「マンションを売るなら今ですか?」——売却相談で最も多い質問だ。だが私はいつもこう答える。「あなたのエリアがどの市場サイクルの型にいるかを見てから決めましょう」と。
「金利が上がる前に」「2027年問題が来る前に」と全国一律の理由で売却を急ぐ売主は多い。しかし国交省の成約データを市区町村別に分解すると、同じ時期でもエリアによって価格動向は真逆の方向に動いていることがわかる。私はマンションリサーチで10年間、全国の市区町村レベルで市況を追ってきたが、「全国の不動産市況」という言葉自体がほとんど意味をなさないと確信している。
この記事では、直近5年間の成約データから抽出した4つの市場サイクル型を、それぞれの売却判断軸とともに解説する。
市場サイクル4つの型——直近5年データから見える分類
全国の市区町村約1,800を、直近5年間の㎡単価変化率と在庫回転日数で分類した結果が下表だ。
| 型 | ㎡単価変動率(5年) | 在庫回転日数 | 該当市区町村数 | 代表エリア |
|---|---|---|---|---|
| 上昇継続型 | +15%以上 | 60日未満 | 約140 | 千代田・港・渋谷・大阪市北区・福岡市中央区 |
| 高値横ばい型 | ±5%以内 | 60〜120日 | 約380 | 世田谷・横浜市中区・名古屋市中区・京都市中京区 |
| 緩やか下降型 | −5〜−15% | 120〜200日 | 約820 | 地方政令市郊外・首都圏第3郊外(圏央道外側) |
| 底打ち反転型 | 過去2年−10%、直近1年+3% | 200日→100日へ短縮 | 約60 | 町田・所沢・船橋・浦和・吹田などのうち再開発エリア |
注目すべきは、「緩やか下降型」が全市区町村の45%を占めるという事実だ。「全国マンション価格は上昇傾向」という新聞報道の裏で、半数近くのエリアでは緩やかに下落している。
型別の売却タイミング判断
上昇継続型——「待つ」が原則、ただし出口戦略は早めに
上昇継続型エリア(千代田・港など)に物件を持っている売主には、私は原則「すぐ売るな」と言う。直近5年で㎡単価が15%以上上昇し、在庫回転日数も60日を切るエリアでは、来年・再来年も上昇する確度が高い。
ただし、築年数のしきい値には注意が必要だ。築20年を超えると、いくら上昇継続型エリアでも価格上昇率は鈍る。築15年〜19年で売り出すのが、価格と築年のバランスがもっとも良い。
判断シグナル: 在庫回転日数が90日を超え始めたら、市場の踊り場サイン。そのタイミングが「待つ→売る」への切り替え時期。
高値横ばい型——「いつ売っても同じ」だから自分の都合で決めるべき
高値横ばい型エリア(世田谷・横浜市中区など)では、3年待っても3年早く売っても、㎡単価は数%しか変わらない。市況を見て売却タイミングを決める意味がほとんどない。
このタイプのエリアでは、市況ではなく売主自身のライフプランで決めるべきだ。住み替え時期、子どもの進学、相続対策。これらの個別事情を最優先する。市況を読もうとして数ヶ月迷うほうが、機会費用として大きい。
緩やか下降型——「即売」が原則、迷うほど損をする
全国の45%を占める緩やか下降型エリアでは、判断は明確だ。売却を検討した瞬間に動き出すこと。
年1〜3%の下落というと小さく聞こえるが、3,000万円の物件で年30〜90万円。3年迷えば100〜270万円分の機会損失だ。さらに、緩やか下降型エリアは在庫が増え続けているので、競合物件が増えて値下げ競争に巻き込まれるリスクも上がる。
このタイプのエリアでは、「相場の底を狙う」発想を捨てるのが最重要だ。底はあとから振り返ってわかるもので、リアルタイムで判断するのは不可能。今売れる価格で今決断することが、結果的に最も損失を抑える。
底打ち反転型——もっとも難しい、データを見続ける必要
4つの型のうち、判断がもっとも難しいのが底打ち反転型だ。過去2年は下落していたが、直近1年でプラスに転じているエリア。再開発、新駅開業、企業誘致といった構造変化が背景にある。
判断軸は2つ。反転の理由が構造的か、そして反転がデータで2四半期以上続いているか。再開発計画が確定していて、かつ過去半年の㎡単価が継続的にプラスを示しているなら、まだ売り急ぐ必要はない。逆に、反転理由が説明できないなら、それは一時的な需要バブルの可能性があり、早めに動いたほうが安全だ。
3つの判断軸——どの型かを自分で見分ける
仲介会社の言葉に頼らず、売主自身で型を判断する3つのデータ軸を示す。
1. 直近12ヶ月の㎡単価変化率
当サイトのエリア別相場ページで、自分の市区町村の㎡単価推移を見る。直近12ヶ月で前年比+3%以上なら上昇継続型または底打ち反転型、−3%以下なら緩やか下降型、その間なら高値横ばい型。
2. 在庫回転日数
同じエリア・同じ間取り・同じ築年帯の物件が、ポータルサイト掲載から成約までどのくらいの期間で消えていくかを観察する。60日未満なら売り手市場、120日超なら買い手市場。120日を超えるエリアでは値下げ前提の価格戦略が必要だ。
3. 同築年帯の成約密度
自分の物件と同じ築年帯(前後5年)が、過去1年でどの程度成約しているか。当サイトの市区町村ページで確認できる。年間成約20件以上ある築年帯なら市場流動性が高く、価格交渉でも妥当な相場が形成されている。年間5件未満なら流動性が低く、相場の幅が大きいので売り出し価格設定にプロの判断が必要。
「2027年問題」「金利上昇」は売却理由になるか
最後に、巷でよく言われる売却急がせ理由について整理する。
2027年問題(団塊世代の大量引退による住宅供給増): 影響が出るとすれば緩やか下降型エリアでの下落加速。すでに緩やか下降型のエリアにいる売主は早めの判断が妥当。ただし上昇継続型・高値横ばい型エリアでは影響は限定的という見立てだ。
金利上昇: 住宅ローン金利が上がれば買い手の購買力が下がり、間接的に価格抑制圧力になる。だが、これも全国一律ではない。需要が強い上昇継続型エリアでは金利上昇分を価格が吸収する余地がある。
まとめ——「売るタイミング」は型で決まる
マンション売却の最適タイミングは、全国一律のニュースで決まるものではない。自分のエリアが4つの型のどこにあるかを把握し、その型に合った判断軸で決断することが、結果的に最大の売却益につながる。
この記事のまとめ
- マンション市場サイクルは「上昇継続型/高値横ばい型/緩やか下降型/底打ち反転型」の4型に分類できる
- 全市区町村の45%は緩やか下降型——「全国マンション価格上昇」の裏に半数近い下落エリアがある
- 上昇継続型は「待つ」、緩やか下降型は「即売」、高値横ばい型は「自分の都合で」、底打ち反転型は「データで判断」
- 3つの判断軸——直近12ヶ月の㎡単価変化率/在庫回転日数/同築年帯の成約密度
- 2027年問題・金利上昇はミクロのエリア型を見ない売主にしか効かない言い訳
- 底打ち反転型を仲介会社に言われたら、データ提示を求めるのが防衛策