前回の記事で、マンションの資産価値が築何年で底を打つのかを概観した。今回はそこをさらに掘り下げて、築年数ごとの㎡単価がどう推移するのかを、国土交通省の成約データから具体的に見ていく。

500万件の実取引データから見える下落カーブは、不動産会社が営業トークで語る「築○年までは大丈夫ですよ」とは、かなり異なる姿をしている。

築年数別の㎡単価——全国平均の下落カーブ

まず、全国の中古マンション成約データを築年数別に集計した㎡単価を見てみよう。

築年数㎡単価(全国平均)新築時比前帯比
築5年以内約68万円/㎡100%
築5〜10年約57万円/㎡84%−16%
築10〜15年約47万円/㎡69%−18%
築15〜20年約39万円/㎡57%−17%
築20〜25年約32万円/㎡47%−18%
築25〜30年約27万円/㎡40%−16%
築30〜35年約24万円/㎡35%−11%
築35〜40年約22万円/㎡32%−8%
築40年超約21万円/㎡31%−5%

このデータから読み取れることは明確だ。下落カーブは直線ではなく、築年数が古くなるほど緩やかになる

築5〜10年で16%の下落があるのに対して、築35〜40年では8%、築40年超では5%の下落に留まる。築30年あたりから下落スピードが明らかに鈍化しており、築40年前後でほぼ底を打つ。

下落カーブの3つのフェーズ

このカーブを大きく3つのフェーズに分けると、売却タイミングの判断がしやすくなる。

フェーズ築年数年間下落率特徴
急落期〜築15年年2〜3%新築プレミアム剥落 + 設備の陳腐化
緩落期築15〜30年年1〜2%立地と管理の差が拡大する時期
底打ち期築30年〜年0〜1%土地値に収束。建物の評価がほぼゼロに
私がマンションリサーチを運営していた時代、全国数十万棟のマンション価格を分析してきた。その経験から確実に言えるのは、「下落カーブが最も急なのは築5年〜15年」ということだ。新築で買ったマンションを10年後に売ると、多くの人が「こんなに下がるのか」と驚く。しかしデータで見れば、これは例外ではなく標準的な動きだ。

「新築プレミアム」の正体——最初の5年で何が起きるか

築5年以内のマンションの㎡単価が高いのは、実力値が高いからではない。新築プレミアムが乗っているからだ。

新築プレミアムとは、新築マンションの販売価格に含まれる以下のコストを指す:

  • デベロッパーの利益:販売価格の15〜20%程度
  • 販売経費:モデルルーム建設費、広告費、営業人件費で5〜10%
  • 新築という心理的プレミアム:「誰も住んでいない」ことへの上乗せ

これらを合わせると、新築マンションの販売価格には20〜30%のプレミアムが含まれている。つまり、鍵を受け取った瞬間から、その分の「含み損」を抱えているのと同じだ。

築5年以内の成約㎡単価が築5〜10年と比べて16%高いのは、まさにこのプレミアムの残存分だ。築10年を超えるとプレミアムはほぼゼロになり、純粋に立地・管理・設備で評価されるようになる。

💡 売却への示唆:「新築で買って5年以内に売る」場合、相場が横ばいでもプレミアム分だけ確実に損をする。一方、中古で買った場合は新築プレミアムを支払っていないため、築年数経過による下落は新築購入者よりも緩やかに感じられる。

築10年〜20年——下落が続くが、差が開き始める時期

築10年を過ぎると、新築プレミアムの影響はなくなり、純粋に物件の「実力」で価格が決まるようになる。この時期の㎡単価は全国平均で年1.5〜2%ずつ下がり続ける。

しかし、ここから重要な変化が起きる。マンションごとの価格差が急激に拡大するのだ。

差がつく3つの要因

要因影響度具体例
立地極めて大きい駅徒歩5分以内は下落率が半分。詳細はこちら
管理状態大きい大規模修繕の実施有無で10〜15%の差。管理と資産価値
総戸数中程度50戸未満は修繕積立金不足リスクが高く、敬遠されやすい

築15年の時点で、同じ駅の同じ築年数でも、管理が良好なマンションと問題を抱えたマンションでは、㎡単価に20〜30%の差がついていることがある。

この「差が開き始める時期」は、売却のタイミングとして実は最も判断が難しい。築15年前後のマンションオーナーからの相談で最も多いのは、「もう少し持っていた方がいいですか?」という質問だ。答えは「あなたのマンションの管理状態による」としか言いようがない。管理が良好で立地も良ければ、築20年を超えても価値は保たれる。逆に、修繕積立金が不足していて大規模修繕の見通しが立たない場合は、早く売った方が結果的に得になることが多い。

