不動産の売り時は本当に存在するのか。「春が売り時」「3月がいい」といった俗説はよく聞くが、実際のところどうなのか。この記事では、国交省の成約データ(2020〜2024年の5年・約194万件)から、四半期別の取引件数と価格を分析する。

四半期別の取引件数——第4四半期が最少

四半期5年合計マンション戸建て土地
第1四半期(1-3月)508,817175,685213,911119,221
第2四半期(4-6月)509,510173,404217,199118,907
第3四半期(7-9月)490,791163,301213,407114,083
第4四半期(10-12月)434,062141,824182,499109,739

第1・第2四半期が約50.9万件と最多で、第4四半期は43.4万件と最少。差は約7.5万件(14.7%)にのぼる。特にマンションは第2四半期の17.3万件に対し第4四半期は14.2万件で18.3%少ない

四半期差の発生要因

  • 第1四半期(1-3月): 新年度・新学期に向けた住み替え需要のピーク
  • 第2四半期(4-6月): 入居後の住み替え、ボーナス商戦
  • 第3四半期(7-9月): 夏休み明けの本格検討、夏商戦
  • 第4四半期(10-12月): 年末年始の繁忙期で商談が停滞、買い手も様子見

価格は季節性がない——意外な実態

四半期マンション㎡単価中央値第1四半期比
第1四半期446,154基準
第2四半期440,000-1.4%
第3四半期450,000+0.9%
第4四半期447,059+0.2%

意外なことに、成約価格の四半期差はほぼ存在しない。最大でも1.4%の差で、誤差の範囲と言ってよい水準だ。「3月に売ると高く売れる」「12月に売ると安くなる」といった俗説は、実際のデータでは確認できない

「件数は動くが価格は動かない」が意味すること

この結果は、不動産市場の需給構造を反映している。

価格は相場が決める

不動産価格は「その時の相場」で決まる。季節によって売主の希望価格や買主の予算が変動するわけではない。マンションであれば、直近の取引事例・エリア相場・築年数・面積で単価が概ね決まってしまう。

件数は「活動量」を反映

一方、四半期ごとの件数差は買い手と売り手の活動量を示す。第1四半期(1-3月)は住み替え需要が多いため、買い手も売り手も多い。第4四半期は年末年始で双方が動きを控えるため、件数が減る。

売主にとっての「季節性の意味」

価格は変わらないが、件数が変わる——これは売主にとって以下のような意味を持つ。

意味1:買い手の「見つけやすさ」が変わる

第1・第2四半期は買い手の分母が多く、物件情報への関心度が高い。同じ広告を出しても問い合わせ数が違う。第4四半期は買い手が減り、内覧の機会も減る。

意味2:競合物件も多い

第1・第2四半期は売主も多く、競合物件が増える。「買い手が多い」だけでなく「競合も多い」ことを前提に、差別化戦略が重要になる。

意味3:成約までのスピードが変わる

同じ物件でも、第1四半期に売り出せば2ヶ月で成約するのが、第4四半期だと4ヶ月かかるケースがある。「売却完了までの期間」の観点では季節性が明確に存在する。

ベストな売り出しタイミング

第1候補:2月頃の売り出し

2月に売り出すと、以下のようなスケジュールで進む。

  • 2月上旬:売り出し(第1四半期の商戦ピークを捉える)
  • 2月下旬〜3月:内覧・問い合わせ集中、新年度前の買い手が検討
  • 3月中旬〜下旬:成約
  • 4月上旬:決済・引渡し(新年度に間に合う)

このサイクルで動くと、買い手の需要ピークと売主の販売期間が完全に一致する。

第2候補:9〜10月の売り出し

夏休み明けの9〜10月も商戦のピークだ。秋以降の転勤・年末年始の住み替えに合わせた買い手が動き始める。

  • 9月:売り出し
  • 10-11月:内覧・問い合わせ
  • 11月下旬〜12月上旬:成約
  • 12月下旬〜1月:決済・引渡し

避けたいタイミング

  • 12月中旬〜1月上旬: 年末年始で動きが止まる
  • お盆(8月中旬): 夏季休暇で内覧希望が減る
  • GW(5月連休): 長期休暇で商談が停滞

年をまたぐ売却の判断

売却時期を決める際のもう一つの観点が「固定資産税」だ。毎年1月1日時点の所有者に課税されるため、12月中に売却を完了すれば翌年の固定資産税を買い手に負担してもらえる。

ただし売買契約時に「固定資産税の日割り精算」を行うのが通例のため、1月1日を挟む売却では買主が「本年分を月割りで負担」する形になる。実質的な負担差は小さい。

俗説の検証

俗説1:「3月が一番高く売れる」

データ上、3月含む第1四半期の㎡単価中央値は44.6万円で、他四半期と1%以内の差しかない。「件数は多い」が正しく、「価格は高い」は誤りだ。

俗説2:「年末は安くなる」

第4四半期の㎡単価中央値は44.7万円で、第1四半期より0.2%高いというデータ。「安くなる」は事実ではない。ただし売却期間が長くなる分、焦って値下げするケースはあり得る。

俗説3:「新築は春に出るからその時期は中古も動く」

データ上、第1四半期の取引件数は確かに多い。新築供給との連動は間接的だが、結果として事実に近い。

30年の経験から言えば、「売り時」を意識しすぎる売主ほど結果が悪くなることが多い。「春に売ろう」と決めて夏から準備を始め、結局春に値下げ圧力で焦って売ることになる——というパターンだ。季節性はあくまで参考程度に捉え、「物件の準備が整ったら動き出す」という実務的な判断の方が成功率が高い。データが示すのは、「いつ売っても価格は変わらない」という事実だ。

まとめ——「売り時は価格ではなく活動量で判断」

不動産取引の季節性は、価格ではなく件数に現れる。第1・第2四半期が最も活発で、第4四半期が最少。しかし価格自体は通年でほぼ同じ水準で推移する。売却タイミングを決めるなら「いつ売れば高く売れるか」ではなく「いつ売れば買い手に見つけてもらえるか」という観点が正しい。2月と9月の2つのタイミングが特に有効だ。

この記事のまとめ

  • 取引件数は第1・第2四半期が最多、第4四半期は13〜15%少ない
  • 価格(㎡単価中央値)の四半期差はほぼゼロ、1〜2%以内
  • 「春が高い・年末安い」の俗説はデータで否定される
  • 季節性の意味は「買い手の見つけやすさ」「売却期間」
  • ベストな売り出しタイミングは2月、次善は9月
  • 避けたいのは年末年始・お盆・GW