「3,000万円で売れた」と聞くと、3,000万円がそのまま手元に入ると思う人がいる。実際には違う。仲介手数料、税金、各種手続き費用を差し引くと、手取りは2,500〜2,800万円程度になる。200〜500万円の差は、住み替えの資金計画を大きく左右する金額だ。

私は30年間、不動産売却の現場にいるが、「思ったより手取りが少なかった」という声は後を絶たない。特に住み替えで新居の購入資金に売却代金を充てる場合、費用を正確に見積もっていないと資金ショートを起こしかねない。

この記事では、不動産売却にかかる費用を全項目リストアップし、3つのケースで手取り額のシミュレーションを行う。売却を検討している方は、まずこの記事で「結局いくら手元に残るのか」を把握してから動き出してほしい。

売却にかかる費用一覧——全10項目

不動産売却で発生しうる費用を、すべてリストアップする。物件の種類や状況によって発生しない項目もあるが、まずは全体像を把握しておこう。

費用項目金額の目安発生条件
仲介手数料売却価格×3%+6万円+消費税仲介で売却する場合(ほぼ全員)
印紙税1〜3万円売買契約書に貼付(全員)
抵当権抹消費用1〜3万円住宅ローンが残っている場合
住宅ローン繰上返済手数料0〜3万円住宅ローンが残っている場合
譲渡所得税・住民税利益×20.315〜39.63%売却益が出た場合
引越し費用10〜30万円居住中の物件を売る場合
測量費30〜80万円土地・戸建て売却で確定測量が必要な場合
解体費100〜300万円古家付き土地を更地にして売る場合
ハウスクリーニング5〜15万円任意だが内覧対策として推奨
その他数千〜数万円残置物処分、各種証明書取得など

マンション売却の場合、一般的にかかるのは仲介手数料・印紙税・抵当権抹消費用・引越し費用の4項目で、合計120〜150万円程度だ。土地売却では測量費や解体費が加わるため、200〜500万円に膨らむこともある。以下、各項目を詳しく見ていく。

1. 仲介手数料——最大の費用項目

売却費用の中で最も大きいのが仲介手数料だ。法律で上限額が定められており、ほとんどの不動産会社がこの上限額をそのまま請求する。

仲介手数料の計算方法(速算式)

仲介手数料の上限は、売買価格に応じて以下の速算式で計算できる。

売買価格仲介手数料の上限(税抜)
200万円以下売買価格×5%
200万円超〜400万円以下売買価格×4%+2万円
400万円超売買価格×3%+6万円

ほとんどの不動産売却は400万円超なので、「売買価格×3%+6万円+消費税」で覚えておけばよい。具体的な金額を示す。

  • 売却価格1,000万円 → 仲介手数料39.6万円(税込)
  • 売却価格2,000万円 → 仲介手数料72.6万円(税込)
  • 売却価格3,000万円 → 仲介手数料105.6万円(税込)
  • 売却価格5,000万円 → 仲介手数料171.6万円(税込)

400万円以下の特例

2018年の法改正により、売買価格が400万円以下の物件については、仲介手数料の上限が「18万円+消費税(19.8万円)」に引き上げられた。空き家や地方の低価格物件でも、不動産会社が最低限の報酬を確保できるようにするための特例だ。

仲介手数料の値引き交渉は可能か

法律で定められているのは「上限」であり、これ以下の金額で合意すること自体は違法ではない。ただし、仲介手数料を値引きすると不動産会社の利益が減るため、広告費の削減や営業の優先度低下につながるリスクがある。手数料を下げた結果、売却期間が延びたり、最終的な成約価格が下がったりしては本末転倒だ。

結論としては、仲介手数料の値引き交渉はできるが、無理に下げるよりも「適正な手数料を払って、全力で売ってもらう」方が結果的に手取りが多くなるケースが大半だ。

2. 印紙税

不動産売買契約書には、売買価格に応じた収入印紙を貼付する必要がある。2027年3月31日までは軽減税率が適用される。

売買価格本則税額軽減税額
100万円超〜500万円以下2,000円1,000円
500万円超〜1,000万円以下10,000円5,000円
1,000万円超〜5,000万円以下20,000円10,000円
5,000万円超〜1億円以下60,000円30,000円

