「駅から徒歩何分までなら資産価値は大丈夫ですか?」

これは不動産の売却相談で、もっとも多く受ける質問のひとつだ。答えは物件やエリアによって違うのだが、データと30年の現場経験を合わせると、ある程度の法則は見えてくる。

今日は、当サイトに格納されている国土交通省の成約データのうち、直近5年のマンション取引約60万件を使って、「駅徒歩と資産価値の関係」を分析した結果を共有したい。

約5分で読めます(2,710字)

データが示す「1分あたりの価格下落」

当サイトの成約データ(直近5年・マンション約60万件)から、駅徒歩時間帯ごとの㎡単価の中央値を集計した。東京23区と全国の結果はこうだ(神奈川・大阪市・愛知・福岡を含む詳細は「駅距離×マンション価格の逓減カーブ」)。

駅徒歩東京23区(中央値)0-5分比全国(中央値)0-5分比
0-5分約103.6万円—約60.0万円—
6-10分約96.0万円-7.4%約50.8万円-15.4%
11-15分約78.6万円-24.2%約38.2万円-36.4%
16-20分約60.0万円-42.1%約28.0万円-53.3%
21-30分約45.7万円-55.9%約21.5万円-64.1%

東京23区では、徒歩5分→10分の区間は1分あたり約1.5万円/㎡、10分→15分の区間は約3.5万円/㎡下がる。70㎡のマンションなら、10分→15分の区間では1分の差が約245万円、5分の差で約1,220万円の価格差になる(中央値の差から見た目安)。

ただし、この下落は均一ではない。実はある「境目」が存在する。

徒歩10分以内では差が小さい

データを細かく見ると、徒歩10分以内と11分以上で、㎡単価の下がり方が変わることがわかる。

東京23区では0-5分と6-10分の差は7.4%にとどまる。「徒歩8分」と「徒歩3分」の差は小さい。一方、6-10分から11-15分では約18%下がる。全国でも、0-5分→6-10分の15.4%に対し、6-10分→11-15分は24.8%と下げ幅が大きい。

徒歩10分を超えると「別カテゴリー」になる

そして、データ上の大きな境目が徒歩10分だ。

徒歩10分というのは、不動産広告の表示で約800メートルに相当する(1分=80メートル計算)。この距離を超えると、買い手の心理は明確に変わる。

仲介の現場にいると、徒歩10分以内の物件と10分超の物件では、問い合わせの数が明らかに違う。体感では2〜3倍の差がある。徒歩10分を超えた瞬間、バス便のマンションと同じカテゴリーで比較されるようになる。

これは厳しい現実だが、事実だ。徒歩10分を超えると、買い手は「駅から遠い」という前提で物件を見る。そうなると、価格交渉でも不利になりやすい。「駅遠」というレッテルを貼られると、物件の他の魅力(広さ、日当たり、眺望など)があっても割引の圧力がかかる。

ポータルサイトの検索条件が作る「壁」

主要ポータルサイトの徒歩時間の絞り込みは、SUUMO(中古マンション)で「1・3・5・7・10・15・20分以内」、LIFULL HOME'Sで「1・3・5・7・10・15・20・25分以内…」という区切りになっている(2026年10月確認)。「10分以内」はその区切りの1つで、10分と11分の間に検索上の境目ができる。

徒歩9分の物件と11分の物件——実際には160メートル、歩いて2分しか変わらない。しかし、「徒歩10分以内」の検索条件に引っかかるか引っかからないかで、買い手へのリーチは大きく変わる。これが資産価値の差として㎡単価に反映されるのだ。

ただし、ターミナル駅は例外

ここまでの話は「一般的な駅」について言えることだ。ターミナル駅では少し事情が違う。

たとえば渋谷駅や新宿駅、池袋駅のようなターミナル駅の場合、駅徒歩10分でも㎡単価が高い水準を維持していることがある。なぜかというと、ターミナル駅自体の利便性が圧倒的に高く、「この駅を使える」というだけで大きな価値があるからだ。

ターミナル駅の徒歩10分と、各停しか停まらないローカル駅の徒歩3分が、㎡単価で同水準ということも珍しくない。

💡 業界の裏話:不動産広告の「駅徒歩○分」は、道路距離80mを1分として計算し(端数は切り上げ)、マンションの場合は駅に最も近い建物の出入口が起点になる。信号待ちや坂道は考慮されず、大規模マンションでは住戸から出入口までの移動もあるため、実際の所要時間は表示より長くなることがある。中古の相場を見る時は、この「表示上の徒歩分数」と「実際の体感」のズレも考慮した方がいい。

駅距離だけで判断してはいけない——複合的な視点

ここまで駅徒歩と㎡単価の関係を数字で見てきたが、最後にひとつ大事なことを言っておきたい。

駅距離は資産価値を左右する重要な要素だが、唯一の要素ではない。

たとえば、駅徒歩12分でも以下のような条件が揃えば、資産価値を維持できるケースがある。大規模マンションで管理体制がしっかりしている。スーパーや学校が近く生活利便性が高い。南向きで日当たりが良く眺望が開けている。将来的に新駅ができる、再開発の計画がある。

逆に、駅徒歩3分でも管理が杜撰なマンションや、駅の利用者が減少しているエリアでは、㎡単価が落ちていくことがある。築年数と資産価値の関係でも書いたが、「管理の良し悪し」は駅距離と同じくらい資産価値に影響する。

「駅近だから安心」とも「駅遠だからダメ」とも、一概には言えない。ただし、迷った時は駅に近い方を選んだ方が、将来の出口戦略(売却)では有利だ。これは30年の経験から言い切れる。
駅ごとの相場を調べる →

この記事のまとめ

  • 東京23区では徒歩1分あたり、5分→10分は約1.5万円、10分→15分は約3.5万円㎡単価が下がる
  • データ上の境目は徒歩10分。10分以内の差は小さい(23区で7.4%)
  • 徒歩10分を超えると「駅遠」カテゴリーに入り、問い合わせ数が激減
  • ターミナル駅は例外で、徒歩10分でも高い㎡単価を維持できる
  • 駅距離は重要だが、管理状態や生活利便性など複合的に判断すべき
  • 迷ったら駅に近い方が出口戦略で有利