不動産の売却は、多くの人にとって人生で1回か2回しか経験しない取引だ。金額は数百万円から数億円。にもかかわらず、「何から始めればいいのかわからない」という状態で不動産会社に相談する人が大半だ。

不動産会社に任せておけば進むのは事実だが、全体の流れを知らないまま任せきりにすると、判断すべきタイミングで正しい判断ができない。査定額が妥当かどうか、媒介契約の種類は何を選ぶべきか、値下げのタイミングはいつか——こうした判断は、流れを理解している人とそうでない人で結果が大きく変わる。

この記事では、不動産売却の全体フローを8つのステップに分けて解説する。各ステップの期間、やるべきこと、注意点を具体的に示すので、売却を検討している方は全体像を掴んでから動き出してほしい。

売却の全体フロー——8つのステップ

不動産売却は、大きく分けて以下の8ステップで進む。全体の所要期間は3〜8ヶ月が目安だ。

ステップ内容期間の目安
1相場を調べる1〜2週間
2不動産会社に査定を依頼する1〜2週間
3媒介契約を結ぶ数日
4売り出し価格を決める数日
5売却活動1〜6ヶ月
6購入申し込み・条件交渉1〜2週間
7売買契約1日(契約日)
8決済・引渡し契約から1〜2ヶ月後

それぞれのステップを詳しく見ていこう。

ステップ1:相場を調べる(1〜2週間)

売却を考え始めたら、最初にやるべきことは「自分の不動産がいくらで売れそうか」を自分で調べることだ。不動産会社に査定を依頼する前に、自分なりの相場観を持っておくことが極めて重要になる。

なぜ事前に相場を調べるべきか

相場を知らずに査定を受けると、不動産会社が出した査定額が高いのか安いのか判断できない。中には「うちに任せてもらうために」意図的に高い査定額を出す会社もある。査定額が高い会社=良い会社ではない。相場を知っていれば、不自然に高い査定額を見抜ける。

自分で相場を調べる方法

  • 本サイト(fudosan-souba.jp):国土交通省の成約データを元に、全国の不動産相場を公開している。エリア・種別ごとの坪単価や価格帯を確認できる
  • レインズマーケットインフォメーション:国土交通大臣指定の不動産流通機構が提供する成約価格データ。直近の取引事例を検索できる
  • 国土交通省 不動産取引価格情報:実際の成約価格が公開されている。匿名化されているが、エリアの相場感を掴むには十分だ

この段階では正確な価格を把握する必要はない。「だいたい3,000万円前後かな」という大まかな感覚があれば、次のステップで不動産会社の査定額を冷静に評価できる。

ステップ2:不動産会社に査定を依頼する(1〜2週間)

相場の目安がついたら、不動産会社に正式な査定を依頼する。査定には「机上査定」と「訪問査定」の2種類がある。

机上査定と訪問査定の違い

机上査定(簡易査定)は、物件の基本情報(所在地、面積、築年数など)をもとに、過去の取引事例やデータから概算価格を算出する方法だ。現地を見ずに行うため、精度はやや落ちるが、1〜2日で結果が出る。まずはここから始めるのが一般的だ。

訪問査定は、不動産会社の担当者が実際に物件を訪問し、室内の状態・日当たり・眺望・周辺環境などを確認したうえで査定額を算出する。精度は高いが、各社とも1〜2時間の立ち会いが必要だ。売却を具体的に検討している段階で依頼する。

複数社に依頼すべき理由

査定は最低3社、できれば5社に依頼するのが望ましい。理由は単純で、不動産会社によって査定額にばらつきが出るからだ。3,000万円と出す会社もあれば、3,500万円と出す会社もある。複数社の査定額を比較すれば、妥当な価格帯が見えてくる。

査定額が高い=良い会社ではない

ここは強調しておきたい。査定額が最も高い会社に飛びつくのは危険だ。査定額はあくまで「この価格で売れるだろう」という不動産会社の見解であり、保証ではない。意図的に高い査定額を出して媒介契約を取り、その後「やっぱり売れないので値下げしましょう」と言ってくる会社は少なくない。

