金。この計算を売却前に必ず行うこと