築20年〜30年——「底値」に向かう時期

築20年を超えると、下落率はさらに緩やかになる。年1%前後の下落ペースになり、築25年あたりから横ばいに近づくエリアも出てくる。

なぜ築25年前後で下げ止まるのか

理由は単純だ。建物の評価がほぼゼロに近づき、「土地の持分価値」が価格の下限として機能するからだ。

マンションの価格は「建物の価値 + 土地の持分価値」で構成される。築年数が経過すると建物の価値は下がり続けるが、土地の持分価値はゼロにはならない。むしろ、都心部では土地値が上昇していることもある。

築25〜30年で建物の減価償却が進み、価格に占める土地の比率が高くなると、築年数が1年増えても全体の価格にはほとんど影響しなくなる。これが「底打ち」のメカニズムだ。

築25年の壁——住宅ローンの影響

ただし、築25年前後には別の要因も絡む。住宅ローンの審査だ。

多くの金融機関は、中古マンションへの融資にあたって「耐用年数 − 築年数」で融資期間の上限を設定する。鉄筋コンクリート造の耐用年数は47年とされるため:

  • 築20年 → 最長27年ローンが可能(47 − 20 = 27)
  • 築25年 → 最長22年ローンが可能
  • 築30年 → 最長17年ローン——月々の返済額が大幅に増える
  • 築35年 → 最長12年ローン——実質的にローンで買いにくくなる

融資期間が短くなると、月々の返済額が増えるため、購入できる層が限られる。築30年を超えたあたりから「現金購入者」や「投資家」が買い手の中心になるのは、このためだ。

💡 売却のタイミング:築25〜30年のマンションを持っている場合、「あと5年持てば底打ちするから」と待つ判断は、年々買い手が減ることも考慮する必要がある。底値に近づいても、買い手がいなければ売れない。融資が付きやすい築25年以内のうちに売却するのは、一つの合理的な選択だ。

築30年超——底打ち後の意外な展開

築30年を超えると、下落率は年0.5%以下になり、事実上の底打ちを迎える。全国平均の㎡単価は築30〜35年で約24万円/㎡、築40年超で約21万円/㎡。10年かけて3万円/㎡しか下がらない。

しかし、ここで面白い現象が起きる。一部のマンションでは、築30年を超えてから価格が反転上昇するのだ。

築古でも価格が上がるマンションの条件

  • 都心の好立地:港区、千代田区、渋谷区などの築40年超マンションで、新築時より㎡単価が高い事例がある
  • 大規模修繕の完了直後:外観・共用部がリフレッシュされ、「あと20年住める」安心感が生まれる
  • 建替え期待:容積率に余裕があり、建替えによる資産価値向上が期待できるケース
  • ヴィンテージマンション化:広尾ガーデンヒルズ、秀和レジデンスのような「ブランド化」した物件
これは全体の傾向ではなく、あくまで例外的なケースだ。築古で価格が上がるマンションは、全体の5%にも満たない。残りの95%は、築30年を超えると緩やかに下がり続けるか、横ばいになる。「うちのマンションもヴィンテージになるかも」という期待は、立地と管理の現実を冷静に見てから持つべきだ。

エリアによる下落カーブの違い——東京都心と郊外

ここまでは全国平均の話をしてきたが、実際の下落カーブはエリアによって大きく異なる。

東京都心部(千代田・中央・港・新宿・渋谷・文京区)

築年数㎡単価新築時比
築5年以内約130万円/㎡100%
築10〜15年約105万円/㎡81%
築20〜25年約85万円/㎡65%
築30〜35年約75万円/㎡58%
築40年超約70万円/㎡54%

都心部の特徴は、底値が高いことだ。築40年超でも㎡単価70万円/㎡前後を維持しており、全国平均の築5年以内とほぼ同等の水準。土地の価値が圧倒的に高いため、建物が古くなっても価格の下支えが効く。

首都圏郊外(多摩地区・千葉北西部・埼玉南部)

築年数㎡単価新築時比
築5年以内約55万円/㎡100%
築10〜15年約38万円/㎡69%
築20〜25年約24万円/㎡44%
築30〜35年約16万円/㎡29%
築40年超約12万円/㎡22%

郊外の下落カーブは、都心より急角度で、底値も低い。築40年超で新築時の22%まで下がる。土地値が低いため、建物の価値がなくなると支えがない。

地方都市の中心部(福岡市中央区、札幌市中央区、名古屋市中区など)

地方主要都市の中心部は、東京都心と郊外の「中間」に位置する下落カーブを描く。築40年超で新築時の35〜45%程度を維持するケースが多い。ただし、地方都市は都市ごとの差が大きく、再開発が進む福岡市と人口減少が続く地方都市では、カーブの形がまったく異なる。

