決済(残代金決済・引渡し)は、不動産売却の最終ゴールだ。残代金の受領、住宅ローンの完済、抵当権の抹消、所有権の移転、鍵の引渡し——すべてがこの日、数時間のうちに連動して行われる。この記事では売主の視点で決済当日を時系列で解説する。
いつ・どこで・誰が集まるか
日時と場所
- 平日の午前中が原則。振込処理と登記申請を当日中に終えるため
- 場所は買主の住宅ローン借入先銀行の応接室が通例(買主が現金購入なら仲介会社の事務所など)
- 所要時間は2〜3時間。トラブルがあれば半日
参加者
- 売主・買主(本人。代理の場合は委任状が必要)
- 仲介会社の担当者(売主側・買主側)
- 司法書士(通常は買主側が手配)
- 銀行の担当者(融資実行の処理)
- 売主の住宅ローンが残っている場合、売主側金融機関の担当者(または書類を事前受領)
当日の流れ——時系列
| 時刻(例) | ステップ | 内容 |
|---|---|---|
| 10:00 | 集合・書類確認 | 司法書士が本人確認と登記書類(権利証・印鑑証明等)を点検。「登記可能」と確認できて初めて次へ進む |
| 10:20 | 融資実行・振込手続き | 買主のローンが実行され、買主口座へ入金。残代金・精算金の振込伝票を記入し銀行が処理 |
| 10:40〜 | 着金確認(待ち時間) | 売主の口座に残代金が着金するのを待つ。売主は記帳またはアプリで自ら確認する |
| 11:15 | ローン完済・抵当権抹消書類の受領 | 売主に残債がある場合、着金した代金で一括返済。金融機関から抹消書類を受け取り司法書士へ |
| 11:30 | 精算金の授受・領収書 | 固定資産税・管理費等の精算金、仲介手数料の残額支払い。各種領収書の取り交わし |
| 11:45 | 鍵・書類の引渡し | 鍵一式・設備の説明書・引渡し関係書類を買主へ。引渡し完了確認書に署名 |
| 午後 | 登記申請 | 司法書士が法務局へ所有権移転・抵当権抹消の登記を申請。1〜2週間で完了 |
全体を貫く原則は一つ、「着金確認より前に、権利証や鍵を相手に渡さない」だ。逆に買主側から見れば「登記書類が揃ったと確認できるまで振り込まない」。この相互の同時履行を、司法書士が真ん中に立って成立させている。
売主の持ち物リスト
- 登記識別情報(権利証)——紛失している場合は事前に司法書士へ相談(本人確認情報の作成、数万円の追加費用)
- 実印+印鑑証明書(発行後3ヶ月以内、通常1通)
- 本人確認書類(運転免許証等)
- 振込先口座の通帳・キャッシュカード(着金確認用)
- 鍵一式(玄関・勝手口・ポスト・宅配ボックス等、付帯設備表と本数一致)
- 固定資産税納税通知書(精算額の確認用)
- 実費(登記関係で売主負担分がある場合の現金)
- 住民票・戸籍の附票(登記上の住所と現住所が異なる場合の住所変更登記用——事前に司法書士から指示がある)
特に注意が必要なのは登記上の住所と現住所のズレだ。引越しを先に済ませて住民票を移すと、登記名義人住所変更登記が追加で必要になる。事前に司法書士に伝えておけば当日の書類も含めて段取りしてくれる。
お金の内訳——売主が受け取るもの・払うもの
| 区分 | 項目 | 備考 |
|---|---|---|
| 受領 | 残代金(売買代金−手付金) | 振込が基本。手付金は契約時に受領済み |
| 受領 | 固定資産税・都市計画税の精算金 | 引渡し日以降分を日割りで |
| 受領 | 管理費・修繕積立金の精算金(マンション) | 当月分を日割りで |
| 支払 | 住宅ローン残債の一括返済 | 着金した残代金から充当。繰上返済手数料も |
| 支払 | 仲介手数料(残額) | 契約時半金・決済時半金の分割が多い |
| 支払 | 抵当権抹消の登記費用 | 1.5〜3万円程度(売主負担) |
「受け取る額」と「支払う額」が当日に交差するため、事前に仲介会社が作る精算書(決済金明細)で手取り額を確認しておく。オーバーローン(残債>売却額)の場合は不足分の自己資金を当日までに用意しておく必要がある。
よくあるトラブルと対処
1. 振込が着金しない・遅い
- 他行宛・金額が大きい振込は処理に時間がかかることがある
- 午後の決済は当日着金しないリスクが上がる——午前開始が鉄則
- 着金が確認できるまで解散しない。万一当日中に着金しない場合は書類・鍵を渡さず日を改める
2. 書類の不備
- 印鑑証明書の期限切れ(3ヶ月)、実印の相違、権利証の紛失発覚が三大不備
- 決済日の1週間前までに司法書士のチェックを受けておけば当日の不備はほぼ防げる
3. 振り込め詐欺・口座間違い
- 振込先口座の変更依頼がメールで来ても応じない(ビジネスメール詐欺の典型)
- 口座情報は契約時に書面で確定し、変更する場合は対面か電話で本人確認
決済の場は独特の緊張感がある。数千万円が動くのに、やることは書類の確認と待ち時間が大半だ。だが30年の経験から言えば、決済当日のトラブルの9割は「事前準備で潰せたもの」だ。権利証の所在確認、印鑑証明の取得、住所のズレの申告、精算書の事前確認——この4つを1週間前までに済ませた売主の決済は、拍子抜けするほど淡々と終わる。
まとめ——「午前開始・着金確認・事前準備が9割」
決済当日は、司法書士の書類確認から始まり、融資実行・残代金の着金確認・ローン完済と抵当権抹消・精算金授受・鍵引渡しの順に進む。売主は権利証・実印・印鑑証明・通帳・鍵を揃え、着金確認までは何も渡さない。書類の事前チェックと午前開始さえ守れば、決済は滞りなく終わる。
この記事のまとめ
- 決済は平日午前・買主のローン借入先銀行で2〜3時間
- 流れは書類確認→融資実行→着金確認→完済・抹消→精算→鍵引渡し
- 持ち物は権利証・実印・印鑑証明・本人確認書類・通帳・鍵一式
- 着金確認まで書類・鍵は渡さない(同時履行の原則)
- 登記住所と現住所のズレは事前に司法書士へ申告
- 精算書で手取り額を事前確認、オーバーローンは不足資金を準備