「不動産を売ろうと思うのですが、何から始めればいいですか?」
30年この仕事をしてきて、最も多く聞かれる質問がこれだ。不動産の売却は、多くの人にとって人生で1〜2回あるかないかの経験。全体像が見えないまま動き始めると、不動産会社の言いなりになりやすく、結果として数百万円の損をすることもある。
この記事では、不動産売却を10のステップに分けて解説する。各ステップの所要期間、やるべきこと、注意点を具体的に示すので、「次に何をすればいいか」が常にわかる状態で売却を進められるはずだ。
売却の全体像——10ステップと所要期間
まず、売却の全体像を把握しよう。以下の表が、査定から確定申告までの10ステップだ。
| ステップ | 内容 | 所要期間の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 相場を自分で調べる | 1〜3日 |
| 2 | 不動産会社に査定を依頼する | 1〜2週間 |
| 3 | 不動産会社を選び、媒介契約を結ぶ | 1〜2週間 |
| 4 | 売り出し価格を決めて販売開始 | 数日 |
| 5 | 内覧対応 | 1〜3ヶ月 |
| 6 | 購入申込・条件交渉 | 1〜2週間 |
| 7 | 売買契約の締結 | 1日(準備に1〜2週間) |
| 8 | 引渡し準備 | 1〜2ヶ月 |
| 9 | 決済・引渡し | 1日 |
| 10 | 確定申告 | 翌年2〜3月 |
| 合計(ステップ1〜9) | 3〜8ヶ月 | |
マンションは流通量が多く買い手が見つかりやすいため、3〜6ヶ月で完了するケースが多い。土地・戸建ては条件に合う買い手の母数が限られるため、6ヶ月〜1年かかることも珍しくない。
以下、各ステップを詳しく見ていく。
ステップ1:相場を自分で調べる(1〜3日)
不動産会社に査定を依頼する前に、まず自分で相場を把握する。このステップを飛ばして査定に進む人が非常に多いが、それは大きな失敗の元だ。
なぜ自分で調べることが重要なのか
査定額は不動産会社によって大きく異なる。同じ物件でも、A社が3,000万円、B社が3,800万円という差が出ることは日常的にある。自分の中に「だいたいこのくらいだろう」という基準がないと、高い査定額を出した会社が本当に良い会社なのか、ただ契約を取るために高く言っているだけなのかを判断できない。
相場を調べる3つの方法
自分で相場を調べる方法は大きく3つある。
| 方法 | 特徴 | 精度 |
|---|---|---|
| 国土交通省の成約価格データ | 実際に売れた価格を確認できる。当サイトでもこのデータをベースに相場を公開している | 高い |
| ポータルサイトの売出価格 | 現在売りに出ている類似物件の価格を参考にできる。ただし売出価格=成約価格ではない | 中程度 |
| 固定資産税評価額からの逆算 | 固定資産税の通知書に記載。時価の7割が目安だが、エリアによりブレが大きい | 低い |
最も信頼性が高いのは成約価格データだ。マンションであれば当サイトのエリア別ページで同じマンションの過去の取引事例を確認できる。土地であれば字名単位の坪単価を把握できる。
ステップ2:不動産会社に査定を依頼する(1〜2週間)
相場の目安を把握したら、不動産会社に正式な査定を依頼する。査定には「机上査定(簡易査定)」と「訪問査定」の2種類がある。
机上査定と訪問査定の違い
| 項目 | 机上査定 | 訪問査定 |
|---|---|---|
| 方法 | 物件情報(住所・面積・築年数等)のみで査定 | 実際に物件を訪問して室内・外観・周辺環境を確認 |
| 所要時間 | 依頼から1〜3日で結果が届く | 訪問日の調整含め1〜2週間 |
| 精度 | 概算レベル(±10〜15%のブレがある) | 高い(±5%程度) |
| 向いている場面 | まだ売るか決めていない段階、大まかな金額を知りたい時 | 売却を具体的に考えている段階 |
本格的に売却を進めるなら、訪問査定は必須だ。机上査定だけでは、室内の状態、日当たり、眺望、騒音、管理状態といった現地でしかわからない要素が反映されない。
何社に依頼すべきか
査定は3〜5社に依頼するのが適切だ。1社だけでは比較ができない。逆に10社以上に依頼すると、電話対応に追われて疲弊する。
大手(三井のリハウス、住友不動産販売、東急リバブルなど)と地元密着型を組み合わせるのがバランスが良い。大手は集客力と知名度に強みがあり、地元業者はエリア特有の買い手ネットワークを持っていることが多い。