査定額の根拠をきちんと説明できるか、類似物件の成約事例を示してくれるか。この点を確認することが重要だ。

ステップ3:媒介契約を結ぶ

査定結果を比較し、信頼できる不動産会社が見つかったら、媒介契約を結ぶ。媒介契約には3種類あり、それぞれ特徴が異なる。

項目一般媒介専任媒介専属専任媒介
複数社への依頼可能不可不可
自分で買主を見つけた場合直接取引可直接取引可不可(会社を通す)
レインズ登録義務なし7営業日以内5営業日以内
活動報告義務なし2週間に1回以上1週間に1回以上
契約期間制限なし(慣例3ヶ月)最長3ヶ月最長3ヶ月

専任媒介か専属専任媒介を選ぶ人が多い。不動産会社が責任を持って活動してくれる、レインズへの登録義務がある、定期的な報告が受けられる——これらのメリットがあるからだ。一般媒介は複数社に依頼できる自由度があるが、各社とも「他社で決まるかもしれない」と考えるため、広告費をかけた積極的な販売活動をしにくい面がある。

媒介契約の期間は最長3ヶ月。更新も可能だが、3ヶ月経っても反応が薄い場合は、会社を変えることも検討すべきだ。媒介契約の詳しい比較は媒介契約3種類の違い——一般・専任・専属専任を正しく選ぶで解説している。

ステップ4:売り出し価格を決める

媒介契約を結んだら、次は売り出し価格を決める。ここで重要なのは、査定額=売り出し価格ではないということだ。

査定額と売り出し価格の関係

査定額は「この価格なら3ヶ月以内に売れるだろう」という目安だ。売り出し価格は、ここから値下げ交渉の余地を織り込んで設定する。一般的には、査定額の5〜10%上乗せした価格で売り出すことが多い。

たとえば査定額が3,000万円なら、売り出し価格は3,150〜3,300万円に設定する。買主からの値引き交渉を想定して、最終的に3,000万円前後で着地するイメージだ。

高すぎる売り出し価格のリスク

「少しでも高く売りたい」という気持ちはわかるが、相場からかけ離れた価格で売り出すと逆効果になる。ポータルサイトで物件を検索する買主は価格帯で絞り込むため、相場より明らかに高い物件はそもそも検索結果に表示されない。さらに、長期間売れ残ると「何か問題がある物件では」と警戒される。

売り出し価格の設定については売り出し価格の決め方——高すぎても安すぎてもダメな理由で詳しく解説している。

ステップ5:売却活動(1〜6ヶ月)

売り出し価格が決まったら、いよいよ売却活動が始まる。ここでは不動産会社と売主、それぞれの役割を理解しておこう。

不動産会社がやること

  • レインズへの登録:全国の不動産会社が閲覧できるデータベースに物件情報を登録する
  • ポータルサイトへの掲載:SUUMO、HOME'S、アットホームなどの不動産ポータルサイトに物件を掲載する
  • チラシ配布:物件周辺エリアにチラシを配布する(会社によって対応が異なる)
  • 購入検討者への紹介:既に顧客リストを持っている会社は、条件に合う検討者に直接紹介する

売主がやること

  • 内覧対応:購入希望者が物件を見に来る際の対応。居住中の場合は、見学日のスケジュール調整が必要
  • 清掃・整理整頓:内覧時の印象は成約率に直結する。特に玄関・水回り・リビングは重点的に清掃する
  • 不用品の処分:物が多いと部屋が狭く見える。内覧前に不用品を処分しておく

内覧対応の具体的なコツは内覧で売れる家と売れない家の違いを参照してほしい。

反応が薄い場合の対策

売り出して1〜2ヶ月経っても内覧の申し込みがほとんどない場合、原因は主に3つだ。

  1. 価格が高すぎる:最も多い原因。相場と比較して10%以上高いと反応は極端に鈍る
  2. 写真や物件情報の質が低い:ポータルサイトの写真が暗い、情報が不十分だと、クリックすらされない
  3. 不動産会社の活動が不十分:レインズ登録はしているが、積極的な営業をしていないケース

2ヶ月経っても反応がなければ、まずは不動産会社に「問い合わせ件数」「ポータルサイトの閲覧数」を確認する。数字を見れば、価格の問題なのか、露出の問題なのかが判断できる。

