一括査定サイトで複数社に査定を依頼した。結果が出揃い、各社から連絡が来ている。査定額にはかなりのバラつきがある。さて、ここからどうやって1社に絞ればいいのか——。

一括査定サイトの仕組みと注意点」では、一括査定のビジネスモデルと「高すぎる査定額」のリスクを解説した。「査定額が一番高い会社に頼むべきではない理由」では、高額査定の裏側を詳しく述べた。

この記事では、査定結果が出た後の「1社に絞るための具体的な判断プロセス」に焦点を当てる。

ステップ1:査定結果を並べて「相場ゾーン」を把握する

まず、各社の査定額を一覧にして並べよう。

典型的な査定結果の例

会社査定額相場との関係
A社(大手)3,200万円中間
B社(大手)3,100万円やや低め
C社(地元)3,300万円中間〜やや高め
D社(地元)3,000万円低め
E社(大手)3,800万円突出して高い

5社中4社(A〜D社)は3,000〜3,300万円のレンジに収まっている。この範囲が「相場ゾーン」だ。E社だけが3,800万円と突出して高い。

E社の3,800万円は「釣り査定」の可能性が高い。高い査定額を出して媒介契約を取り、売り出した後に「反応が悪いので値下げしましょう」と言ってくるパターンだ。売主にとっては、数ヶ月間を無駄にしたうえに、結局相場通りの価格で売ることになる。査定額が相場ゾーンから15%以上乖離している会社は、その根拠を特に厳しくチェックする必要がある。

自分でも相場を確認する

不動産会社の査定額を鵜呑みにせず、自分でも相場を把握しておくことが重要だ。当サイトで同じマンションの過去の成約事例を確認したり、同じエリアの土地の坪単価を調べたりして、「だいたいこのくらいが妥当だろう」という自分なりの基準を持っておく。

ステップ2:机上査定から訪問査定に進む会社を3社に絞る

一括査定で5〜6社に依頼した場合、全社の訪問査定を受けるのは時間的にも体力的にも厳しい。以下の基準で3社に絞る。

残す会社除外する会社
査定額が相場ゾーン内査定額が突出して高い(釣り査定の疑い)
電話・メールのレスポンスが早い連絡が遅い、しつこい営業電話を何度もかけてくる
査定額の根拠をデータで説明してくれた「弊社なら高く売れます」としか言わない
大手と地元のバランスが取れている同じタイプの会社が偏っている

理想的な組み合わせは「大手1〜2社+地元1〜2社」の計3社。大手と地元で販売力の質が異なるため、比較することで見えてくるものがある。

ステップ3:訪問査定で「6つの質問」をする

訪問査定は、不動産会社が物件を見に来ると同時に、売主が不動産会社を面接する場でもある。以下の6つの質問を全社に同じように投げかけ、回答の質を比較する。

質問1:「この査定額の根拠を具体的に教えてください」

最も重要な質問。良い担当者は、以下のような具体的なデータを示して回答する。

  • 「同じマンション内の直近3件の成約事例では、㎡単価が○○万円〜○○万円でした」
  • 「近隣の類似物件(築年数・面積が近い物件)の成約データはこのようになっています」
  • 「お部屋は○階・南向きで眺望が良いため、成約㎡単価の上限に近い金額を設定しました」

「経験上この金額です」「このエリアはだいたいこのくらいです」といった根拠のない回答は減点だ。

質問2:「具体的な販売戦略を教えてください」

「どう売るか」の計画を具体的に聞く。

確認ポイント良い回答例
掲載するポータルサイト「SUUMO・HOME'S・at homeに掲載します。SUUMOは特集枠で写真15枚以上」
写真撮影「プロカメラマンが撮影します。広角レンズと自然光を活かした撮り方です」
ターゲット設定「この物件は○○学区なので、小学生のお子さんがいるファミリーをメインターゲットにします」
価格戦略「最初は○○万円で出し、1ヶ月で反応が薄ければ○○万円に調整する想定です」
オープンハウス「初月に2回、週末にオープンハウスを実施する予定です」

質問3:「この物件の弱みは何ですか?」

メリットだけ並べる担当者は信用できない。弱みを正直に伝えてくれる担当者は、その弱みへの対策も考えている可能性が高い。

「北向きなので冬場の日当たりが弱いですが、その分価格を少し抑えることで、予算重視の買い手に刺さるポジショニングにします」——こういう回答ができる担当者は力がある。

質問4:「売出し後1ヶ月で問い合わせがゼロだったらどうしますか?」

この質問で担当者の「想定力」と「誠実さ」がわかる。

  • 良い回答:「まず価格の問題か広告の問題かを分析します。PV数が少なければ広告の改善、PVはあるのに問い合わせがなければ価格の見直しを提案します」
  • 悪い回答:「そんなことにはなりません」「弊社なら大丈夫です」

質問5:「他社からの問い合わせにはどう対応しますか?」

囲い込みへの姿勢を確認する質問。「レインズに登録して、他社からの問い合わせにも当然対応します」と明言してくれるかどうか。ここで歯切れが悪い場合は要注意だ。

質問6:「直近で担当されたこのエリアの売却事例を1つ教えてください」

実績の確認だ。具体的な事例を即座に挙げられる担当者は、このエリアの経験が豊富だ。「守秘義務があるので詳細は言えませんが、同じマンションの○号室を半年前にお手伝いしました」くらいの回答は期待したい。

