大手と地元業者、どちらに売却を頼むべきか」で述べた通り、不動産売却の成否は会社のブランドではなく担当者の質で決まる。同じ会社でも、担当者が変わるだけで売却結果は大きく異なる。

では、限られた接点の中で担当者の力量をどう見極めるか。この記事では、査定の場で使える「5つの質問」と、回答から読み取るべきポイントを具体的に解説する。

なぜ「担当者」がそこまで重要なのか

不動産仲介は「人」のビジネスだ。同じ物件でも、担当者によって以下のすべてが変わる。

担当者の影響範囲優秀な担当者力量不足の担当者
価格設定データに基づいた適正価格を提案。売れる価格と売主の希望のバランスを取る高い査定で契約を取り、後から値下げを迫る
広告の質物件の魅力を引き出す写真・文章。ターゲットに合わせた訴求スマホで撮った暗い写真。定型文のコピペ
内覧対応買い手の疑問に的確に回答。物件と周辺環境の魅力を具体的に説明鍵を開けるだけで説明がない。質問に答えられない
価格交渉売主の利益を最大化しつつ、成約に導く粘り強い交渉買い手の言い値を売主に押し付ける
報告・コミュニケーション定期的かつ具体的な報告。悪い情報も隠さず伝える報告が遅い、内容が薄い、都合の悪い情報を伏せる

これらの差が積み重なった結果、同じ物件でも売却価格に数百万円の差が出ることは珍しくない。

力量を見抜く5つの質問

以下の5つの質問は、訪問査定の場で担当者に直接投げかけるものだ。回答の内容だけでなく、答え方(即座に答えるか、言い淀むか、データを示すか)にも注目してほしい。

質問1:「この査定額の根拠を、成約事例を使って説明してください」

最も重要な質問だ。査定額の根拠を聞くのは1社に絞る判断基準でも触れたが、ここではさらに踏み込んで「成約事例を使って」と指定する。

回答のレベル具体例評価
レベル1(不合格)「このあたりの相場感からすると、だいたいこのくらいです」× 根拠ゼロ
レベル2(最低限)「近隣のマンションの売出事例では○○万円で出ています」△ 売出価格は成約価格と異なる
レベル3(合格)「同じマンションの○号室が昨年○月に○○万円で成約しています。面積と階数の違いを補正すると…」○ 成約事例ベース
レベル4(優秀)レベル3に加えて「ただし、その時と比べて金利環境が変わっているので、○%程度の調整が必要と判断しました」◎ 市況の変化も考慮
この質問への回答で、その担当者が「データを見ているか」「売出価格と成約価格の違いを理解しているか」がわかる。売出価格と成約価格は全く別物だ。売出価格だけを根拠にする担当者は、相場を正確に把握していない可能性が高い。

質問2:「この物件の弱みを3つ教えてください」

この質問の目的は「誠実さ」と「物件分析力」の確認だ。

すべての物件には弱みがある。北向きで日当たりが悪い、築年数が古い、1階で防犯面に不安がある、駅から遠い、管理費が高い——何かしらの弱みは必ずある。それを正直に伝えてくれるかどうかが、信頼できる担当者かどうかの分水嶺だ。

回答パターン評価
「特に弱みはないですよ。良い物件です」× お世辞。分析していない、または本当のことを言う気がない
「築年数が25年なので、ローン審査でやや不利になる可能性があります」○ 具体的な弱みを挙げている
「北向きで日当たりが弱い点は弱みですが、夏の暑さが抑えられるという点では在宅勤務の方に訴求できます」◎ 弱みを認めつつ、対策まで提案している
「弱みを3つ」と聞いて、即座に3つ挙げられる担当者は物件をよく見ている。逆に「え、弱みですか…」と言い淀む担当者は、そもそも物件を深く分析していない。弱みを正直に伝えてくれる担当者は、売却中にも都合の悪い情報(内覧後の買い手の否定的なフィードバックなど)を隠さず報告してくれる可能性が高い。

