「売るかどうか迷っている」という相談を受けた時、私がまず聞くのは「持ち続けるコストを計算していますか?」という質問だ。

ほとんどの人が、具体的な数字を把握していない。住宅ローンの返済額は意識していても、それ以外の「見えにくいコスト」を合算している人はまれだ。

今日は、不動産を持ち続けることで年間いくらのコストがかかっているのかを、マンション・一戸建てそれぞれのケースで整理してみたい。「売る・売らない」の判断は、この数字を把握してからでも遅くはない。

マンションの年間保有コスト

マンションには毎月必ずかかる費用がある。ローンの返済額を除いて、保有しているだけでかかるコストを計算してみよう。

項目月額目安年額
管理費1.5〜3万円18〜36万円
修繕積立金1〜3万円12〜36万円
固定資産税・都市計画税10〜30万円
火災保険・地震保険2〜5万円
駐車場代(利用の場合)1〜5万円12〜60万円

駐車場を利用していなくても、管理費・修繕積立金・固定資産税・保険で年間42万〜107万円。月に直すと3.5万〜9万円のコストが、住んでいても住んでいなくてもかかっている。

修繕積立金は上がり続ける

特に注意すべきは修繕積立金の増額だ。新築時は月額5,000〜8,000円程度に設定されていることが多いが、これは「段階増額方式」で徐々に上がっていくのが一般的。築20年を超えると月額2〜3万円になることも珍しくない。

さらに、大規模修繕のタイミング(おおむね12〜15年ごと)で、修繕積立金の不足分として一時金(50万〜100万円)を徴収されるケースもある。

💡 現場の肌感覚:修繕積立金が低すぎるマンションは、むしろ危険信号だ。積立金が少ないということは、大規模修繕の時にお金が足りなくなるということ。修繕が先送りされると建物の劣化が進み、資産価値が下がる。築年数と資産価値の関係でも書いたが、築30年超で価格を維持しているマンションは、例外なく修繕積立金をしっかり積み立てている。

一戸建ての年間保有コスト

一戸建ての場合、管理費や修繕積立金はかからない。しかし、代わりに自分で維持修繕費を負担する必要がある。

項目年額目安備考
固定資産税・都市計画税10〜30万円土地+建物
火災保険・地震保険3〜8万円木造は高め
外壁・屋根メンテナンス10〜20万円10〜15年に一度150〜300万円を年割り
設備の更新・修繕5〜15万円給湯器、エアコン、水回り等
庭・外構の手入れ3〜10万円庭がある場合

合計すると年間31万〜83万円。マンションと違って月々の引き落としがないので意識しにくいが、10年〜15年周期の大きな出費(外壁塗装、屋根の葺き替えなど)を年割りして計算すると、マンションとそれほど変わらない金額になる。

一戸建ての修繕費はマンションのように強制徴収されないので、「貯めていない」という人が多い。しかし、外壁塗装を先送りにすると雨漏りの原因になるし、給湯器が壊れれば20〜40万円の突発的な出費が発生する。計画的な積立をしていない一戸建ては、売却時に状態の悪さが価格に直結する。

空き家の場合の追加リスク

相続や転勤で空き家になっている不動産は、住んでいる場合以上にコストとリスクが増大する。

固定資産税の住宅用地特例が外れるリスク

住宅が建っている土地には、固定資産税の住宅用地特例が適用され、税額が最大1/6に軽減されている。しかし、2015年に施行された「空き家対策特別措置法」により、管理が不十分な空き家は「特定空き家」に指定される可能性がある。特定空き家に指定されると、この特例が外れ、固定資産税が最大6倍になる。

さらに2023年の法改正で「管理不全空家」というカテゴリーも追加され、特定空き家に至る前の段階でも特例解除の対象になりうる。

定期的な管理コスト

空き家は放置すると急速に劣化する。庭の雑草は伸び放題、排水トラップの水が蒸発して虫や臭気が上がり、換気がされないことで室内にカビが生える。近隣からの苦情や、不審者の侵入リスクもある。

これを防ぐには定期的な管理が必要だ。自分で通うか、空き家管理サービス(月額5,000〜15,000円)に依頼するか。年間6万〜18万円の追加コストがかかる。

💡 業界の裏話:空き家を放置している所有者の多くは、「そのうち何とかしよう」と思いながら何年も過ぎてしまう。私の相談経験では、空き家期間が長引くほど物件の状態は悪化し、売却価格も下がっていく。5年放置した空き家は、適切に管理されていた場合と比べて売却価格が15〜25%下がることもある。「今は忙しいから」と先送りするコストは、想像以上に大きい。

保有コストと資産価値の関係

ここまでの数字をまとめると、不動産を持ち続けるコストは年間40万〜100万円以上だ。10年持ち続ければ400万〜1,000万円以上

この金額を、その不動産の資産価値と比較してみてほしい。

たとえば、評価額2,000万円のマンションを保有し続けるコストが年間60万円だとする。10年間の保有コストは600万円。10年後にそのマンションの資産価値が1,500万円に下がっていたとすると、資産価値の目減り500万円に加えて、保有コスト600万円で、合計1,100万円の「損失」だ。

もし今2,000万円で売って、そのお金を年利2%で運用したら、10年後には約2,437万円。差額は約1,537万円——つまり、売った方が1,500万円以上有利だった計算になる。

もちろん、これは単純な数字のシミュレーションにすぎない。「住んでいる家の居住価値」はお金に換算できないし、思い出の詰まった実家を簡単に売れるものでもない。しかし、少なくとも「持ち続けるコスト」を数字で把握した上で判断することは、後悔しないための最低限の準備だ。

「売らない」も立派な判断——ただしコストを把握した上で

最後にこれだけは言っておきたい。

私は「不動産は売った方がいい」と言いたいわけではない。

将来の住まいとして使う予定がある、賃貸に出して収益を得ている、子どもに残したい——持ち続ける合理的な理由があるなら、持ち続ければいい。「売らない」も立派な判断だ。

しかし、「なんとなく持っている」「面倒だから何もしていない」「売り時がわからないから放置している」——こういう理由で持ち続けているなら、一度コストを計算してみてほしい。

年間40万〜100万円のコストを払い続ける価値があるかどうか。それを判断する材料は、コストの把握と、現在の資産価値(相場)の確認だ。コストは今日この記事で概算が出せたはずだ。相場は当サイトで確認できる。

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この記事のまとめ

  • マンションの保有コスト:年間42万〜107万円(管理費+修繕積立金+固定資産税+保険)
  • 一戸建ての保有コスト:年間31万〜83万円(固定資産税+保険+維持修繕費)
  • 修繕積立金は築年数とともに上がり続ける。一時金の徴収もある
  • 空き家は固定資産税の特例解除リスク(最大6倍)や管理コストが追加
  • 10年間の保有コストは400万〜1,000万円以上になりうる
  • 「売らない」も正しい判断。ただしコストと資産価値を把握した上で