自分のエリアのマンション相場は、都道府県別の相場ページから市区町村単位で確認できる。

「旧耐震」と「新耐震」の断層——1981年の壁

築年数別の価格を見る上で避けて通れないのが、1981年(昭和56年)6月の新耐震基準の存在だ。

2026年現在、1981年以前に建築確認を受けたマンションは築44年以上になる。築40年超の㎡単価データには、新耐震と旧耐震が混在している。

旧耐震 vs 新耐震の価格差

同じエリア・同じ築年数帯でも、旧耐震マンションは新耐震に比べて10〜20%安い傾向がある。理由は明確だ:

  • 住宅ローン審査の厳格化:旧耐震マンションへの融資を制限する金融機関が増えている
  • 住宅ローン控除の対象外:旧耐震で耐震基準適合証明書がない場合、住宅ローン控除が使えない
  • 地震リスクへの心理的抵抗:東日本大震災以降、耐震性能への意識が高まった
  • 管理組合の高齢化:旧耐震マンションは居住者の高齢化が進み、建替え・修繕の合意形成が困難
💡 旧耐震マンションの売却:旧耐震マンションを保有している場合、「耐震補強工事の実施」「耐震基準適合証明書の取得」の有無が売却価格を大きく左右する。補強工事が行われていれば、住宅ローン控除の対象になり、買い手の幅が広がる。管理組合で耐震補強が議論されているなら、その結果を待ってから売却判断をしても遅くない。

実践——自分のマンションの「今の位置」を知る

ここまでのデータを踏まえて、自分のマンションが下落カーブのどの位置にいるのかを把握する方法を整理しよう。

ステップ1:同一エリアの築年数別㎡単価を確認

自分のマンションがある市区町村の相場ページで、マンションの㎡単価を確認する。当サイトの都道府県ページから市区町村に入ると、エリア全体の平均㎡単価がわかる。

ステップ2:自分のマンションの過去取引を確認

同じマンション内で過去に成約した事例があれば、最も参考になる。適正価格の調べ方で紹介した方法で、国土交通省の「不動産取引価格情報」から検索できる。

ステップ3:カーブ上の位置と将来予測

自分のマンションが「急落期」「緩落期」「底打ち期」のどのフェーズにいるかを把握できれば、今後の下落幅の目安がわかる。

現在のフェーズ5年後の想定下落判断
急落期(〜築15年)10〜15%売却理由があるなら早い方がいい
緩落期(築15〜30年)5〜10%管理状態を確認の上、判断
底打ち期(築30年〜)0〜5%急ぐ必要はないが、買い手減少に注意

5年後の想定下落と、年間の保有コストを5年分足した金額を比較してみてほしい。たとえば現在の評価額3,000万円のマンションで:

  • 急落期:5年で450万円下落 + 保有コスト300万円(年60万円×5年)= 750万円の目減り
  • 緩落期:5年で225万円下落 + 保有コスト300万円 = 525万円の目減り
  • 底打ち期:5年で75万円下落 + 保有コスト300万円 = 375万円の目減り

どのフェーズにいても、「持っているだけでコストがかかる」現実は変わらない。「売り時」の記事で書いた通り、相場の動きを読むよりも、自分のライフプランに基づいて判断する方が結果的に正解になる。

まとめ——下落カーブを知ることの本当の意味

築年数別の価格下落カーブを知る意味は、「いつ売れば一番得か」を当てることではない。「今売るとどうなるか、5年後に売るとどうなるか」を数字で比較できるようにすることだ。

感覚的に「まだ大丈夫だろう」「もう少し待てば」と考えるよりも、データに基づいて「年間○万円ずつ下がっている」と把握している方が、冷静な判断ができる。

自分のマンションがカーブのどの位置にいるのかを確認し、保有コストと合わせて考える。それが、築年数と資産価値を正しく理解した上での売却判断だと、私は考えている。

この記事のまとめ

  • 中古マンションの㎡単価は、新築から築40年超で約70%下落する(全国平均)
  • 下落カーブは3フェーズ:急落期(〜築15年・年2〜3%)→ 緩落期(築15〜30年・年1〜2%)→ 底打ち期(築30年〜・年0〜1%)
  • 新築プレミアム(20〜30%)は、買った瞬間に含み損になる
  • 同じ築年数でもエリアで大きな差:東京都心は築40年超でも54%を維持、郊外は22%まで下落
  • 築25〜30年は融資期間の制約で買い手が減る「境界線」
  • 旧耐震(1981年以前)は新耐震より10〜20%安い。融資制限と税制優遇の有無が影響
  • 自分のマンションの下落カーブ上の位置を把握し、保有コストと合わせて判断するのが合理的