訪問査定は通常1〜2時間。3社受ければ丸1日は使うことになる。しかし、この時間を惜しんで1社だけで決めてしまうと、比較の基準がないまま媒介契約を結ぶことになる。不動産売却で数百万円の差が出ることを考えれば、3社の訪問査定は最もコスパの良い投資だ。

ステップ4:「査定額」「戦略」「担当者」の3軸で評価する

3社の訪問査定が終わったら、以下の3軸で各社を評価する。

評価シート

評価項目重みA社B社C社
査定額の根拠の質30%○△×○△×○△×
販売戦略の具体性30%○△×○△×○△×
担当者の質(知識・誠実さ・レスポンス)30%○△×○△×○△×
査定額の水準10%○△×○△×○△×

注目してほしいのは、査定額の水準は全体の10%しかウェイトを置いていないことだ。査定額は「この金額で売れる」という約束ではなく、「この金額が妥当だと思う」という意見にすぎない。それよりも、根拠の質、戦略の具体性、担当者の力量の方がはるかに重要だ。

査定額が5社中2番目に高い会社で、根拠の説明が最も論理的で、販売戦略が最も具体的で、担当者のレスポンスが最も早い——こういう会社があれば、その会社を選ぶのが正解だ。逆に、査定額が最も高いが、根拠が曖昧で戦略も具体性に欠け、担当者の返信も遅い——こういう会社は、査定額の高さに関係なく避けるべきだ。

ステップ5:最終確認——「断る覚悟」を持って決める

3社を比較して1社を選んだら、残りの2社にはお断りの連絡をする。ここで躊躇する売主が多いが、明確に断ることは売主の権利であり、マナーでもある。

断り方の例文

「今回は複数社に査定を依頼し、総合的に検討した結果、他社にお願いすることにしました。丁寧にご対応いただきありがとうございました」——これで十分だ。理由を詳しく説明する必要はない。

選んだ会社との媒介契約前に確認すべきこと

媒介契約前チェックリスト

1. 契約形態の確認

専任媒介か一般媒介か。契約期間(通常3ヶ月)

2. 仲介手数料の確認

上限額の確認、支払いタイミング(契約時半額+決済時半額 or 決済時全額)

3. 広告費の負担

仲介手数料以外に広告費を請求される可能性があるかどうか

4. 報告の方法と頻度

メールか電話か、報告書のフォーマットはあるか

5. 解約条件

3ヶ月の期間中に解約する場合の条件と手続き

よくある失敗パターン

失敗1:査定額が最も高い会社に即決

最もよくある失敗。高い査定額を出した会社が、その価格で売ってくれるわけではない。売り出し後に値下げを重ね、結局他社の査定額と同じかそれ以下の価格で売れた——というケースは非常に多い。

失敗2:営業トークの上手さに惹かれて決定

「話が上手い」と「仕事ができる」は別の能力だ。契約を取るのが上手い営業マンが、売却も上手いとは限らない。話の上手さではなく、データの提示力と質問への回答の正確さで判断する。

失敗3:断るのが面倒で最初の1社に決める

一括査定で複数社に依頼したものの、最初に電話をくれた会社にそのまま決めてしまうパターン。複数社を比較しなければ、その会社が良いのか悪いのかを判断する基準がない。

失敗4:知人の紹介を断れなかった

「友人の紹介だから」「親戚が不動産会社に勤めているから」——こうした理由で会社を選ぶのは危険だ。知人関係が絡むと、売却結果が悪くても文句を言いにくく、契約変更もしにくい。不動産売却は人生で最大級の取引だ。人間関係ではなく、実力で選ぶべきだ。

マンションリサーチを創業して一括査定サービスを運営していた経験から言えるのは、一括査定の「最大の価値」は高い査定額を出してくれることではなく、複数の担当者を比較できることだ。比較するからこそ、誰が信頼できるかが見えてくる。1社だけでは「この人が良いのか悪いのか」を判断する基準がない。3社に会えば、必ず「この人は違うな」というものが見えてくる。査定額ではなく、その「違い」を見つけるために一括査定を使ってほしい。

まとめ——査定額で選ぶな、担当者で選べ

この記事のまとめ

  • 査定結果を並べて「相場ゾーン」を把握する。突出して高い査定は釣り査定の可能性
  • 机上査定から訪問査定に進む会社は、大手1〜2社+地元1〜2社の計3社が適切
  • 訪問査定で「6つの質問」を全社に投げかけ、回答の質を比較する
  • 最重要の質問は「査定額の根拠」。データで具体的に説明できる会社を選ぶ
  • 評価の重みは「根拠の質30%+戦略の具体性30%+担当者の質30%+査定額の水準10%」
  • 査定額が最も高い会社に飛びつくのが最大の失敗パターン
  • 一括査定の最大の価値は「複数の担当者を比較できること」。この比較を省略しないこと