不動産売却を検討するとき、多くの人は相場(㎡単価)に目が行く。しかし相場と同じくらい重要な指標が「取引件数」——その街で年間どれだけの物件が売買されているかだ。取引件数が多いほど、買い手の分母が大きく、売却期間が短く、価格交渉でも売主が主導権を持ちやすい。

この記事では、国土交通省の成約データ(直近5年・全国194万件)から、市区町村別の取引件数ランキングを紹介する。「よく売れる街」の地理的な分布と、そこから読み取れる売却戦略を解説する。

全国取引件数の概要

国交省の不動産取引価格情報から、2020年〜2024年の5年間の成約データを集計した結果、総件数は1,943,180件。年平均約38万件の取引が行われている。種別比率の内訳は以下の通り。

種別件数(5年)年平均
マンション約78万件約15.6万件
一戸建て(土地と建物)約78万件約15.6万件
土地約38万件約7.6万件

都道府県別ランキングTOP10

順位都道府県5年件数全国シェア
1東京都304,179件15.7%
2大阪府179,797件9.3%
3神奈川県178,311件9.2%
4埼玉県119,555件6.2%
5愛知県113,509件5.8%
6千葉県107,092件5.5%
7兵庫県101,251件5.2%
8北海道87,277件4.5%
9福岡県76,477件3.9%
10京都府49,434件2.5%

TOP10で全国の約68%を占める。首都圏4都県(東京・神奈川・埼玉・千葉)だけで全国の約37%。人口集中と不動産流動性が比例していることがよく分かる。

市区町村別取引件数TOP30

順位市区町村総件数マンション戸建て土地
1東京都 世田谷区18,86911,4175,5231,929
2東京都 大田区16,57210,8514,2131,508
3東京都 江東区15,58413,8251,340419
4東京都 練馬区14,4877,3055,9011,281
5千葉県 船橋市12,4845,3825,4271,675
6東京都 板橋区12,3598,6262,843890
7東京都 杉並区12,2516,5884,2751,388
8東京都 足立区12,1926,2344,7051,253
9東京都 品川区11,4949,0731,694727
10埼玉県 川口市11,4005,1194,9781,303
11東京都 新宿区11,1009,3091,306485
12東京都 港区10,88510,318430137
13東京都 八王子市10,0104,1174,8021,091
14兵庫県 西宮市10,0055,3963,659950
15東京都 中央区9,5099,16427768
16東京都 江戸川区9,3764,4964,015865
17千葉県 松戸市9,1363,3744,6351,127
18兵庫県 尼崎市8,7223,5854,0311,106
19東京都 葛飾区8,5684,3423,389837
20大阪府 東大阪市8,5592,3115,1221,126

TOP20のうち東京都が12区、千葉県2市、兵庫県2市、埼玉・大阪・神奈川が各1市。世田谷区18,869件は5年間で1日あたり約10件の成約という計算になる。

注目すべきは種別比率のばらつきだ。江東区はマンションが全体の89%を占める(13,825/15,584)一方、練馬区は戸建て・土地が50%以上を占める。売主は自分の物件種別と同じ比率の取引が多い街かどうかを確認することが重要だ。

人口あたりの流動性ランキング

絶対件数だけでは人口の多い自治体が上位に来るため、人口あたりの取引件数(5年件数/千人)で「流動性」を測ると、別の風景が見える。人口10万人以上の260市区町村で集計した結果:

順位市区町村5年件数人口千人あたり
1東京都 中央区9,50917.7万53.8
2東京都 港区10,88526.6万40.9
3東京都 台東区6,82621.2万32.1
4東京都 新宿区11,10034.9万31.8
5東京都 渋谷区7,31023.1万31.7
6東京都 文京区7,33723.2万31.6
7東京都 江東区15,58453.9万28.9
8東京都 墨田区8,04728.5万28.3
9東京都 品川区11,49440.8万28.2
10東京都 豊島区7,45129.2万25.5
11兵庫県 宝塚市5,69622.9万24.9
12千葉県 印西市2,72311.1万24.5
13兵庫県 川西市3,70215.4万24.0
14滋賀県 大津市8,21834.4万23.9
15東京都 目黒区6,62028.0万23.7

上位は東京都心区で占められる。中央区53.8件/千人は「人口の5.4%が5年ごとに動く」計算で、居住者の入れ替わりが極めて速い。これは投資マネー・法人社宅・転勤・短期賃貸への転換など、多様な回転要因が重なった結果だ。

興味深いのは東京都心以外からの登場組だ。宝塚市・川西市(兵庫)は大阪通勤圏の住宅都市として相続・住み替え需要が回転。印西市(千葉)は北総線開業以来の新興住宅地で築年数の経過に伴う売却期。大津市(滋賀)は京阪通勤圏で中古物件流通が活発——いずれも「通勤圏として使える郊外住宅都市」という共通項がある。

