30年間、不動産業界にいると、売却で後悔する人のパターンが見えてくる。
面白いもので、後悔する理由は時代が変わってもほとんど同じだ。バブルの時も、リーマンショックの後も、コロナ禍でも、アベノミクスで相場が上がった時も。人が陥る罠は、驚くほど共通している。
今日はその中から、特に多い5つのパターンを紹介する。これを読んだからには、同じ失敗はしないでほしい。
パターン1:査定額が一番高い会社に頼んだ
これは本当に多い。一括査定サイトで6社に査定を依頼し、一番高い金額を出した会社に飛びつく。
3社が3,500万円前後の査定を出しているのに、1社だけ4,200万円を提示してきた。「この会社は自信があるんだな、きっと高く売ってくれる」と思ってしまう。
しかし現実は、一括査定の仕組みのコラムで詳しく書いた通り、高い査定額は「媒介契約を取るための営業ツール」であることが多い。その価格で売れる保証はどこにもない。
パターン2:相場を調べずに売り出した
「不動産会社に任せておけば大丈夫」と思っている人が、想像以上に多い。
自分のマンションの相場がいくらなのか、近所で最近いくらで成約しているのか、まったく調べないまま不動産会社と話を始める。これは非常に危険だ。
相場を知らない売主は、不動産会社の言い値を信じるしかない。それが高すぎる査定であっても、安すぎる買取価格であっても、判断の基準がないから気づけない。
当サイトには国土交通省の成約データ約500万件が格納されている。エリアごとの相場やマンションごとの取引履歴を、無料で誰でも見ることができる。売却を考え始めた段階で、まずここでデータを確認してほしい。
パターン3:値下げのタイミングを逃した
これは売り出し価格の決め方とも関連する話だ。
適正価格よりやや高めに売り出すこと自体は、戦略としてアリだ。問題は、反応が悪かった時に素早く判断できないことだ。
不動産の売り出しには「鮮度」がある。新着物件としてポータルサイトに載った最初の2〜3週間がもっとも注目を集める時期で、この期間の問い合わせ数と内覧数が、今後の成約見込みを大きく左右する。
最初の2〜3週間で内覧が1〜2件しか入らなければ、価格が高すぎる可能性がある。ここで迅速に50万〜100万円の値下げを行えば、まだ巻き返せる。
しかし、「もう少し待てば買い手が見つかるかもしれない」と考え、1ヶ月、2ヶ月と放置してしまう人が多い。その間に物件は「売れ残り」の印象がつき、ポータルサイト上の注目度も下がっていく。
パターン4:内覧対応を甘く見た
意外に見落とされがちだが、内覧の印象は成約価格に直結する。
同じマンション、同じ間取りでも、内覧時の印象が良ければ「ここに住みたい」と思ってもらえるし、印象が悪ければ「この価格は高い」と値引き交渉の材料にされる。
私が仲介の現場で見てきた「内覧で損をする」典型パターンはこうだ。
・部屋が散らかっている、生活感が強すぎる
・水回り(キッチン、バスルーム、トイレ)が汚い
・室内が暗い(カーテンを閉めている、照明をつけていない)
・ペットの臭いが染みついている
・売主が内覧中にずっと付きまとう
特に水回りの清潔感は重要だ。キッチンのシンクや換気扇の油汚れ、浴室のカビ、トイレの黄ばみ——こういった箇所は買い手の印象を大きく左右する。プロのハウスクリーニングに3〜5万円払えば見違えるので、内覧前に一度入れることを強くおすすめする。
パターン5:税金の計算を後回しにした
不動産を売却すると、利益(譲渡所得)に対して税金がかかる。これを「後から知った」という人が、驚くほど多い。
譲渡所得税の税率は、所有期間によって大きく変わる。
| 所有期間 | 区分 | 税率(所得税+住民税) |
|---|---|---|
| 5年以下 | 短期譲渡所得 | 約39.63% |
| 5年超 | 長期譲渡所得 | 約20.315% |
5年以下か5年超かで、税率が約2倍違う。1,000万円の利益なら、短期で約396万円、長期で約203万円。差額は約193万円だ。
さらに、マイホームの売却には「3,000万円特別控除」という大きな特例がある。これを使えば、利益が3,000万円以内なら税金がゼロになる。しかし、この特例にはいくつかの適用要件があり、知らずに要件を満たせなくなってしまうケースがある。
5つのパターンに共通すること
ここまで5つの後悔パターンを見てきたが、共通しているのは「事前の情報収集が足りなかった」という点だ。
査定額の根拠を調べなかった。相場を知らなかった。値下げの判断基準を持っていなかった。内覧のコツを知らなかった。税金の仕組みを知らなかった。
不動産の売却は、多くの人にとって人生で1〜2回しかない大きな取引だ。経験値がないのは当然だ。だからこそ、データで相場を調べ、知識を身につけた上で臨んでほしい。
この記事のまとめ
- パターン1:査定額が一番高い会社に頼む→高値掴みで売れ残り
- パターン2:相場を調べずに売り出す→不動産会社の言いなりに
- パターン3:値下げのタイミングを逃す→鮮度が落ちて売れ残り
- パターン4:内覧対応を甘く見る→第一印象の悪さで値引き交渉される
- パターン5:税金の計算を後回しにする→予想外の税負担に苦しむ
- 共通点は「事前の情報収集不足」。データと知識が最大の武器