「媒介契約って3種類あるんですか? 不動産会社に言われるまま専任で契約してしまいました」
売却相談で、こう言う人が本当に多い。不動産会社に売却を依頼するときに結ぶ「媒介契約」は、一般媒介・専任媒介・専属専任媒介の3種類ある。この違いを理解せずに契約して、後悔するケースが後を絶たない。
不動産会社は十中八九、「専任媒介」を勧めてくる。理由は後で詳しく書くが、それが売主にとってベストとは限らない。物件の特性や状況によって、最適な契約形態は変わる。
30年間この業界にいて、売る側も仲介する側も経験してきた立場から、3種類の媒介契約の本質的な違いと、あなたの物件にはどれが最適かを解説する。
媒介契約の3種類——概要を押さえる
まず、3種類それぞれの特徴を簡潔に整理しておこう。
一般媒介契約
複数の不動産会社に同時に売却を依頼できる契約だ。A社にもB社にもC社にも、同時に「うちのマンションを売ってください」と頼める。自分で買い手を見つけた場合(自己発見取引)も、不動産会社を通さずに直接売買できる。
不動産会社にとっては、他社が先に成約すれば手数料はゼロ。そのため、レインズ(不動産流通機構のデータベース)への登録義務もなければ、売主への業務報告義務もない。
専任媒介契約
依頼できる不動産会社は1社のみ。ただし、自己発見取引はOKだ。知人に売る場合など、自分で買い手を見つければ直接契約できる。
1社だけに任せる代わりに、不動産会社には義務が課される。レインズへの登録は契約から7日以内。売主への業務報告は14日に1回以上。「ちゃんとやっています」と報告する義務があるわけだ。
専属専任媒介契約
3つの中で最も拘束力が強い。依頼は1社のみ、自己発見取引もNG。たとえ自分の親戚に売りたくても、必ず契約した不動産会社を通す必要がある。
その分、不動産会社の義務も最も重い。レインズ登録は5日以内、業務報告は7日に1回以上だ。
3種類の比較表
違いを一覧にすると、こうなる。
| 比較項目 | 一般媒介 | 専任媒介 | 専属専任媒介 |
|---|---|---|---|
| 依頼可能な社数 | 複数社OK | 1社のみ | 1社のみ |
| 自己発見取引 | OK | OK | NG |
| レインズ登録義務 | なし | 7日以内 | 5日以内 |
| 業務報告義務 | なし | 14日に1回以上 | 7日に1回以上 |
| 契約期間の上限 | 法的制限なし(慣習3ヶ月) | 3ヶ月 | 3ヶ月 |
| 途中解約 | いつでも可能 | 義務違反があれば可能 | 義務違反があれば可能 |
表を見ると、売主の自由度は「一般 > 専任 > 専属専任」の順に高い。逆に、不動産会社の義務は「専属専任 > 専任 > 一般」の順に重い。自由度と義務がトレードオフの関係になっている。
不動産会社が「専任」を勧める本当の理由
不動産会社を訪ねると、ほぼ間違いなく「専任媒介でお願いします」と言われる。営業マンは「専任の方が当社も本気で販売活動できますので」と説明するだろう。これは嘘ではないが、本音はもっと単純だ。
専任なら、仲介手数料を確実に回収できるからだ。
一般媒介で3社に依頼した場合、成約できるのは1社だけ。残り2社はタダ働きになる。不動産会社からすれば、広告費をかけて、内覧の調整をして、購入希望者と交渉して——その結果、他社が先に決めてしまったら収入ゼロだ。
専任なら、いずれ売れれば必ず自社に手数料が入る。広告費も安心してかけられる。両手取引(売主・買主の両方から手数料をもらう)を狙う余裕もできる。
一般媒介のメリットとデメリット
メリット
1. 複数社の競争原理が働く。3社に依頼すれば、各社が「うちが先に決めたい」と競い合う。より高い価格で、より早く、買い手を見つけようとする。売主にとっては有利な構図だ。
2. 囲い込みを防げる。これが一般媒介の最大のメリットかもしれない。1社しか依頼していなければ、その会社が他社からの問い合わせをブロックしても売主は気づけない。しかし3社に依頼していれば、A社が囲い込みをしていても、B社やC社経由で買い手が見つかる。構造的に囲い込みが成立しにくい。
3. 各社の対応を比較できる。複数社とやり取りすることで、報告の丁寧さ、提案の質、対応スピードの違いが見えてくる。良い会社・良い担当者を見極める判断材料になる。
デメリット
1. 各社のモチベーションが下がる。「他社に取られるかもしれない案件」に、全力を注ぐ営業マンは少ない。「専任の案件を優先して、一般はついでにやる」というのが、多くの営業マンの本音だ。
2. 広告費をかけてもらえにくい。不動産ポータルサイトへの掲載、チラシのポスティング、紙面広告——これらには費用がかかる。成約できるかわからない一般媒介の物件に、積極的に広告費をかける会社は少ない。
