売り出しから数週間〜数ヶ月、待ちに待った「購入申込書」が不動産会社経由で届く。これは買い手が「この物件を購入したい」という意思を示す書面で、売却活動の大きな節目だ。しかし申込書の内容を正しく読み取り、判断することができないと、後のトラブルにつながる。

この記事では、購入申込書の構成、確認ポイント、売主の選択肢を解説する。

購入申込書とは何か

購入申込書(買付証明書・買付申込書とも呼ばれる)は、買い手が売り手に対して「この条件で購入したい」と意思表示する書面だ。

重要:法的拘束力はない

申込書は法的拘束力を持たない。売買契約が成立したわけではないため、買い手は後で「やっぱりやめた」と申込を撤回できる。逆に売主も承諾しない自由がある。

ただし実務上は、申込書を出した買い手の約80〜90%がそのまま契約に進むとされる。信頼度は高いが、確定ではない点を理解しておく。

購入申込書の構成

一般的な購入申込書には以下の項目が記載される。

項目記載内容
物件情報所在地、種別、面積、価格
購入希望価格買い手が希望する金額(指値)
手付金額契約時に支払う手付金(価格の5〜10%)
契約希望日売買契約の日程
引渡し希望日物件の引渡し日程
支払方法現金・住宅ローン・住み替えローン等
ローン特約住宅ローン不承認時の契約解除条件
買主氏名・属性個人・法人、年収、勤続年数等
有効期限申込書の有効期限(通常1〜2週間)
備考特別な要望・条件

確認すべき7つのポイント

ポイント1:希望価格(指値の幅)

売出価格に対して、買い手がいくらで希望しているか。「指値が入った時の判断基準」で詳しく解説したが、指値幅の目安は以下の通り。

指値幅判断
0〜3%礼儀的、応じるべき
3〜5%標準的、条件次第で応じる
5〜10%強気、中間値で逆提案
10%以上慎重に判断、断る選択肢も

ポイント2:手付金額

手付金は売買契約時に買い手が支払う金額で、通常は売買価格の5〜10%。手付金が多いほど、買い手の本気度が高く、契約不履行のリスクが下がる。

  • 5%未満:低い、買い手の本気度に疑問
  • 5〜10%:標準的
  • 10%以上:本気度が高い、契約確実性が増す

ポイント3:引渡し希望日

買い手の引渡し希望日が売主の都合と合うか確認する。売主が住みながら売却している場合、次の住まいへの引越しを考慮する必要がある。

希望判断
契約後1〜2ヶ月標準的
契約後3〜6ヶ月売主の引越し準備に余裕
契約後6ヶ月超長すぎる、市況変動リスク
即時引渡し現金買主の可能性、早期成約に有利

ポイント4:住宅ローン事前審査の有無

これが最も重要なチェック項目だ。住宅ローンを使う買い手が事前審査を通過しているかどうかで、契約後の破綻リスクが大きく変わる。

状況破綻リスク
現金購入ほぼゼロ
事前審査承認済低い(5〜10%)
事前審査中中程度(20〜30%)
事前審査未実施高い(30〜50%)

事前審査済みでない申込書の場合、売主は「事前審査の通過を確認してから契約」という条件を付けるのが賢明だ。

ポイント5:ローン特約の有無と条件

「住宅ローンが不承認になった場合、契約を白紙解除する」という特約。買い手を守る条項だが、売主にとっては契約後の白紙化リスクになる。

  • ローン特約期限: 契約後○日以内に審査結果が出ること。通常1ヶ月程度
  • 対象金額: 借入予定額と一致しているか
  • 金融機関: 指定があるか

ポイント6:買主属性

買い手がどんな人か。属性によって契約の確実性が変わる。

  • 会社員・公務員: 住宅ローン審査に通りやすく、契約確実性が高い
  • 自営業・フリーランス: 審査が厳しく、審査不通のリスクが高い
  • 投資家: 現金購入が多い、契約確実性は高い
  • 法人: 投資・社宅目的等、審査基準が異なる
  • 買取再販業者: 確実性は高いが指値が強い

ポイント7:有効期限

申込書には有効期限が記載されている。通常1〜2週間。売主がこの期間内に承諾・交渉・断りの判断を出す必要がある。

期限を過ぎると申込は自動的に失効する。決断が遅いと、買い手が他物件に流れる可能性がある。

売主の3つの選択肢

選択肢1:承諾

申込書の条件をすべて受け入れる。売買契約の準備に進む。

  • メリット:最速で成約へ
  • デメリット:条件改善の余地を放棄

選択肢2:逆提案(カウンターオファー)

売主から新しい条件を提示する。例えば「価格は受け入れるが、引渡し日を1ヶ月後ろにずらしてほしい」。

  • メリット:双方にとって最適な条件を探れる
  • デメリット:買い手が離れるリスク

典型的な逆提案パターン:

  • 売出価格3,000万円、申込2,800万円 → 逆提案2,900万円(中間値)
  • 手付金5%の提案 → 逆提案10%に引き上げ
  • 引渡し1ヶ月後の希望 → 2ヶ月後に延期要請

選択肢3:断る

条件が受け入れられない場合、断る。次の買い手を待つ。

  • メリット:不利な条件での契約を回避
  • デメリット:次の買い手がいつ来るか分からない

断る場合も、丁寧な対応を心がける。「この価格では承諾できませんが、○○万円なら可能です」という逆提案として返すのが理想だ。

承諾前の交渉テクニック

テク1:数日間の検討時間を確保

申込書を受け取ったらすぐに返事をせず、「3日ほど検討させてください」と時間を取る。焦って決断せず、複数の視点から分析できる。

テク2:条件のトレードオフを考える

価格を下げる代わりに、以下の条件で譲歩を求める。

  • 手付金の増額
  • 引渡し時期の売主都合調整
  • 契約不適合責任の範囲限定
  • 現状有姿での引渡し

テク3:複数申込の「競り」

同時期に複数の申込がある場合、価格と条件を比較して最適なものを選ぶ。詳細は「複数の購入申し込みが入った場合の優先順位の決め方」参照。

30年の経験で言えば、購入申込書を受け取った時の売主の反応は大きく2つに分かれる。1つは「やっと来た!」と飛びついて即承諾する人。もう1つは「もっと高い申込が来るかも」と欲を出して断る人。どちらも極端で、後悔しやすい。冷静に条件を分析し、合理的に判断する姿勢が最良の結果を生む。申込書は「交渉の出発点」であり、「ゴール」ではない。

まとめ——「内容を読み解き、冷静に判断」

購入申込書は売却活動の大きな節目だが、単に価格だけ見て判断するのは不十分だ。手付金・引渡し時期・住宅ローン審査・買主属性など7つのポイントを総合的に確認し、承諾・逆提案・断りの中から最適な選択をする。特に事前審査の有無は契約破綻リスクに直結するため、必ず確認すること。

この記事のまとめ

  • 購入申込書は買い手の意思表示、法的拘束力はないが成約確率8〜9割
  • 確認ポイント7つ:希望価格・手付金・引渡し・ローン審査・特約・買主属性・有効期限
  • 事前審査済みかどうかが最重要、未実施なら契約破綻リスクあり
  • 売主の選択肢は承諾・逆提案・断りの3つ
  • 逆提案は「価格と条件のトレードオフ」で最適化を図る
  • 即決せず数日間の検討時間を確保、冷静に判断