質問3:「最初の1ヶ月の販売活動を具体的に教えてください」

「頑張ります」「全力で取り組みます」は戦略ではない。具体的に何をするのかを聞く。

優秀な担当者は、以下のような具体的な行動計画を即座に示す。

  • 1週目:プロカメラマンによる撮影、SUUMO・HOME'S・at homeへの掲載開始、レインズ登録、自社顧客への案内メール配信
  • 2週目:近隣へのチラシ配布(○○戸)、オープンハウスの開催(土日)
  • 3〜4週目:PV数と問い合わせ数の分析、ポータルサイトの掲載内容の改善(写真の差し替え、キャッチコピーの変更)
  • 月末:活動報告と今後の戦略の提案

このレベルで答えられる担当者は、売却活動を「戦略」として捉えている。「とりあえずネットに載せて待つ」という受け身の担当者とは、結果に大きな差が出る。

質問4:「このエリアで直近1年に担当された売却事例を教えてください」

エリアの経験値を確認する質問だ。守秘義務があるので詳細は聞けないが、以下のような回答は期待したい。

  • 「この半年で○○町内のマンションを2件お手伝いしました。どちらも2ヶ月以内に成約しています」
  • 「このマンションではないですが、同じ沿線の○○駅周辺で3件の実績があります」

「このエリアは初めてです」という正直な回答は、それ自体は悪くない。問題は「初めてだけど、こういう準備をしています」と続くかどうかだ。

エリアの経験が豊富な担当者は、「この学区は人気があるので小学校入学前のファミリーを狙えます」「この通り沿いは車の音が気になるかもしれないので、防音対策をアピールしましょう」といった、現地を知らないと出てこない提案ができる。こうした「地に足のついた提案」は、経験でしか得られない。

質問5:「売出し後3ヶ月で売れなかった場合、どうしますか?」

この質問で「問題解決力」と「計画性」がわかる。うまくいかなかったときの対応こそ、担当者の真価が問われる。

回答パターン評価
「3ヶ月で売れないことはまずありません」× 根拠のない楽観。想定外を考えていない
「値下げを提案します」△ 値下げだけが手段ではない
「まず原因を分析します。PVが少ないなら広告の改善、内覧はあるが決まらないなら見せ方や価格の問題。原因に応じて対策を変えます」◎ 論理的な問題解決アプローチ

3ヶ月で売れない場合の具体的な対処法は「3ヶ月経っても売れない——原因チェックリストと対策」で詳しく解説している。この記事の内容に近いレベルで回答できる担当者は優秀だ。

質問以外で見抜く——行動で判断するポイント

5つの質問への回答だけでなく、担当者の「行動」からも力量は見える。

査定の前後の行動

行動優秀な担当者要注意な担当者
査定依頼後の連絡翌営業日以内に電話またはメール。訪問日程の候補を複数提示3日以上連絡なし、または即座に何度も電話をかけてくる
訪問査定時の持ち物成約事例のプリント、周辺の取引データ、販売計画書名刺と会社パンフレットだけ
物件の見方室内だけでなく共用部・エントランス・ゴミ置き場・駐車場もチェック室内をサッと見るだけで10分で終了
査定書の提出訪問から3日以内に査定書を提出。根拠が明記されている1週間以上かかる。口頭で金額だけ伝える
査定後のフォロー「何か質問があればいつでもどうぞ」と控えめ「今日中に決めてもらえれば」と契約を急かす

「聞く力」があるかどうか

優秀な担当者は、自分が話す以上に売主の話を聞く。売却の理由、希望するスケジュール、最低限の手取り額、引っ越し先の目途——こうした情報を丁寧にヒアリングする担当者は、売主の事情に合わせた販売戦略を組み立てられる。