3,000万円の売却なら印紙税は1万円。金額としては小さいが、契約時に現金で用意する必要があるため、忘れずに準備しておこう。

3. 抵当権抹消費用

住宅ローンが残っている物件を売却する場合、決済時にローンを完済し、抵当権を抹消する必要がある。手続きは司法書士に依頼するのが一般的だ。

  • 登録免許税:不動産1件につき1,000円(土地と建物で2,000円)
  • 司法書士報酬:10,000〜20,000円
  • 合計:1〜3万円

金額は小さいが、必ず発生する費用なので計算に入れておく。

4. 住宅ローン繰上返済手数料

売却代金で住宅ローンを一括繰上返済する際に、金融機関から手数料を請求されることがある。金額は金融機関や返済方法によって異なる。

  • ネット銀行:無料の場合が多い
  • メガバンク:窓口手続きで1〜3万円、ネット手続きなら無料〜5,500円
  • 地方銀行・信用金庫:1〜3万円

事前に借入先の金融機関に確認しておけば、正確な金額がわかる。

5. 譲渡所得税・住民税——利益が出た場合のみ

不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、所得税と住民税が課税される。税率は所有期間によって大きく異なる。

区分所有期間税率(所得税+住民税+復興特別税)
長期譲渡所得5年超(売却年の1月1日時点)20.315%
短期譲渡所得5年以下(売却年の1月1日時点)39.63%

注意すべきは、所有期間の判定基準が「売却した年の1月1日時点」であることだ。2021年4月に購入した物件を2026年5月に売却した場合、実際の所有期間は5年1ヶ月だが、2026年1月1日時点では4年9ヶ月。短期譲渡所得として39.63%の税率が適用される。1年待って2027年1月2日以降に売却すれば、税率は20.315%に下がる。

ただし、マイホームの売却には3,000万円特別控除があるため、多くのケースで譲渡所得税はゼロになる。詳しくは後述する。

6. 引越し費用

居住中の物件を売却する場合、引越し費用がかかる。荷物量・移動距離・時期によって金額は大きく変動する。

  • 単身:5〜10万円
  • 2人家族:8〜15万円
  • 3〜4人家族:10〜25万円
  • 繁忙期(3〜4月):通常期の1.5〜2倍

引越し時期を選べるなら、繁忙期を避けるだけで5〜10万円の節約になる。売却のスケジュールを組む際に意識しておきたいポイントだ。

7. 測量費——土地・戸建て売却で発生

土地や戸建てを売却する際、買主から確定測量を求められることが多い。確定測量とは、隣接するすべての土地の所有者と境界を確認し、正確な面積を確定させる作業だ。

  • 現況測量(簡易):10〜20万円
  • 確定測量(民民のみ):30〜50万円
  • 確定測量(官民立会いあり):50〜80万円

隣地との境界が明確で、過去に確定測量済みの場合は不要なこともある。ただし、測量図が古い場合(20年以上前など)は、再測量を求められるケースが多い。マンションの場合は測量は不要だ。

8. 解体費——古家付き土地の場合

築年数が古く、建物に価値がない場合、更地にして売却した方が買い手がつきやすいことがある。解体費の目安は以下の通り。

  • 木造(30坪):90〜150万円
  • 鉄骨造(30坪):120〜200万円
  • RC造(30坪):150〜300万円

解体費は構造と面積で大きく変わる。また、前面道路が狭く重機が入れない場合は、手壊しになるため費用がさらに上がる。解体するかどうかは、不動産会社と相談して判断すべきだ。更地にしても売れない可能性があるなら、古家付きのまま売り出す方が賢明な場合もある。

9. ハウスクリーニング

必須ではないが、内覧時の印象を良くするために、プロのハウスクリーニングを入れることを推奨する。

  • 水回りセット(キッチン・浴室・トイレ・洗面台):3〜5万円
  • 全体クリーニング(3LDK):5〜10万円
  • フローリングのワックスがけを含む場合:8〜15万円

特に水回りの清潔感は買主の印象を大きく左右する。5万円のクリーニング費用で成約価格が数十万円変わることもあるため、費用対効果は高い。ただし、自分で丁寧に掃除できるなら、プロに依頼しなくても十分だ。

