一括査定サイトで複数社に査定を依頼した。結果が出揃い、各社から連絡が来ている。査定額にはかなりのバラつきがある。さて、ここからどうやって1社に絞ればいいのか——。
「一括査定サイトの仕組みと注意点」では、一括査定のビジネスモデルと「高すぎる査定額」のリスクを解説した。「査定額が一番高い会社に頼むべきではない理由」では、高額査定の裏側を詳しく述べた。
この記事では、査定結果が出た後の「1社に絞るための具体的な判断プロセス」に焦点を当てる。
ステップ1:査定結果を並べて「相場ゾーン」を把握する
まず、各社の査定額を一覧にして並べよう。
典型的な査定結果の例
| 会社 | 査定額 | 相場との関係 |
|---|---|---|
| A社(大手) | 3,200万円 | 中間 |
| B社(大手) | 3,100万円 | やや低め |
| C社(地元) | 3,300万円 | 中間〜やや高め |
| D社(地元) | 3,000万円 | 低め |
| E社(大手) | 3,800万円 | 突出して高い |
5社中4社(A〜D社)は3,000〜3,300万円のレンジに収まっている。この範囲が「相場ゾーン」だ。E社だけが3,800万円と突出して高い。
自分でも相場を確認する
不動産会社の査定額を鵜呑みにせず、自分でも相場を把握しておくことが重要だ。当サイトで同じマンションの過去の成約事例を確認したり、同じエリアの土地の坪単価を調べたりして、「だいたいこのくらいが妥当だろう」という自分なりの基準を持っておく。
ステップ2:机上査定から訪問査定に進む会社を3社に絞る
一括査定で5〜6社に依頼した場合、全社の訪問査定を受けるのは時間的にも体力的にも厳しい。以下の基準で3社に絞る。
| 残す会社 | 除外する会社 |
|---|---|
| 査定額が相場ゾーン内 | 査定額が突出して高い(釣り査定の疑い) |
| 電話・メールのレスポンスが早い | 連絡が遅い、しつこい営業電話を何度もかけてくる |
| 査定額の根拠をデータで説明してくれた | 「弊社なら高く売れます」としか言わない |
| 大手と地元のバランスが取れている | 同じタイプの会社が偏っている |
理想的な組み合わせは「大手1〜2社+地元1〜2社」の計3社。大手と地元で販売力の質が異なるため、比較することで見えてくるものがある。
ステップ3:訪問査定で「6つの質問」をする
訪問査定は、不動産会社が物件を見に来ると同時に、売主が不動産会社を面接する場でもある。以下の6つの質問を全社に同じように投げかけ、回答の質を比較する。
質問1:「この査定額の根拠を具体的に教えてください」
最も重要な質問。良い担当者は、以下のような具体的なデータを示して回答する。
- 「同じマンション内の直近3件の成約事例では、㎡単価が○○万円〜○○万円でした」
- 「近隣の類似物件(築年数・面積が近い物件)の成約データはこのようになっています」
- 「お部屋は○階・南向きで眺望が良いため、成約㎡単価の上限に近い金額を設定しました」
「経験上この金額です」「このエリアはだいたいこのくらいです」といった根拠のない回答は減点だ。
質問2:「具体的な販売戦略を教えてください」
「どう売るか」の計画を具体的に聞く。
| 確認ポイント | 良い回答例 |
|---|---|
| 掲載するポータルサイト | 「SUUMO・HOME'S・at homeに掲載します。SUUMOは特集枠で写真15枚以上」 |
| 写真撮影 | 「プロカメラマンが撮影します。広角レンズと自然光を活かした撮り方です」 |
| ターゲット設定 | 「この物件は○○学区なので、小学生のお子さんがいるファミリーをメインターゲットにします」 |
| 価格戦略 | 「最初は○○万円で出し、1ヶ月で反応が薄ければ○○万円に調整する想定です」 |
| オープンハウス | 「初月に2回、週末にオープンハウスを実施する予定です」 |
質問3:「この物件の弱みは何ですか?」
メリットだけ並べる担当者は信用できない。弱みを正直に伝えてくれる担当者は、その弱みへの対策も考えている可能性が高い。
「北向きなので冬場の日当たりが弱いですが、その分価格を少し抑えることで、予算重視の買い手に刺さるポジショニングにします」——こういう回答ができる担当者は力がある。
質問4:「売出し後1ヶ月で問い合わせがゼロだったらどうしますか?」
この質問で担当者の「想定力」と「誠実さ」がわかる。
