不動産売買契約の前に、買主に対して「重要事項説明」が行われる。宅建士が口頭と書面で物件情報を説明する法律上の義務だ。売主は直接の対象者ではないが、重説の内容は売主にとっても重要だ。記載ミスや情報不足があれば、後のトラブルにつながる。

この記事では、重要事項説明書の構成と、売主が確認すべきポイントを解説する。

重要事項説明書とは何か

重要事項説明書(略して「重説」)は、宅地建物取引業法35条で定められた書面。宅建士が買主に対し、契約前に物件の重要事項を説明するために作成される。

法的義務

  • 宅建士の資格保持者が説明する必要
  • 売買契約のに説明する必要
  • 書面と口頭の両方で
  • 2022年5月からIT重説(オンライン重説)も可能に

重要事項説明書の構成

重説は以下の主要項目で構成される。

大項目記載内容
物件の表示所在地、地番、地目、面積、建物種別等
登記事項所有権、抵当権、差押等の権利関係
法令上の制限都市計画法、建築基準法、条例等
設備・インフラ水道、ガス、電気、下水道の整備状況
区分所有建物(マンション)管理規約、使用細則、修繕積立金、総戸数等
契約条件代金、手付金、引渡時期、瑕疵担保
代金精算固定資産税、管理費の日割り精算
特約事項物件固有の特記事項

売主が確認すべき7つのポイント

ポイント1:物件情報の正確性

所在地、面積、築年数、構造、階数等の基本情報に誤りがないか。

  • 登記簿上の面積と実際の面積(公簿面積 vs 実測面積)
  • 専有面積とバルコニー面積の区別
  • 築年月の正確な日付
  • 所在階と建物階数

ポイント2:権利関係の整理

所有権と抵当権の状況が正確に記載されているか。

  • 単独所有 or 共有
  • 抵当権の設定銀行・金額
  • 引渡し時の抵当権抹消予定
  • 借地権・地上権の有無

ポイント3:法令制限の記載

都市計画法・建築基準法・その他条例等の制限事項が正確に記載されているか。売主が知らない制限があれば、不動産会社に調査を依頼する。

  • 用途地域・建ぺい率・容積率
  • 高さ制限・日影規制
  • 防火地域・準防火地域
  • 都市計画道路の計画範囲
  • 急傾斜地崩壊危険区域・土砂災害警戒区域等

ポイント4:インフラ・設備の状況

  • 上水道・下水道の整備状況
  • ガス(都市ガス or プロパン)
  • 電気の契約容量
  • 浄化槽の有無と種類
  • エレベーター・共用施設(マンション)

ポイント5:マンション特有の記載

マンション物件の場合、以下も確認する。

  • 管理費・修繕積立金の月額
  • 修繕積立金の総額と長期修繕計画
  • 大規模修繕の実施履歴と予定
  • 管理規約(ペット可否、楽器可否等)
  • 総戸数・共用施設
  • 駐車場の空き状況

これらの情報は「マンション売却に必要な書類一覧」で解説したマンション重要事項調査報告書から転記されることが多い。

ポイント6:告知事項・特記事項

売主の開示義務のある事項を正確に記載する。

  • 過去の雨漏り・シロアリ履歴
  • 給排水設備の不具合
  • 境界の未確定部分
  • 隣地とのトラブル履歴
  • 心理的瑕疵(自殺・殺人・孤独死等)
  • 周辺環境(嫌悪施設、騒音源等)

ポイント7:契約条件の記載

  • 売買代金
  • 手付金額
  • 引渡し日
  • 所有権移転登記の時期
  • 瑕疵担保(契約不適合責任)の範囲・期間
  • 特約事項

売主の告知義務

売主は物件の瑕疵・問題点について、知っていることは全て不動産会社に伝える義務がある。これを怠ると、後で「告知義務違反」として損害賠償・契約解除の対象になる。

特に重要な告知事項

カテゴリ告知内容の例
物理的瑕疵雨漏り、シロアリ、給排水の不具合、壁のひび割れ
法律的瑕疵再建築不可、既存不適格、境界未確定
心理的瑕疵自殺、殺人、孤独死(時間経過後も)
環境的瑕疵騒音、悪臭、嫌悪施設(斎場、工場等)、害虫