ステップ3:不動産会社を選び、媒介契約を結ぶ(1〜2週間)
査定結果が出揃ったら、売却を任せる不動産会社を選び、媒介契約(売却の仲介を依頼する契約)を結ぶ。
媒介契約の3種類
媒介契約には3つの種類がある。それぞれの違いを理解した上で選ぶ必要がある。
| 項目 | 一般媒介 | 専任媒介 | 専属専任媒介 |
|---|---|---|---|
| 複数社に依頼 | できる | できない(1社のみ) | できない(1社のみ) |
| 自己発見取引 | できる | できる | できない |
| レインズ登録 | 義務なし | 7営業日以内 | 5営業日以内 |
| 報告義務 | なし | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
| 契約期間 | 制限なし(慣例3ヶ月) | 最長3ヶ月 | 最長3ヶ月 |
| 会社の動き | 競合がいるので積極的だが広告費を絞る傾向 | 1社独占なので広告費をかけやすい | 最も手厚いが囲い込みリスクも |
一般的に、信頼できる1社が見つかったなら専任媒介がバランスが良い。レインズ(不動産会社間の情報ネットワーク)への登録義務があり、定期報告も受けられるため、売却活動の透明性が確保される。
ただし、専任媒介・専属専任媒介には「囲い込み」のリスクがある。囲い込みとは、不動産会社が自社で買い手を見つけるために、他社からの問い合わせを断る行為だ。売主にとっては買い手の母数が減り、売却期間が延びる。
ステップ4:売り出し価格を決めて販売開始(数日)
媒介契約を結んだら、次は売り出し価格を決める。このステップは、売却の成否を決める最も重要な判断の一つだ。
売り出し価格の決め方——3つの価格を意識する
売り出し価格を決める際、3つの価格を頭に入れておく必要がある。
- 査定価格:不動産会社が「おおむねこの金額で売れるだろう」と判断した価格
- 売り出し価格:実際に市場に出す価格。交渉余地を見込んで査定価格より少し高めに設定するのが一般的
- 最低価格(売主の下限):「この金額以下では売らない」と自分で決めておく価格
売り出し価格は、査定価格の105〜110%が目安だ。高すぎると内覧すら入らず、時間だけが過ぎる。安すぎると交渉の余地がなくなり、手取りが減る。
販売活動の内容
売り出しが始まると、不動産会社は以下のような販売活動を行う。
- レインズ登録:他の不動産会社の買い手にも情報が届く
- ポータルサイト掲載:SUUMO、HOME'S、at homeなどに物件情報を掲載
- チラシ配布:周辺エリアへのポスティング、オープンハウスの案内
- 自社顧客への紹介:既に購入希望を登録している顧客への直接案内
専任媒介であれば、2週間に1回は販売活動の報告が届く。報告の中で確認すべきは、「問い合わせ件数」と「ポータルサイトのPV数」だ。これらが極端に少ない場合、価格が高すぎるか、写真・広告文の質に問題がある可能性がある。
ステップ5:内覧対応(1〜3ヶ月)
購入を検討する人が、実際に物件を見に来る。居住中の場合は、売主が立ち会うことになる。
内覧で買い手が見ているポイント
買い手は、不動産会社の広告やポータルサイトの写真では確認できない以下のポイントを内覧で確認している。
- 日当たり・採光:写真ではわからない。時間帯による日差しの変化
- 騒音・振動:幹線道路・線路の音、上下階の生活音
- におい:ペット臭、タバコ臭、排水の臭い
- 水回りの状態:キッチン、浴室、トイレの清潔さと設備の古さ
- 収納量:実際に自分の荷物が入るかのイメージ
- マンションの場合:共用部(エントランス、廊下、ゴミ置き場)の管理状態
- 周辺環境:最寄り駅からのルート、スーパー、学校の距離感
内覧準備でやるべき3つのこと
内覧は「第一印象」で決まると言っても過言ではない。最低限やるべきことは3つだ。
1. 徹底的な掃除と整理整頓
特に玄関・キッチン・浴室・トイレは念入りに。水回りの清潔さは買い手の印象に直結する。可能であればプロのハウスクリーニング(3〜5万円)を入れることをお勧めする。費用以上の効果がある。
2. 物の量を減らす
家具や荷物が多いと部屋が狭く見える。使わない物は事前に処分するか、トランクルームに移しておく。部屋が広く見えるだけで、買い手の印象は大きく変わる。
3. 換気と照明
内覧の30分前には窓を開けて換気する。すべての照明をつけ、カーテンは開ける。明るい部屋は好印象を与える。
ステップ6:購入申込・条件交渉(1〜2週間)