ステップ6:購入申し込み・条件交渉

購入希望者が現れると、「買付証明書(購入申込書)」が提出される。これは「この条件で購入したい」という意思表示だ。

買付証明書の見方

買付証明書には、購入希望価格、手付金額、融資条件(住宅ローンの利用有無)、引渡し希望日などが記載される。売り出し価格そのままの金額で申し込みが入ることもあるが、値引きを前提とした金額が書かれることも多い。

値引き交渉への対応

値引き交渉は不動産取引ではごく一般的だ。3,000万円で売り出した物件に対して「2,850万円で買いたい」という申し込みが入るのは珍しくない。

対応の基本は以下の通りだ。

  • 値引き幅が売り出し価格の3〜5%以内なら、前向きに検討する
  • 値引き幅が10%を超える場合は、根拠を確認したうえで判断する
  • 複数の購入申し込みがある場合は、価格だけでなく融資条件や引渡し時期も比較する
  • 住宅ローンの事前審査を通過している買主は確実性が高い

なお、買付証明書には法的拘束力はない。申し込みが入っても、最終的に売買契約に至らないケースもある。

ステップ7:売買契約

条件が合意に達したら、売買契約を締結する。契約日には売主・買主・不動産会社の担当者が集まり、重要事項説明と契約書の取り交わしを行う。

手付金について

売買契約時に、買主から手付金を受領する。手付金の相場は売買価格の5〜10%だ。3,000万円の物件なら150〜300万円。この手付金は「解約手付」の性質を持つ。買主が契約を解除する場合は手付金を放棄、売主が解除する場合は手付金の倍額を返還する。

契約不適合責任

2020年の民法改正で「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変わった。引き渡した物件が契約内容に適合しない場合、売主は買主に対して責任を負う。たとえば、雨漏り・シロアリ被害・給排水管の故障など、契約時に告知していなかった不具合が見つかった場合、売主が修繕費を負担する義務がある。

これを避けるため、売主は物件の状態を正直に告知することが重要だ。「告知書(物件状況報告書)」に既知の不具合をすべて記載しておけば、後のトラブルを防げる。

契約から決済までの期間

売買契約を締結してから決済・引渡しまでは、通常1〜2ヶ月かかる。この間に買主は住宅ローンの本審査を通し、売主は引っ越しの準備を進める。

ステップ8:決済・引渡し

売却の最終ステップ。決済日には売主・買主・不動産会社・司法書士が金融機関に集まり、以下の手続きを同時に行う。

残代金の受領

買主から残代金(売買価格から手付金を差し引いた金額)を受け取る。住宅ローンを利用する買主の場合は、銀行の融資実行と同時に売主の口座に振り込まれる。

抵当権の抹消

売却する物件に住宅ローンが残っている場合、残代金で住宅ローンを完済し、抵当権を抹消する。司法書士がその場で手続きを行う。抵当権が残ったままでは物件を引き渡せないため、決済日に同時処理するのが一般的だ。

鍵の引渡し

残代金の受領と抵当権の抹消が完了したら、買主に鍵を引き渡す。この瞬間をもって、物件の所有権が正式に移転する。

固定資産税の精算

固定資産税は1月1日時点の所有者に対して1年分が課税される。売却した場合は、引渡し日を基準に日割り計算で精算する。たとえば7月1日に引渡す場合、1月1日〜6月30日分は売主負担、7月1日〜12月31日分は買主負担となる。

売却にかかる費用一覧

不動産を売却すると、さまざまな費用が発生する。事前に把握しておかないと、「手取り額が思ったより少ない」ということになりかねない。

費用項目金額の目安備考
仲介手数料売買価格×3%+6万円+消費税法定上限額。3,000万円なら約105万円
印紙税1〜6万円売買価格により変動。1,000万〜5,000万円なら1万円(軽減税率適用時)
抵当権抹消費用1〜3万円司法書士報酬込み。住宅ローン残がある場合のみ
住宅ローン繰上返済手数料0〜3万円金融機関による。無料の場合もある
引越し費用10〜30万円荷物量・距離・時期により変動
譲渡所得税利益に対して約20〜39%所有期間5年超なら約20%、5年以下なら約39%。3,000万円特別控除あり

売買価格3,000万円の場合、仲介手数料・印紙税・抵当権抹消費用・引越し費用を合計すると、おおよそ120〜140万円の諸費用がかかる。譲渡所得税は、購入時の価格より高く売れた場合(=利益が出た場合)にのみ発生する。マイホームなら3,000万円の特別控除が使えるため、多くのケースで非課税になる。