3. 窓口が複数になる。3社に依頼すれば、連絡のやり取りも3倍。内覧のスケジュール調整、各社への情報共有など、売主側の手間は確実に増える。
専任媒介のメリットとデメリット
メリット
1. 担当者が本気で動く。1社だけに任されている以上、売れれば確実に手数料が入る。営業マンにとって「やりがいのある案件」になるため、販売活動に力が入る。
2. 広告予算がつく。専任物件には、会社として広告費を投入しやすい。SUUMOやHOME'Sなどの大手ポータルサイトに上位表示させたり、周辺エリアへのチラシ配布を行ったり、戦略的な販促ができる。
3. 窓口が一本化される。連絡先は1社だけ。内覧調整、条件交渉、手続きの進捗確認——すべてが1つの窓口に集約される。売主の負担は最小限だ。
4. レインズ登録と報告義務がある。法律で義務付けられているため、最低限の透明性は確保される。14日に1回の報告で、販売活動の状況を把握できる。
デメリット
1. 囲い込みのリスク。これが専任媒介の最大のリスクだ。1社だけに任せているからこそ、その会社が両手取引を狙って他社からの問い合わせをブロックする動機が生まれる。囲い込みの詳細は不動産会社の囲い込みとは何かで解説しているが、売却期間が長引き、最終的な売却価格が下がるという深刻な実害がある。
2. 比較対象がなくなる。1社だけとしか接していないため、その会社の対応が適切なのかどうか、判断する材料がない。「こんなものか」と思っているうちに、3ヶ月が過ぎてしまうケースもある。
3. ハズレの営業マンに当たると損失が大きい。担当者の力量が低かったり、やる気がなかったりすると、3ヶ月まるまる無駄になる可能性がある。一般媒介なら他社がカバーしてくれるが、専任ではそのセーフティネットがない。
物件タイプ別——どの契約を選ぶべきか
「結局どれがいいの?」という質問に対する私の答えは、物件の特性と状況によって変わるだ。
人気エリア・人気物件 → 一般媒介
駅徒歩5分以内、築浅、都心・人気エリアに立地——こうした物件は、黙っていても買い手が見つかる。わざわざ1社に専任で任せる必要はない。3社に一般媒介で依頼し、競争させた方が、より高い価格で、より早く成約する可能性が高い。
不動産会社のモチベーションが下がるデメリットも、人気物件なら影響が小さい。「この物件ならすぐ売れる」と各社が判断するため、積極的に動いてくれる。
一般的な物件 → 専任媒介
駅徒歩10〜15分、築15〜25年、特段の特徴がない一般的な物件。日本の不動産市場で最も多いボリュームゾーンだ。こうした物件を売るには、不動産会社に本気で動いてもらう必要がある。
広告費をかけてポータルサイトに目立つ形で掲載してもらい、内覧者を集め、丁寧に交渉してもらう。それができるのは、専任で「売れれば確実に手数料が入る」という状況を作った時だ。
ただし、囲い込み対策は必須。後述する方法で、必ずチェックしてほしい。
売りにくい物件 → 専任媒介+定期的な見直し
駅から遠い、築古、市場に類似物件が少ない——こうした物件は、売却に時間と労力がかかる。一般媒介で複数社に出しても、どの会社も積極的に動かない可能性が高い。
専任媒介で1社にしっかり任せ、その会社が持つ独自の顧客ネットワークや販売ノウハウに期待する。ただし、3ヶ月ごとの契約更新タイミングで成果を評価し、動きが悪ければ別の会社に切り替える柔軟さが必要だ。
囲い込みを防ぐ3つの方法
専任媒介を選ぶ場合、囲い込みリスクへの対策は欠かせない。具体的な方法を3つ挙げる。
方法1:一般媒介にする
最もシンプルな対策は、一般媒介を選ぶこと。複数社に依頼していれば、1社が囲い込みをしても、他社経由で買い手が見つかる。構造的に囲い込みが成立しにくい。
方法2:レインズ登録証明書を確認する
専任・専属専任の場合、不動産会社にはレインズ登録義務がある。登録後に発行される「登録証明書」を必ず受け取り、物件がレインズ上で「公開中」になっているか確認する。ステータスが「書面による購入申込みあり」などに変更されていたら要注意だ。
方法3:他社に確認を依頼する
知人に頼んで、別の不動産会社からあなたの物件について問い合わせてもらう。「○○マンション○○号室、内覧可能ですか?」と聞いてもらい、「商談中です」「紹介できません」と断られたら、囲い込みの可能性が高い。あなた自身には何の報告もないのに、他社には「商談中」と回答している——これは明確な囲い込みだ。
契約期間と解約——3ヶ月で見極める
専任媒介・専属専任媒介の契約期間は、宅地建物取引業法で最長3ヶ月と定められている。更新は可能だが、自動更新ではなく、売主の申し出が必要だ。つまり、3ヶ月経って成果が出なければ、更新せずに別の会社に切り替えることができる。