買い手が購入の意思を固めると、「購入申込書(買付証明書)」が提出される。ここから条件交渉が始まる。
購入申込書で確認すべきポイント
- 希望購入価格:売出価格より低い金額が提示されることが多い。値引き幅の目安は売出価格の3〜5%
- 手付金の額:物件価格の5〜10%が一般的。手付金が少なすぎる場合は、買い手の本気度を疑う必要がある
- 住宅ローンの事前審査:通過済みかどうか。未通過の場合、審査落ちで白紙に戻るリスクがある
- 引渡し希望日:自分の引っ越しスケジュールと合うか
- その他の条件:リフォーム前提、家具付き希望、残置物の処分依頼など
価格交渉の現実
買い手からの値引き交渉はほぼ100%入ると思っておいた方がいい。一切値引きに応じないと、買い手が離れてしまうリスクがある。かといって、求められるままに値引きする必要もない。
交渉の基本は、「何を譲って何を譲らないか」を事前に決めておくことだ。ステップ4で設定した「最低価格」が、ここで活きてくる。
ステップ7:売買契約の締結(1日、準備に1〜2週間)
条件がまとまったら、売買契約の締結に進む。不動産取引において最も重要な法的手続きだ。
契約当日の流れ
契約は通常、不動産会社のオフィスで行われる。所要時間は1時間半〜2時間程度。流れは以下の通りだ。
| 順序 | 内容 | 所要時間 |
|---|---|---|
| 1 | 重要事項説明(宅建士が読み上げ、買主に説明) | 30〜60分 |
| 2 | 売買契約書の読み合わせ | 20〜30分 |
| 3 | 署名・捺印 | 10分 |
| 4 | 手付金の授受 | 10分 |
売買契約書で特に注意すべき条項
契約書は定型的な内容が多いが、以下の条項は必ず確認してほしい。
住宅ローン特約(ローン条項)
買い手の住宅ローンが本審査で否決された場合、契約を白紙撤回できる条項。売主にとってはリスク要因だが、これがない契約はまず成立しない。重要なのは「期限」だ。ローン特約の期限が長すぎると、その間ずっと物件が拘束される。通常は契約日から3〜4週間が目安。
契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)
引渡し後に物件の欠陥(雨漏り、シロアリ、設備の故障など)が見つかった場合の売主の責任範囲。個人間売買では、引渡しから3ヶ月間とするのが一般的。期間と対象範囲を契約書で明確にしておくことが、後のトラブル防止につながる。
手付解除の条件
契約後でも、相手方が履行に着手するまでは手付金を放棄(売主の場合は手付金の倍額を返還)することで契約を解除できる。これは法律上の原則だが、「履行の着手」がいつの時点かを巡ってトラブルになることがある。
ステップ8:引渡し準備(1〜2ヶ月)
契約から引渡しまでの間に、売主がやるべきことは多い。
引渡しまでのToDoリスト
売主の引渡し準備チェックリスト
1. 住宅ローンの完済手続き
ローンが残っている場合、金融機関に「繰上返済」の申し出が必要。手続きには2〜4週間かかるため、早めに動く
2. 抵当権抹消の準備
ローン完済と同時に抵当権を抹消する。司法書士に依頼する。費用は1.5〜3万円程度
3. 引っ越し
引渡し日までに退去を完了させる。引っ越し業者の手配は1ヶ月前には済ませたい
4. 残置物の撤去
契約で「残置物なし」となっている場合、エアコン・照明器具を含めすべて撤去する。買い手が「残してほしい」と希望する場合もあるので、事前に確認する
5. 各種届出
電気・ガス・水道の解約、管理組合への届出(マンションの場合)、住所変更の届出
6. 必要書類の準備
権利証(登記識別情報)、実印、印鑑証明書、固定資産税の納税通知書、管理規約(マンション)など
ステップ9:決済・引渡し(1日)
いよいよ最終日。通常は買い手の住宅ローンを借りる金融機関で行われる。
決済当日の流れ
| 順序 | 内容 | 詳細 |
|---|---|---|
| 1 | 本人確認・書類確認 | 司法書士が売主・買主の本人確認、必要書類の最終チェック |
| 2 | 登記申請書類への署名捺印 | 所有権移転登記、抵当権抹消登記の書類に署名・捺印 |
| 3 | 融資実行・代金の振込 | 買い手のローンが実行され、売主の口座に売買代金が振り込まれる |
| 4 | 着金確認 | 売主が通帳またはネットバンキングで着金を確認 |
| 5 | 諸費用の精算 | 固定資産税・管理費の日割り精算、仲介手数料の支払い |
| 6 | 鍵の引渡し | 全ての鍵(合鍵含む)を買い手に渡す |