逆に、最初から一方的に会社のアピールや査定額の話をし続ける担当者は、「売主のことよりも自社の契約獲得」を優先している。

30年間で数千人の営業担当者を見てきたが、トップセールスに共通する特徴は「話が上手い」ことではなく「聞くのが上手い」ことだ。売主の事情を深く理解した上で、「であれば、こういう戦略が最適です」と提案できる人。そういう担当者に出会えたら、その会社が大手でも地元でも、迷わず任せていい。

担当者を変更したい場合の対処法

媒介契約を結んだ後に「この担当者はダメだ」と感じた場合、どうすればいいか。

担当者の変更を申し出る

担当者の変更は、売主の正当な権利だ。遠慮する必要はない。不動産会社の店長や支店長に直接連絡し、「担当者を変更してほしい」と伝える。理由を聞かれたら、具体的な不満点(報告が遅い、レスポンスが悪い、提案がない等)を伝えればいい。

まともな会社であれば、担当者の変更に応じてくれる。拒否された場合は、3ヶ月の契約期間満了を待って別の会社に切り替えることを検討する。

担当者変更を検討すべきサイン

  • 報告が来ない、または報告内容が毎回同じ(コピペ感がある)
  • 問い合わせへの返信が遅い(翌営業日以内に返信がない)
  • 値下げの提案しかしてこない(他の改善策を考えていない)
  • 他社からの問い合わせ状況を聞いても答えが曖昧
  • 内覧後のフィードバックを伝えてくれない
  • 売主の質問に対して「確認します」と言ったまま回答がない
「最初の印象は良かったのに、契約後に態度が変わった」というケースは残念ながらある。契約を取るまでは熱心だが、取った後は対応が雑になる担当者。これを防ぐには、契約前に「報告の頻度と内容」「問い合わせへのレスポンス時間」を具体的に取り決めておくことが有効だ。「2週間に1回、メールで報告書をください。問い合わせには翌営業日中に回答をお願いします」——この程度の取り決めは当然の権利だ。

宅建士の資格は判断材料になるか

不動産会社の営業担当者には、宅地建物取引士(宅建士)の資格を持つ人と持たない人がいる。重要事項説明は宅建士しかできないが、売却活動自体は資格がなくても行える。

結論から言えば、宅建士の資格は判断材料の一つにはなるが、決定的ではない。資格は最低限の法律知識を証明するものであり、「売却の実力」を直接測るものではない。資格を持っていても実務経験が浅い人もいれば、資格は持っていないが売却実績が豊富な人もいる。

ただし、担当者本人が宅建士であれば、重要事項説明を自分で行えるため、契約手続きが一貫してスムーズになるメリットはある。

まとめ——5つの質問で「任せられる人」を見つける

5つの質問 早見表

Q1. 査定額の根拠を成約事例で説明してください

→ データ力・分析力がわかる

Q2. この物件の弱みを3つ教えてください

→ 誠実さ・物件分析力がわかる

Q3. 最初の1ヶ月の販売活動を具体的に教えてください

→ 戦略力・計画性がわかる

Q4. このエリアでの直近1年の売却実績を教えてください

→ エリアの経験値がわかる

Q5. 3ヶ月で売れなかった場合どうしますか?

→ 問題解決力・想定力がわかる

この記事のまとめ

  • 売却の成否は「会社のブランド」より「担当者個人の力量」で決まる。同じ会社でも担当者で数百万円の差が出る
  • 5つの質問を全社の担当者に同じように投げかけ、回答の質を比較する
  • 最重要は「査定額の根拠を成約事例で説明できるか」。売出事例ではなく成約事例であることがポイント
  • 弱みを正直に伝えてくれる担当者は信頼できる。弱みを隠す担当者は、売却中も都合の悪い情報を隠す
  • 質問への回答だけでなく、レスポンスの速さ、査定書の質、聞く力にも注目する
  • 担当者の変更は売主の正当な権利。合わないと感じたら遠慮せず変更を申し出る
  • 最終的に「この人なら自分の物件を真剣に売ってくれる」と確信できる人に任せる