詳しくは「事故物件(心理的瑕疵)の告知義務と価格への影響」も参照。

「言っていない」はリスク——包括的な開示

売主が「大したことではない」と思って伝えなかった情報が、後で問題になることがある。原則として、物件に関わる情報は全て不動産会社に伝えるべきだ。

伝えるべき情報の例

  • 過去のリフォーム履歴(年月、内容、業者)
  • 過去の不具合・修理履歴
  • 隣地との関係(境界杭の有無、越境物)
  • 管理組合からの情報(修繕計画等)
  • 周辺の騒音源(学校、工場、高速道路等)
  • 過去の事件・事故(心理的瑕疵)
  • ペット飼育歴
  • 喫煙の有無
「曖昧な記憶でも伝えるべきか?」という質問をよく受けるが、答えは「はい」だ。曖昧な情報も含めて業者に伝え、業者が重説に記載するかどうか判断する。売主が独断で「言わない」と決めると、後でトラブルになった時に売主の責任になる。

重説の作成プロセス

ステップ1:不動産会社が調査

  • 登記簿・公図の取得
  • 法令制限の調査
  • インフラ状況の確認
  • マンションなら管理会社への照会

ステップ2:売主へのヒアリング

不動産会社が売主に物件について質問する。売主は知っていることを全て伝える。

ステップ3:重説草案作成

不動産会社が重説の草案を作成する。

ステップ4:売主による確認

ここが売主の重要な作業だ。草案の内容を精読し、誤りや見落としを指摘する。

ステップ5:買主への説明

契約日前に宅建士が買主に重説を説明する。売主も同席可能。

ステップ6:押印

買主が重説を了承したことを示す押印。これを経て契約書へ進む。

重説の記載ミスが起きた場合

ケース1:売主の告知漏れ

売主が知っていた情報を伝えていなかった場合、売主に責任がある。損害賠償・契約解除のリスク。

ケース2:不動産会社の調査漏れ

調査すれば判明した情報を業者が見落とした場合、業者に責任がある。宅建業法違反として行政指導の対象になる。

ケース3:買主の誤解

重説で説明したが、買主が誤解していた場合。書面で明記していれば、業者・売主に責任はない。

IT重説(オンライン重説)

2022年5月の宅建業法改正により、IT重説が正式に認められた。Zoom等のビデオ会議で重説を行える。

IT重説のメリット

  • 遠方の買主でも説明可能
  • 売主の同席も柔軟に
  • 録画による証拠保全

IT重説のデメリット

  • 書面を同時に見る必要があり、操作が複雑
  • 通信トラブルのリスク
  • 対面と比べて印象が残りにくい

重説と契約書の関係

重説は「契約前に確認する書面」、契約書は「契約の合意を示す書面」だ。両者は別の書面だが、内容に整合性が必要だ。

  • 重説で説明していない事項は契約書にも書かない
  • 特約は両方の書面で一致している必要
  • 重説と契約書の矛盾はトラブルの原因
重要事項説明書は、買主のための書面だが、実質的には売主にとっても自分を守る書面だ。「聞かれなかったから言わなかった」「大したことではないと思った」という言い訳は通用しない。知っている情報は全て開示し、重説に反映させる——この姿勢が、後のトラブルを防ぐ最良の方法だ。30年の経験で、告知漏れが原因の訴訟を何度も見てきたが、全て「売主の自衛意識の欠如」が原因だった。

まとめ——「売主も重説の当事者」

重要事項説明書は買主のための書面だが、売主も積極的に関わるべきだ。草案の確認、情報の正確性チェック、告知事項の開示を徹底することで、契約後のトラブルを予防できる。「知っていることは全て伝える」という姿勢が、売主自身を守る最良の方法だ。

この記事のまとめ

  • 重説は宅建業法35条で定められた法定書面、宅建士が説明
  • 7つのポイント:物件情報・権利関係・法令制限・設備・マンション特有・告知事項・契約条件
  • 売主の告知義務:物理的・法律的・心理的・環境的瑕疵の全て
  • 「曖昧な情報」も含めて全て不動産会社に伝える
  • 重説の草案は売主も精読してチェック
  • 重説と契約書の整合性確認が重要