所要時間は1〜2時間。代金の着金が確認できた時点で、鍵を買い手に渡す。この瞬間をもって、物件の所有権が正式に移転する。
決済日に受け取る金額と支払う費用
決済日には売買代金の残金(手付金を差し引いた金額)を受け取ると同時に、以下の費用を支払う。
| 項目 | 金額の目安(売却価格3,000万円の場合) |
|---|---|
| 仲介手数料 | 105.6万円(3,000万円×3%+6万円+消費税) |
| 抵当権抹消費用 | 1.5〜3万円 |
| 住宅ローン繰上返済手数料 | 0〜3.3万円(金融機関による) |
| 印紙税(契約書に貼付済み) | 1万円 |
| 費用合計 | 約110〜113万円 |
手取り額は「売買代金 − 住宅ローン残債 − 上記費用」で計算できる。事前にシミュレーションしておくことで、決済日に慌てずに済む。
ステップ10:確定申告(翌年2〜3月)
売却が完了したら終わり——ではない。翌年の確定申告が残っている。
確定申告が必要なケース
不動産を売却した場合、利益が出ても出なくても確定申告をすべきだ。
- 利益(譲渡所得)が出た場合:確定申告は必須。3,000万円特別控除や10年超所有の軽減税率を使う場合も、申告しないと適用されない
- 損失が出た場合:確定申告は任意だが、「譲渡損失の損益通算・繰越控除」が使える場合がある。給与所得や年金所得と相殺して所得税の還付を受けられる可能性がある
確定申告に必要な書類
| 書類 | 入手先 |
|---|---|
| 確定申告書B | 税務署またはe-Tax |
| 譲渡所得の内訳書 | 税務署またはe-Tax |
| 売買契約書のコピー(売却時・購入時の両方) | 自分で保管しているもの |
| 仲介手数料・諸費用の領収書 | 不動産会社・司法書士等から受領済み |
| 登記事項証明書 | 法務局(オンライン取得可) |
購入時の売買契約書は、取得費を証明する最も重要な書類だ。これがないと取得費を「売却価格の5%」とみなされ、実際の購入価格より大幅に低くなり、税額が跳ね上がる可能性がある。購入時の書類は必ず保管しておくこと。
売却にかかる費用の全体像
最後に、売却にかかる費用の全体像をまとめておく。売却価格3,000万円のマンションを想定する。
| 費用項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 仲介手数料 | 105.6万円 | (売却価格×3%+6万円)×1.1 |
| 印紙税 | 1万円 | 売買契約書に貼付(軽減税率適用時) |
| 抵当権抹消費用 | 1.5〜3万円 | 司法書士報酬+登録免許税 |
| 住宅ローン繰上返済手数料 | 0〜3.3万円 | 金融機関により異なる。ネット手続きなら無料の場合も |
| ハウスクリーニング | 3〜8万円 | 任意だが推奨 |
| 引っ越し費用 | 10〜30万円 | 時期・距離・荷物量による |
| 譲渡所得税・住民税 | 0〜数百万円 | 利益が出た場合のみ。3,000万円控除で0になることも多い |
| 合計(税金除く) | 約120〜150万円 | 売却価格の4〜5% |
仲介手数料が費用の大半を占める。売却価格が高くなるほど絶対額は大きくなるが、割合としては4〜7%の範囲に収まることが多い。
まとめ——全体像を把握した上で、一歩ずつ進める
不動産売却は、多くの人にとって人生最大の金額が動く取引だ。全体像が見えないまま進めると、不安に振り回され、判断を誤りやすくなる。
この記事で解説した10のステップを頭に入れておけば、「今どの段階にいて、次に何をすべきか」が常にわかる。全体像を把握した上で、一歩ずつ進めてほしい。
最後に、30年の経験から一つだけ伝えたいことがある。
この記事のまとめ
- 不動産売却は「相場調査→査定→媒介契約→販売→内覧→交渉→契約→引渡し準備→決済→確定申告」の10ステップ
- 全体の所要期間はマンションで3〜6ヶ月、土地・戸建てで6〜12ヶ月が目安
- 最も重要なステップは「ステップ1:自分で相場を調べる」。ここを飛ばす人が最も損をする
- 売り出し価格は査定価格の105〜110%が目安。初値が最も注目される
- 売買契約書は事前にコピーをもらい、自宅で読み込んでおくこと
- 売却にかかる費用は売却価格の4〜7%。仲介手数料が大半を占める
- 確定申告は利益の有無にかかわらず行う。3,000万円控除は申告しなければ適用されない
- 「全部お任せ」が最も損をする。自分で調べ、確認し、判断することが数百万円の差を生む