- 良い回答:「まず価格の問題か広告の問題かを分析します。PV数が少なければ広告の改善、PVはあるのに問い合わせがなければ価格の見直しを提案します」
- 悪い回答:「そんなことにはなりません」「弊社なら大丈夫です」
質問5:「他社からの問い合わせにはどう対応しますか?」
囲い込みへの姿勢を確認する質問。「レインズに登録して、他社からの問い合わせにも当然対応します」と明言してくれるかどうか。ここで歯切れが悪い場合は要注意だ。
質問6:「直近で担当されたこのエリアの売却事例を1つ教えてください」
実績の確認だ。具体的な事例を即座に挙げられる担当者は、このエリアの経験が豊富だ。「守秘義務があるので詳細は言えませんが、同じマンションの○号室を半年前にお手伝いしました」くらいの回答は期待したい。
ステップ4:「査定額」「戦略」「担当者」の3軸で評価する
3社の訪問査定が終わったら、以下の3軸で各社を評価する。
評価シート
| 評価項目 | 重み | A社 | B社 | C社 |
|---|---|---|---|---|
| 査定額の根拠の質 | 30% | ○△× | ○△× | ○△× |
| 販売戦略の具体性 | 30% | ○△× | ○△× | ○△× |
| 担当者の質(知識・誠実さ・レスポンス) | 30% | ○△× | ○△× | ○△× |
| 査定額の水準 | 10% | ○△× | ○△× | ○△× |
注目してほしいのは、査定額の水準は全体の10%しかウェイトを置いていないことだ。査定額は「この金額で売れる」という約束ではなく、「この金額が妥当だと思う」という意見にすぎない。それよりも、根拠の質、戦略の具体性、担当者の力量の方がはるかに重要だ。
ステップ5:最終確認——「断る覚悟」を持って決める
3社を比較して1社を選んだら、残りの2社にはお断りの連絡をする。ここで躊躇する売主が多いが、明確に断ることは売主の権利であり、マナーでもある。
断り方の例文
「今回は複数社に査定を依頼し、総合的に検討した結果、他社にお願いすることにしました。丁寧にご対応いただきありがとうございました」——これで十分だ。理由を詳しく説明する必要はない。
選んだ会社との媒介契約前に確認すべきこと
媒介契約前チェックリスト
1. 契約形態の確認
専任媒介か一般媒介か。契約期間(通常3ヶ月)
2. 仲介手数料の確認
上限額の確認、支払いタイミング(契約時半額+決済時半額 or 決済時全額)
3. 広告費の負担
仲介手数料以外に広告費を請求される可能性があるかどうか
4. 報告の方法と頻度
メールか電話か、報告書のフォーマットはあるか
5. 解約条件
3ヶ月の期間中に解約する場合の条件と手続き
よくある失敗パターン
失敗1:査定額が最も高い会社に即決
最もよくある失敗。高い査定額を出した会社が、その価格で売ってくれるわけではない。売り出し後に値下げを重ね、結局他社の査定額と同じかそれ以下の価格で売れた——というケースは非常に多い。
失敗2:営業トークの上手さに惹かれて決定
「話が上手い」と「仕事ができる」は別の能力だ。契約を取るのが上手い営業マンが、売却も上手いとは限らない。話の上手さではなく、データの提示力と質問への回答の正確さで判断する。
失敗3:断るのが面倒で最初の1社に決める
一括査定で複数社に依頼したものの、最初に電話をくれた会社にそのまま決めてしまうパターン。複数社を比較しなければ、その会社が良いのか悪いのかを判断する基準がない。
失敗4:知人の紹介を断れなかった
「友人の紹介だから」「親戚が不動産会社に勤めているから」——こうした理由で会社を選ぶのは危険だ。知人関係が絡むと、売却結果が悪くても文句を言いにくく、契約変更もしにくい。不動産売却は人生で最大級の取引だ。人間関係ではなく、実力で選ぶべきだ。
まとめ——査定額で選ぶな、担当者で選べ
この記事のまとめ
- 査定結果を並べて「相場ゾーン」を把握する。突出して高い査定は釣り査定の可能性
- 机上査定から訪問査定に進む会社は、大手1〜2社+地元1〜2社の計3社が適切
- 訪問査定で「6つの質問」を全社に投げかけ、回答の質を比較する
- 最重要の質問は「査定額の根拠」。データで具体的に説明できる会社を選ぶ
- 評価の重みは「根拠の質30%+戦略の具体性30%+担当者の質30%+査定額の水準10%」
- 査定額が最も高い会社に飛びつくのが最大の失敗パターン
- 一括査定の最大の価値は「複数の担当者を比較できること」。この比較を省略しないこと