一般媒介には法的な期間上限はないが、慣習的に3ヶ月で契約するケースが多い。いつでも解約可能だ。
3ヶ月という期間は、不動産売却においてひとつの目安になる。適正価格で売り出した物件なら、3ヶ月以内に成約するのが一般的だ。3ヶ月経っても内覧すら少ない場合は、価格の見直しか、不動産会社の変更を検討すべきタイミングだ。
実例:一般媒介で3社に依頼し、1ヶ月で成約
横浜市内、駅徒歩6分の3LDKマンション(築12年)の売却を依頼されたケースだ。
売主は40代のご夫婦で、転勤に伴う売却だった。私は一般媒介で3社に依頼することを提案した。駅近・築浅で人気エリアだったため、複数社に競わせた方が有利と判断したからだ。
結果、売り出しから2週間で3件の内覧が入り、うち2件から購入申し込みがあった。A社経由の申し込みが売出価格満額、B社経由の申し込みが50万円の値下げ交渉付き。売主は満額の申し込みを選び、売り出しから約1ヶ月で成約した。
もし1社だけに専任で依頼していたら、2件目の申し込みは生まれなかった可能性がある。複数の選択肢があったからこそ、満額での成約ができた。
実例:専任媒介で囲い込みされ、3ヶ月を無駄にしたケース
世田谷区の3LDKマンション(築18年)を売却しようとした60代の男性から相談を受けた時の話だ。
この方は大手仲介会社と専任媒介契約を結び、3,800万円で売り出した。しかし3ヶ月間、内覧はわずか2回。営業担当からの報告は「反響が少ないので、価格を3,500万円に下げましょう」という提案だった。
不審に思ったこの男性が、知人を通じて別の不動産会社にレインズの状況を確認してもらったところ、物件のステータスは「書面による購入申込みあり」になっていた。実際には申し込みなど入っていない。明らかな囲い込みだった。
契約期間満了を待って別の会社に切り替え、一般媒介で3社に依頼し直した。結果、2ヶ月後に3,700万円で成約。最初の3ヶ月間が完全に無駄だった。もし囲い込みに気づかず、言われるまま3,500万円に値下げしていたら、200万円の損失だ。
専属専任媒介を選ぶケースはあるか
正直に言って、売主にとって専属専任媒介を選ぶメリットは薄い。専任媒介との違いは「自己発見取引ができないこと」と「報告頻度が週1回(専任は2週に1回)」「レインズ登録が5日以内(専任は7日以内)」くらいだ。
自己発見取引を制限するデメリットに見合うメリットがあるかと言えば、ほとんどの場合、ない。「知り合いに売れるかもしれない」という可能性をわざわざ潰す必要はない。
不動産会社が専属専任を提案してきた場合は、「専任で十分です」と伝えれば問題ない。
一括査定サイトを使う場合の注意点
不動産会社を選ぶ際に一括査定サイトを利用する人も多い。複数社の査定額を比較できる便利なサービスだが、注意点がある。
一括査定サイトに登録すると、複数の不動産会社から一斉に連絡が来る。各社は「ぜひ専任で」と勧めてくるだろう。中には、専任を取るために相場より高い査定額を提示する会社もある。高い査定額に釣られて専任契約を結ぶと、結局売れずに値下げを繰り返すことになる。
一括査定の仕組みと注意点については一括査定サイトの仕組みと注意点で詳しく解説しているので、利用する前に一読してほしい。
まとめ——「正解」は物件と状況で決まる
媒介契約に唯一の正解はない。しかし、判断基準は明確だ。
あなたの物件が人気物件なら、一般媒介で競争させる。放っておいても買い手が見つかる物件を、わざわざ1社に独占させる理由はない。
一般的な物件なら、専任媒介で本気で動いてもらう。ただし、囲い込みへの対策は必ず講じる。レインズの確認、他社による物件照会、内覧頻度のチェック——この3つは最低限やっておくこと。
売りにくい物件なら、専任媒介+3ヶ月ごとの見直し。1社にしっかり任せるが、成果が出なければ遠慮なく切り替える。「お世話になっているから」と惰性で更新するのが最も危険だ。
どの契約を選ぶにしても、大前提として自分の物件の相場を知っていることが不可欠だ。相場を知らなければ、査定額が妥当かどうかも、売出価格が適正かどうかも、判断できない。
この記事のまとめ
- 媒介契約は一般・専任・専属専任の3種類。売主の自由度と不動産会社の義務がトレードオフ
- 不動産会社が専任を勧めるのは、手数料を確実に回収したいから
- 人気物件は一般媒介で競争させ、一般的な物件は専任で本気で動いてもらう
- 専任を選ぶなら囲い込み対策は必須。レインズ確認・他社照会・内覧頻度チェック
- 専属専任を選ぶメリットはほぼない。専任で十分
- 契約期間は最長3ヶ月。成果が出なければ遠慮なく会社を切り替えること
- すべての判断の前提は、自分の物件の相場を知っていること