売却にかかる期間の目安

売却にかかる期間は、物件の種類やエリア、価格設定によって大きく異なる。あくまで目安だが、以下の通りだ。

物件種別売却期間の目安補足
マンション3〜6ヶ月駅近・人気エリアなら1〜2ヶ月で決まることも
戸建て4〜8ヶ月土地の形状・接道条件で差が出やすい
土地4〜8ヶ月エリアの需要に大きく左右される

マンションは「同じマンション内の過去の成約価格」という明確な比較対象があるため、買主が判断しやすく、比較的早く売れる傾向がある。戸建てや土地は個別性が高く、買主が慎重になるため、売却期間が長引きやすい。

上記の期間は「売却活動の開始から成約まで」の目安だ。相場調査や査定の期間(1〜4週間)と、契約から引渡しまでの期間(1〜2ヶ月)を加えると、売却を思い立ってから完了するまでの全体期間はさらに長くなる。

よくある失敗——これだけは避けたい

30年間、不動産取引の現場にいると、同じ失敗パターンを何度も目にする。以下の4つは特に多い。

失敗1:1社だけに査定を依頼する

1社だけの査定では、その金額が妥当かどうか判断できない。たまたま相場より低い査定額を出す会社に当たれば、数百万円の損失になる。逆に、意図的に高い査定額を出す会社に当たれば、売れない価格で時間を浪費する。最低3社、できれば5社から査定を受けるべきだ。

失敗2:相場を調べずに売り出し価格を決める

不動産会社の査定額をそのまま売り出し価格にしてしまうケース。査定額が相場より高ければ売れ残り、安ければ損をする。ステップ1で自分なりの相場観を持っておけば、査定額の妥当性を判断でき、適正な売り出し価格を設定できる。

失敗3:内覧の準備をしない

内覧は「物件の第一印象が決まる場」だ。散らかった部屋、汚れた水回り、暗い玄関——こうした状態で内覧を受けると、買主の購入意欲は一気に下がる。ハウスクリーニング(5〜10万円程度)を入れるだけで、成約率は大きく変わる。物が多い場合は、トランクルームに一時的に預けるのも有効だ。

失敗4:値下げのタイミングを逃す

「もう少し待てば売れるかもしれない」と値下げを先延ばしにした結果、売却期間が半年、1年と長引くケース。不動産は売り出してから1〜2ヶ月が最も注目される時期だ。この期間に反応がなければ、価格に問題がある可能性が高い。3ヶ月を目安に価格を見直すべきだ。長期間売れ残ると「売れ残り物件」というレッテルが貼られ、さらに売りにくくなる悪循環に陥る。

全体像を知っていれば、正しい判断ができる

不動産売却は、多くの人にとって慣れない取引だ。しかし、全体の流れを理解しておけば、各ステップで「今何が起きているのか」「次に何をすべきか」が明確になる。

特に重要なのは、以下の3つだ。

  1. 査定前に相場を調べる:不動産会社の言いなりにならないために
  2. 複数社に査定を依頼する:査定額の妥当性を判断するために
  3. 売り出し価格を戦略的に設定する:値下げ余地を織り込み、売却期間をコントロールするために

不動産会社は売却のパートナーだが、最終的な判断は売主自身が行う。全体像を知っている売主は、不動産会社との交渉でも対等に話ができる。知識がないまま任せきりにすれば、相手のペースで進められてしまう。

お住まいのエリアの不動産相場は都道府県ページから確認できる。まずは自分の不動産がいくらくらいで売れそうか、データを見ることから始めてほしい。

この記事のまとめ

  • 不動産売却は8ステップ。全体の所要期間は3〜8ヶ月が目安
  • 査定前に相場を調べておくことで、査定額の妥当性を判断でき、交渉力が高まる
  • 査定は最低3社に依頼。査定額が高い会社=良い会社ではない
  • 媒介契約は一般・専任・専属専任の3種類。メリット・デメリットを理解して選ぶ
  • 売り出し価格は査定額の5〜10%上乗せが目安。値下げ余地を織り込んで設計する
  • 売却にかかる諸費用は売買価格の4〜5%程度。譲渡所得税はマイホームなら3,000万円控除あり