10. その他の費用

  • 残置物処分費:不用品の処分を業者に依頼する場合、5〜30万円程度。自分で処分すれば節約できる
  • 各種証明書取得費:固定資産税評価証明書(300〜400円)、登記簿謄本(600円)など。金額は小さいが忘れずに
  • 建物状況調査(インスペクション):任意だが、買主の安心感につながる。5〜10万円

手取り額シミュレーション——3つのケース

ここまでの費用項目を踏まえて、具体的な手取り額を3つのケースでシミュレーションする。

ケース1:マンション3,000万円売却(ローン残1,000万円)

項目金額
売却価格3,000万円
仲介手数料▲105.6万円
印紙税▲1万円
抵当権抹消費用▲2万円
ローン繰上返済手数料▲2万円
ローン残債返済▲1,000万円
引越し費用▲15万円
ハウスクリーニング▲5万円
譲渡所得税0円(3,000万円控除適用)
手取り額約1,869万円

売却価格3,000万円に対し、諸費用は約131万円。ローン残債1,000万円を返済すると、手元に残るのは約1,869万円だ。

ケース2:戸建て2,500万円売却(ローン完済済み、確定測量あり)

項目金額
売却価格2,500万円
仲介手数料▲89.1万円
印紙税▲1万円
測量費(確定測量・官民立会い)▲60万円
引越し費用▲20万円
ハウスクリーニング▲8万円
譲渡所得税0円(3,000万円控除適用)
手取り額約2,322万円

ローンがなくても、測量費60万円が加わると諸費用は約178万円になる。2,500万円の売却で手取りは約2,322万円だ。

ケース3:相続した土地1,500万円売却(古家解体あり)

項目金額
売却価格1,500万円
仲介手数料▲56.1万円
印紙税▲1万円
測量費(確定測量)▲45万円
解体費(木造30坪)▲120万円
残置物処分▲15万円
譲渡所得税0円(相続空き家の3,000万円控除適用)
手取り額約1,263万円

古家の解体を伴う場合、諸費用は約237万円。1,500万円の売却で手取りは約1,263万円と、売却価格の84%程度になる。解体費と測量費がいかに大きいかがわかる。

3,000万円特別控除で譲渡所得税をゼロにする

マイホームを売却して利益(譲渡所得)が出た場合でも、「居住用財産の3,000万円特別控除」を使えば、譲渡所得から最大3,000万円を差し引くことができる。たとえば購入価格2,000万円の物件を4,000万円で売却した場合、譲渡所得は約2,000万円(取得費・譲渡費用を差し引いた概算)。3,000万円の控除枠に収まるため、税金はゼロになる。

適用を受けるための主な条件

  • 自分が住んでいた家屋、またはその家屋と敷地を売ること
  • 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
  • 売主と買主が親族など特別な関係でないこと
  • 前年、前々年にこの特例の適用を受けていないこと

確定申告をしないと控除が受けられない

ここは極めて重要だ。3,000万円特別控除は、確定申告をして初めて適用される。申告しなければ、控除は受けられず、そのまま課税される。「利益が出ても控除があるから大丈夫」と安心して確定申告を忘れる人がいるが、それでは控除が適用されない。売却した翌年の2月16日〜3月15日の確定申告期間に、必ず申告を行うこと。

確定申告と3,000万円特別控除の詳細は確定申告と3,000万円特別控除で解説している。税金の全体像については不動産売却にかかる税金の全体像も参照してほしい。

費用を抑えるためのポイント

売却費用をすべて削減するのは現実的ではないが、工夫次第で抑えられる項目もある。

ハウスクリーニングは自力でも可

プロに依頼すれば5〜15万円かかるが、市販の洗剤と時間をかければ自分でも十分にきれいにできる。特にキッチンのコンロ周り、浴室のカビ、トイレの黄ばみは、専用洗剤を使えば見違えるほど改善する。ただし、水回りだけはプロに任せるという選択肢もある(部分クリーニングなら2〜3万円)。

測量は不要なケースもある

以下の場合、確定測量を省略できる可能性がある。

  • 過去10年以内に確定測量済みで、測量図が残っている
  • 分譲地で境界杭が明確に残っている
  • 買主が測量不要と合意した場合(ただし買主のリスクが高まるため、価格交渉に影響する可能性あり)