流動性が低い街——地方都市の厳しい現実

順位市区町村5年件数人口千人あたり
1沖縄県 宜野湾市53110.0万5.3
2岩手県 一関市67910.8万6.3
3沖縄県 浦添市78011.6万6.8
4沖縄県 沖縄市96214.2万6.8
5沖縄県 うるま市96212.7万7.6
6沖縄県 那覇市2,40131.5万7.6
7滋賀県 長浜市97111.4万8.5
8福岡県 飯塚市1,08712.5万8.7
9岩手県 奥州市97911.0万8.9
10山形県 鶴岡市1,07311.9万9.0

沖縄県の都市が上位を占めるのは興味深い現象だ。人口は比較的多いが、県民所得の低さ・住宅ローン審査の通りにくさ・持ち家志向の強さなどから、中古流通市場が発達しにくい背景がある。東北・北陸の中規模都市も同様に、取引数が年間数百件レベルに留まる。

千人あたり5件ということは、人口10万人の都市で年間100件程度の成約しかない計算。自分の物件が売り出されたとき、同時期に競合する物件がわずか数件、買い手も数人程度——こうした薄い市場では売却期間が長期化しやすい。

種別の偏り——マンション比率と戸建て比率

マンション比率TOP10(5年1,000件以上)

順位市区町村マンション比率
1東京都 中央区96.4%
2東京都 港区94.8%
3東京都 千代田区93.3%
4大阪府 大阪市北区93.1%
5大阪府 大阪市中央区91.7%
6大阪府 大阪市西区90.9%
7愛知県 名古屋市中区90.5%
8福岡県 福岡市中央区89.2%
9東京都 江東区88.7%
10兵庫県 神戸市中央区88.5%

都心区はマンション中心の流通市場だ。ここで戸建てを売却する場合、取引件数自体は多いが、同じ種別の比較事例が少ないため、相場把握が難しくなる。

戸建て比率TOP10

順位市区町村戸建て比率
1長野県 安曇野市100.0%
2鹿児島県 姶良市99.8%
3滋賀県 高島市99.8%
4熊本県 合志市99.8%
5茨城県 神栖市99.7%

地方都市では分譲マンションが極めて少なく、ほぼ全てが戸建て・土地の取引になる。マンション売却を考えるなら、都市中心部か政令指定都市にターゲットを絞る必要がある。

取引件数から読む売却戦略

流動性の高い街(千人あたり20件以上)での戦略

  • 競合物件が多い:広告の質・写真・タイトルで差別化が重要
  • 買い手の比較対象が豊富:価格設定の精度が求められる
  • 短期決戦が可能:相場価格で出せば3ヶ月以内の成約が現実的
  • 情報が新鮮:成約データで直近の類似取引を確認しやすい

流動性の低い街(千人あたり10件未満)での戦略

  • 売却期間を長めに見積もる:6ヶ月〜1年の覚悟
  • 価格設定は慎重に:参考事例が少ないため、相場判断が難しい
  • 買い手層が狭い:広告範囲を広げる(近隣市・県全体)
  • 買取業者への相談も視野:売却長期化が耐えられないなら現実的な選択肢
  • 売却前リフォーム・ステージングの効果が相対的に大きい
30年の現場経験から言えば、「流動性の低い街の売却は、流動性の高い街の売却と別の戦略が必要」ということだ。都心のマンション感覚で「3ヶ月で売れないのはおかしい」と地方で焦ると、適正価格以下での早期売却に追い込まれる。地方では「半年〜1年の覚悟で、じっくり」が基本だ。自分の街の流動性を数字で把握することが、適切な売却戦略の第一歩になる。

まとめ——「相場」と「流動性」の両方を見る

不動産売却では相場(㎡単価)だけでなく、取引件数(流動性)も重要な指標だ。全国194万件の成約データは、東京都心区の桁違いの回転と、地方都市の薄い市場の両方を明らかにする。自分の街の位置づけを数字で把握し、流動性に応じた売却戦略を立てることが成功の鍵になる。

この記事のまとめ

  • 全国5年194万件、首都圏4都県で全国の37%
  • 市区町村TOP5は世田谷・大田・江東・練馬・船橋。いずれも首都圏
  • 千人あたり流動性TOPは中央区53.8件、港区40.9件と都心区が独占
  • 沖縄・東北・北陸の中規模都市は流動性が極端に低い
  • 流動性が低い街では売却期間を6ヶ月〜1年で設計、広告範囲を広げる
  • 自分の物件種別に合った流通市場の街かどうかを確認