隣地所有者との関係が良好で、境界に争いがなければ、不動産会社を通じて測量の要否を判断してもらおう。

引越しは繁忙期を避ける

3〜4月の繁忙期は引越し料金が通常の1.5〜2倍になる。売却のスケジュールを調整できるなら、5〜6月や9〜11月の閑散期に引越しを設定するだけで、数万円の節約になる。平日を選べばさらに安くなることが多い。

残置物は自分で処分する

業者に依頼すると5〜30万円かかる残置物の処分も、自治体の粗大ごみ回収やリサイクルショップを活用すれば大幅に費用を抑えられる。時間に余裕があるなら、フリマアプリで売却するのも一つの手だ。

実例:3,000万円で売却→手取り2,680万円の内訳

実際に私が関わった案件を紹介する。東京都内のマンション(3LDK・築15年)を3,000万円で売却したケースだ。住宅ローンは完済済みだった。

費用項目金額
売却価格3,000万円
仲介手数料(税込)▲105.6万円
印紙税▲1万円
引越し費用(閑散期・近距離)▲12万円
ハウスクリーニング(水回りのみ)▲2.5万円
各種証明書取得▲0.2万円
譲渡所得税0円(3,000万円控除)
手取り額約2,879万円

ローンがなく、マンションなので測量も解体も不要。費用は合計121万円で、手取りは2,879万円。引越しを閑散期に設定し、ハウスクリーニングも水回りだけにしたことで、費用を最小限に抑えた事例だ。

実例:費用を把握せず住み替え→資金ショートしかけたケース

一方で、費用の見積もりが甘かったために危うく資金ショートしかけたケースもある。

千葉県の戸建て(築25年・土地40坪)を2,800万円で売却し、新居のマンション購入に充てる計画だった。売主は「2,800万円が入るから、新居の頭金は2,500万円まで出せる」と考え、先に新居の売買契約を結んだ。

しかし、実際に売却を進めると以下の費用が発生した。

  • 仲介手数料:▲99万円
  • 印紙税:▲1万円
  • 確定測量(官民立会い):▲65万円
  • 引越し費用(繁忙期):▲28万円
  • 残置物処分:▲12万円
  • ハウスクリーニング:▲8万円

合計213万円。手取りは約2,587万円で、当初の想定より213万円少ない。新居の頭金2,500万円はかろうじて確保できたものの、引越し後の生活費の余裕がほとんどなくなってしまった。測量費と繁忙期の引越し費用を計算に入れていなかったことが原因だ。

このケースで学ぶべきことは明確だ。新居の購入予算を決める前に、売却の手取り額を正確に計算すべきだった。

売却前に「手取り額」を計算してから全ての判断をすべき

不動産売却で最も重要な数字は「売却価格」ではなく「手取り額」だ。売却価格がいくらであろうと、費用を差し引いた後に手元に残る金額が、住み替え資金や生活資金の原資になる。

手取り額を計算する手順は以下の通りだ。

  1. 自分の不動産の相場を調べる(都道府県ページから確認可能)
  2. 想定売却価格から仲介手数料を計算する(価格×3%+6万円+消費税)
  3. 物件種別に応じた費用を加算する(マンション→最小限、土地→測量・解体を考慮)
  4. ローン残債があれば差し引く
  5. 譲渡所得税の有無を確認する(マイホームなら3,000万円控除を確認)

この手取り額をベースに、新居の購入予算、引越し時期、売却のタイミングを決める。順序を間違えると、先に新居を契約して資金が足りなくなるリスクがある。

売却の全体の流れについては不動産売却の流れを完全解説を参照してほしい。流れと費用の両方を把握しておけば、不動産会社に相談する際にも的確な質問ができるようになる。

この記事のまとめ

  • 不動産売却の費用は最大10項目。仲介手数料が最大で、3,000万円売却なら105.6万円
  • マンション売却の諸費用は120〜150万円、土地売却は測量・解体含め200〜500万円
  • 譲渡所得税はマイホームなら3,000万円特別控除が使えるが、確定申告が必須
  • ハウスクリーニングの自力対応、引越し時期の調整、測量の要否確認で費用を抑えられる
  • 「売却価格」ではなく「手取り額」を基準に、住み替え・資金計画の全ての判断をすべき
  • 新居の購入予算を決める前に、必ず手取り額を計算すること